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41.島と家庭とファンタジー
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八月になった。
本土のほうでは信長があっちにキレこっちにキレ大変らしいけど、こっちはそれどころじゃないんだよ。
本格的な台風シーズンの到来だ。
「飛ばされるぞー!!杭を打て!!」
「縄が足りん!」
「こっちに余ってる!」
一応島の西側の壁は10メートルくらいの高さまで造ったんだけど、台風はそんなもので防げるほど簡単なものじゃない。
高波はある程度防げても風は防げない。
全く効果が無いわけでは無いけれど、やっぱり建物があばら家だからちょっとの風で飛んでいってしまうんだ。
沖縄の民家にあるみたいな風除けの塀を作ってもみたんだけど、屋根だけ飛ばされたよ。
シーサーも作らないとダメだったか。
「旦那、今回の野分はなんとかなりそうですな」
「みんなの頑張りのおかげだよ」
野分っていうのはこの時代の台風の呼び方みたいだ。
最初なんのことだか分からなくてスマホで検索したら出てきた。
『よくわかる戦国時代』のアプリを初めて本来の意味で使った気がした。
「野分に全部持って行かれちまったときはどうなるかと思いましたが、なんとかこの島での暮らしも目処が立ってきましたね」
「まだ野分の問題しか解決してない。まだまだだよ」
この島にはいくつもの問題がある。
水、台風、広さ、本土からの距離、いつか来るであろう地震。
正直暮らしにくい場所だ。
だけど、なんだかそれも悪くないような気がしてきた。
この島を造り始めてそろそろ1年近くになるけれど、愛着のようなものが出てきたのかもしれない。
今は戦国時代だからまだまだ人の住んでいない島はたくさんあるけれど、もうここを放棄して違う島を開拓するなんてできない。
家を建設する技術も少しずつだけど上がってきているし、問題はひとつひとつ解決していけばいつかは天下に名高い島になる日も来るはずだ。
と思っていた。
今日ガチャでこのアイテムが出るまでは。
Sランク
・ダンジョンコア
他はいつも通りの品ばかりだったので割愛する。
名前の通り、このアイテムはダンジョンの核だ。
ダンジョンといえば、ゲームなんかでおなじみのあれのこと。
迷路があって、罠があって、モンスターがいて、宝箱がある。
そんなダンジョンだ。
その核。
つまりこれを埋め込めばどこでもダンジョンになるということ。
そしてダンジョンを自由自在に建造することができるということだ。
こんなの島の建造に使うに決まっている。
俺はさっそく島の中心部である、最初に置いた大岩に向かう。
ダンジョンコアを埋め込むとしたらここかなと思う。
俺は収納の指輪に入れていたダンジョンコアを取り出した。
ダンジョンコアはリンゴくらいの大きさで紫色をした水晶玉のようなもので、周囲の空間を歪ませる不思議な波動を放っている。
岩に近づけると、岩の表面が水のように波打つ。
少し面白い。
波打った岩の表面にコアを押し付けると、まるで粘土に押し付けているかのようにコアが入り込んでいった。
半分入ったあたりで止まり、コアが光り出す。
スマホがブーブーと振るえたような気がして、取り出す。
『ダンジョンコアを設置しますか?YES/NO』
ダンジョンコアもスマホで操作できるんだ。
個別にコンソールがあっても面倒なだけなのでまあいいけど。
俺はYESをタップ。
ダンジョンコアが眩いばかりの光を放ち、設置した岩が形を変える。
光が収まると、そこには一つの椅子があった。
椅子っていうか、玉座?
