チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉

文字の大きさ
30 / 131

30.久しぶりのSランク

しおりを挟む
 織田と周辺国との戦が混迷を極めてきた今日この頃。
 織田信長は京都へ上洛、比叡山延暦寺を包囲したらしい。
 好き勝手する坊さんには困ったものだね。
 しかもそのトップが今の天皇の弟さんなものだからこれまた厄介。
 来年には織田信長最大の残虐エピソードである比叡山焼き討ちがある予定だけれど、あれも後の世の人が太田牛一の書いた信長公記やらなんやらを読んで判断したにすぎないからね。
 戦国時代も未来も天皇陛下や皇族には政治的権限は無いけれど、日本にとって特別な人たちであるというのが日本人という民族に染み込んだ感覚だ。
 それを寺ごと焼いて殺したというのは誇張しすぎな気がするんだよ。
 そもそもそんなことをして朝廷が激怒しないかな。
 内心では強い権力と武力を持つ宗教勢力のトップである弟が羨ましかったり目障りだったりしても、一応陛下の弟なわけだからね。
 来年本当に比叡山焼き討ちが起こるのかは、織田信長とその家臣たち次第といったところかな。
 俺は織田信長が神も仏も天皇も、何も怖くないと思っているとは思えないけどなあ。
 めちゃくちゃ迷信を信じていたり縁起を気にしたりするからね、この時代の人たちは。
 特に家柄の良い武士にはその傾向が強いように思える。
 最近では勝三君の稽古に付いてくる奇妙丸君の側近の大人たちに、適当な迷信を吹き込んで怖がらせるのがマイブームなんだ。
 俺はあの人たちが雪さんに刀を抜いたことをまだ許してないからね。
 せいぜい夜トイレに行けなくなれば良いと思う。
 まあ実際トイレに行けなくなっているのは奇妙丸君のほうだったりするけど。
 ごめんね。
 今日もこれから殿の屋敷で稽古をつけにいかなければならないから、雪さんの作ってくれた美味しい朝ごはんをゆっくり味わう時間も無い。
 やっぱり仕事なんて引き受けるべきじゃないな。
 週3回の稽古でもこんなに憂鬱なんだから、毎日岐阜城に出仕していく侍たちのことを尊敬してしまうな。
 俺はご飯を手早く食べ、今日の分の10連ガチャを引く。
 ここ1ヶ月くらいはAランクが出てないから、そろそろ出て欲しいな。
 Sランクもゆきまるの卵以来出てないし、そろそろ来ないかな。
 いやしかし、出て欲しいと考えてしまうと物欲センサーによって出ない可能性が高まってしまう。
 神のガチャだから本当にそういうことやってそうで怖い。
 俺はゆきまるのモフモフなお腹を撫で、心をモフモフでいっぱいにしてガチャを引いた。

 Sランク
  ・月神の酒盃

 Aランク
  なし

 Bランク
  ・丈夫な十手

 Cランク
  ・米×10
  ・小麦粉×10
  ・にぼし×10
  ・芋羊羹×10
  ・菜切包丁

 Dランク
  ・ピンクの弁当箱
  ・夫婦茶碗
  ・三角定規

 おお、久しぶりに見た虹色の演出。
 なんか凄そうなアイテムが出たぞ。
 月神の酒盃か。
 何か分からないときはスマホで検索と。
 こちらに来た初日に出たアイテムである神槍グングニルというアイテムも、使い方が分からなかったから検索したら出てきたからね。
 まあ目標から半径1キロ以内を消滅させるとかいうとんでもない効果だったから結局使えないアイテムだったけど。
 核ミサイルかよって話だよね。
 そんなの使う機会があるとは思えない。
 この月神の酒盃というアイテムはそういう破壊的なアイテムじゃないといいのだけど。
 俺は『よくわかる戦国時代』をタップし、月神の酒盃 使い方で検索する。
 
『月神の酒盃は神酒ソーマが無限に湧き出す酒盃。神酒ソーマはすべての病を治し、あらゆる怪我を癒す力を持つ。健康なものが飲めば一口で寿命が1年延びる』

 ほぇぇ……。
 とんでもないアイテムが出てしまった。
 ゲームだったらただのHP全快アイテムで済むのだろうが、ここは現実世界だ。
 こんなアイテム持っていると知れただけで戦争が起きかねない。
 とりあえず大事にしまっておこう。
 殿や他の家臣のみんなには元気で居てほしいからたまにお酒や料理に混ぜて飲ませてあげるくらいはいいかな。
 俺はアイテムを収納の指輪にしまい、夫婦茶碗を今夜から使ってもらうように雪さんに渡して長屋を出た。
 殿には言えないことが増えていくな。




 勝三君や奇妙丸君、そのお付の方々がじっと見つめる中で善住坊さんを相手に型稽古をする。
 見られながらというのはどうしても慣れないなあ。
 そんな俺の胸中とは裏腹に、身体にインストールされた剣術の技能は力むことなく完璧に木刀を振るう。
 一通り型を終えて残心。
 最近はめっきり寒くなってきて身体の動きも固いと感じることが多い。
 こういう時期はしっかりと準備運動をして、運動の後は身体を冷やさないようにしないと怪我をしそうだ。
 そのへんも子供たちには教えておかないとな。
 
「くっ、悔しいがなんと美しい型じゃ……」
 
「ぐぬぬ、しかし先日あやつに吹き込まれた厠の花菱殿の話が作り話だったのは許せぬ」

「拙者もじゃ。あやつのせいで一番奥の厠に入れずあやうく漏らしそうになった」

「しかし稽古で打ち負かそうにも奴は強すぎる」

「ここは卑怯でも、全員でかからぬか」

「「「賛成じゃ」」」

 ひょんなことからお付の大人たち全員と試合をすることになってしまった。
 花子さんの話を戦国風にアレンジして話したのはやりすぎたようだ。
 神仏や祖霊の存在を信じているこの時代の人に怪談話はちょっと刺激が強すぎた。
 勝三君や奇妙丸君が見守る中、彼らの側近たちと木刀を構えて向かい合う。
 名のある武士は大体戦に行っている今の状況で岐阜に残っている時点で彼らが無名の武将であると分かるが、織田の嫡男の側付きを命じられるということはおそらく家柄は確かなのだろう。
 それなりの指南役を雇って厳しい稽古を積んできた形跡が見て取れる。
 まったく厄介な。
 まあこういう頭の固そうな構えをする人たちというのは、得てして常道を逸した手に弱いもの。
 俺は木刀の中ほどを持ち、肩に担いであたかも畑仕事に行く農夫のように彼ら方へ歩いていく。

「わ、我らを馬鹿にするか!!」

「骨の2、3本も圧し折ってくれる!!」

 こうして不真面目な構えを取ると自分が愚弄されたと思ってすぐに頭に血が上る。
 だから無名なんだよ君たちは。
 俺は迫り来る木刀を掻い潜り、姿勢を低くすると足刀で彼らの浮ついた軸足を刈り取った。

「のわぁっ」

 ばったばったとひっくり返るお付の大人たち。
 
「あなた方はすぐに頭に血が上るのが悪い癖ですね。だから人の妻に対しても軽々しく刀を抜いてしまうんですよ。一度出家でもして、精神修行でもしてきたらいかがですか?」

「「「ぐぬぬ……」」」
 
 ちくちくと嫌味を言う俺に対してほぞを噛んで悔しがるお付の大人たち。
 あと1ヶ月くらいは続けよう。
 本当に出家したらごめん。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...