王様が座っていそうな感じの偉そうな椅子がポツンと一つ置かれていて、その座面にはダンジョンコアが埋め込まれている。
これがダンジョンなのかな。
スマホを見ると新しいアプリがダウンロードされていた。
『ダンジョン』というアプリだ。
もうちょっとひねれ。
俺はアプリをタップした。
開いたアプリにはたくさんの項目があってごちゃごちゃしている印象を受ける。
とりあえず分かることは、このDPというポイントが0だからたぶん何もできないんだろうなってことだ。
結局島に椅子がひとつできただけか。
まあDPが貯まれば何かできるようになるかもしれないし、要観察だな。
沖ノ鳥島のダンジョン化はなかなか進まない。
ダンジョンアプリのヘルプで確認したのだが、DP、ダンジョンポイントというのはダンジョンにお客さんが入らないと貰えないらしい。
お客さんっていうか、侵入者かな。
まあダンジョン内にダンジョンマスター(俺)以外の人間が入らないとダメってことだね。
でもダンジョンっていってもまだ椅子ひとつだからね。
島のみんなには交代で毎日椅子に座ってもらっている。
もう少しダンジョンポイントが貯まれば椅子を2つにできるんだけどね。
今のところは微々たる量のダンジョンポイントを稼ぐ日々だ。
そろそろ10月に入って台風も減ってきた。
島のみんなも一息つけるだろう。
俺も今日は島には行かない予定だ。
連日の土木工事で疲れがたまっているように感じる。
こんな日は長野か群馬あたりまでゆきまるに乗って出かけて、温泉にでも入るに限る。
とりあえず今日の分のガチャを引こう。
いつものように秀吉に祈り、10連ガチャをタップ。
演出は赤。
出たアイテムも特に大したものはなかった。
いちご大福くらいかな、めぼしいものは。
少し前にSランクのダンジョンコアが出たばかりだからやっぱり運気がまだ戻ってきてないんだよね。
思わず溜息が出てしまう。
「善次郎さん、少しお話があります」
ふと見上げると雪さんが真剣な顔で俺の顔を覗き込んでいてびっくりした。
俺も少したたずまいを直してスマホを置く。
話ってなんだろうか、なんか緊張する。
「お話は子供のことです……」
ああ、その話だったか。
俺と雪さんは結婚してそろそろ1年ちょっとになる。
それなりにやることもやっているのに、ちょっと遅いよね。
お互いに神酒ソーマを何度も飲んだことがあるので、どこか身体に不調があって子供ができないというのも考えづらい話だ。
となれば、俺が未来人であることが原因の可能性が高い。
俺達の子供が北畠家を再興できたらなんて言っておいて申し訳ないかぎりだ。
「ごめんね。たぶん俺のせいだ」
「いえ、私は責めているわけでは無いのです。ただ、少し寂しいと思います。ゆきまるはしゃべれないですし、善次郎さんは島に行ってしまいますから」
俺はどうやら、島にかまけるあまり家庭をないがしろにしてしまっていたようだ。
反省だ。
「雪さん、ごめん。これからはもっと家にいる時間を……」
「頼もう!!!」
なんだよ今重要なところなのに。
雪さんへのフォローは野太い男の声に遮られた。
本土のほうでは信長があっちにキレこっちにキレ大変らしいけど、こっちはそれどころじゃないんだよ。
本格的な台風シーズンの到来だ。
「飛ばされるぞー!!杭を打て!!」
「縄が足りん!」
「こっちに余ってる!」
一応島の西側の壁は10メートルくらいの高さまで造ったんだけど、台風はそんなもので防げるほど簡単なものじゃない。
高波はある程度防げても風は防げない。
全く効果が無いわけでは無いけれど、やっぱり建物があばら家だからちょっとの風で飛んでいってしまうんだ。
沖縄の民家にあるみたいな風除けの塀を作ってもみたんだけど、屋根だけ飛ばされたよ。
シーサーも作らないとダメだったか。
「旦那、今回の野分はなんとかなりそうですな」
「みんなの頑張りのおかげだよ」
野分っていうのはこの時代の台風の呼び方みたいだ。
最初なんのことだか分からなくてスマホで検索したら出てきた。
『よくわかる戦国時代』のアプリを初めて本来の意味で使った気がした。
「野分に全部持って行かれちまったときはどうなるかと思いましたが、なんとかこの島での暮らしも目処が立ってきましたね」
「まだ野分の問題しか解決してない。まだまだだよ」
この島にはいくつもの問題がある。
水、台風、広さ、本土からの距離、いつか来るであろう地震。
正直暮らしにくい場所だ。
だけど、なんだかそれも悪くないような気がしてきた。
この島を造り始めてそろそろ1年近くになるけれど、愛着のようなものが出てきたのかもしれない。
今は戦国時代だからまだまだ人の住んでいない島はたくさんあるけれど、もうここを放棄して違う島を開拓するなんてできない。
家を建設する技術も少しずつだけど上がってきているし、問題はひとつひとつ解決していけばいつかは天下に名高い島になる日も来るはずだ。
と思っていた。
今日ガチャでこのアイテムが出るまでは。
Sランク
・ダンジョンコア
他はいつも通りの品ばかりだったので割愛する。
名前の通り、このアイテムはダンジョンの核だ。
ダンジョンといえば、ゲームなんかでおなじみのあれのこと。
迷路があって、罠があって、モンスターがいて、宝箱がある。
そんなダンジョンだ。
その核。
つまりこれを埋め込めばどこでもダンジョンになるということ。
そしてダンジョンを自由自在に建造することができるということだ。
こんなの島の建造に使うに決まっている。
俺はさっそく島の中心部である、最初に置いた大岩に向かう。
ダンジョンコアを埋め込むとしたらここかなと思う。
俺は収納の指輪に入れていたダンジョンコアを取り出した。
ダンジョンコアはリンゴくらいの大きさで紫色をした水晶玉のようなもので、周囲の空間を歪ませる不思議な波動を放っている。
岩に近づけると、岩の表面が水のように波打つ。
少し面白い。
波打った岩の表面にコアを押し付けると、まるで粘土に押し付けているかのようにコアが入り込んでいった。
半分入ったあたりで止まり、コアが光り出す。
スマホがブーブーと振るえたような気がして、取り出す。
『ダンジョンコアを設置しますか?YES/NO』
ダンジョンコアもスマホで操作できるんだ。
個別にコンソールがあっても面倒なだけなのでまあいいけど。
俺はYESをタップ。
ダンジョンコアが眩いばかりの光を放ち、設置した岩が形を変える。
光が収まると、そこには一つの椅子があった。
椅子っていうか、玉座?
王様が座っていそうな感じの偉そうな椅子がポツンと一つ置かれていて、その座面にはダンジョンコアが埋め込まれている。
これがダンジョンなのかな。
スマホを見ると新しいアプリがダウンロードされていた。
『ダンジョン』というアプリだ。
もうちょっとひねれ。
俺はアプリをタップした。
開いたアプリにはたくさんの項目があってごちゃごちゃしている印象を受ける。
とりあえず分かることは、このDPというポイントが0だからたぶん何もできないんだろうなってことだ。
結局島に椅子がひとつできただけか。
まあDPが貯まれば何かできるようになるかもしれないし、要観察だな。
沖ノ鳥島のダンジョン化はなかなか進まない。
ダンジョンアプリのヘルプで確認したのだが、DP、ダンジョンポイントというのはダンジョンにお客さんが入らないと貰えないらしい。
お客さんっていうか、侵入者かな。
まあダンジョン内にダンジョンマスター(俺)以外の人間が入らないとダメってことだね。
でもダンジョンっていってもまだ椅子ひとつだからね。
島のみんなには交代で毎日椅子に座ってもらっている。
もう少しダンジョンポイントが貯まれば椅子を2つにできるんだけどね。
今のところは微々たる量のダンジョンポイントを稼ぐ日々だ。
そろそろ10月に入って台風も減ってきた。
島のみんなも一息つけるだろう。
俺も今日は島には行かない予定だ。
連日の土木工事で疲れがたまっているように感じる。
こんな日は長野か群馬あたりまでゆきまるに乗って出かけて、温泉にでも入るに限る。
とりあえず今日の分のガチャを引こう。
いつものように秀吉に祈り、10連ガチャをタップ。
演出は赤。
出たアイテムも特に大したものはなかった。
いちご大福くらいかな、めぼしいものは。
少し前にSランクのダンジョンコアが出たばかりだからやっぱり運気がまだ戻ってきてないんだよね。
思わず溜息が出てしまう。
「善次郎さん、少しお話があります」
ふと見上げると雪さんが真剣な顔で俺の顔を覗き込んでいてびっくりした。
俺も少したたずまいを直してスマホを置く。
話ってなんだろうか、なんか緊張する。
「お話は子供のことです……」
ああ、その話だったか。
俺と雪さんは結婚してそろそろ1年ちょっとになる。
それなりにやることもやっているのに、ちょっと遅いよね。
お互いに神酒ソーマを何度も飲んだことがあるので、どこか身体に不調があって子供ができないというのも考えづらい話だ。
となれば、俺が未来人であることが原因の可能性が高い。
俺達の子供が北畠家を再興できたらなんて言っておいて申し訳ないかぎりだ。
「ごめんね。たぶん俺のせいだ」
「いえ、私は責めているわけでは無いのです。ただ、少し寂しいと思います。ゆきまるはしゃべれないですし、善次郎さんは島に行ってしまいますから」
俺はどうやら、島にかまけるあまり家庭をないがしろにしてしまっていたようだ。
反省だ。
「雪さん、ごめん。これからはもっと家にいる時間を……」
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なんだよ今重要なところなのに。
雪さんへのフォローは野太い男の声に遮られた。
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