チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉

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46.地震後の土佐

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 ゆきまるに乗って土佐の地に降り立つと、先ほどの大地震の傷跡があちらこちらに散見できる。
 土佐どころか、四国一円にかなりの被害があったようだ。
 すべての町や村に行って治療や炊き出しをしてあげたいところだが、生憎と人手が足りない。
 俺の力を知っているのは雪さんと島の人たちだけだ。
 雪さんは治安の悪化した場所には連れてきたくないので、俺が手を借りることができるのは島の住人だけだ。
 全員は連れてこられないのでせいぜいまとめ役の平蔵さんと辰五郎さん、喜三郎さんの3人くらいだろう。
 その人数では四国全域を回ることはできない。
 申し訳ないが将来の殿の領地である土佐周辺だけに絞らせてもらおう。
 大体四国の半分ほどか、それでも結構厳しいな。
 焼け石に水かもしれないけれど、やれることをやってみよう。
 俺はテレポートで平蔵さんたちを連れてくる。

「大将、こりゃあひでえな……」

「なんてこった……」

「大将は怪我人の治療に専念してくれ。炊き出しは俺達に任せておいてくれ」

「ありがとう。頼むよ」

 大鍋や米俵、調味料類などを収納の指輪から取り出して平蔵さんたちに渡し、俺は怪我人を探して歩き出した。
 土佐には大きな町はまだ無い。
 寺の門前町や城下町と呼ぶには小さなものばかりだ。
 だから俺たちがいるのは現在の土佐の支配者である長宗我部家の浦戸城から一番遠い村になる。
 あまり侍は統治というものをしない時代だけど、長宗我部家も多少の支援くらいはするかもしれない。
 長宗我部家の侍と鉢合わせるのも面倒だし、救済措置の手が回らなさそうな田舎村を中心に治療や炊き出しを行う予定だ。
 村の様子は見るからに悪い。
 家の造りがあまりしっかりしていないからなのか、ほとんどの住居が倒壊してしまっている。
 下敷きになってしまった人も多いだろう。
 あちこちで泣き声や悲鳴が聞こえてくる。
 俺達のような余所者が村に入り込んでいるというのに、誰も気にした様子は無い。
 それどころではないのだろう。

「誰か!手を貸してくれ!!」

 近くで助けを求める声がした。
 声のしたほうへ行ってみると、20代半ばくらいの男が必死になって崩れた家の下敷きになった娘を助けようとしていた。
 俺はすぐに走っていって手伝った。

「すまねえ、すまねえ……」

 男は泣いていた。
 それもそのはずだ。
 男の娘であろう10歳くらいの女の子のお腹には折れた柱が突き刺さっていた。
 虚ろな目をして、弱い息を辛うじて吐き出す女の子。
 もう長くないのは一目瞭然だ。
 女の子を閉じ込めるように上から圧し掛かっている家の残骸は、重くて大人2人でも持ち上がらない。

「くそっ……すまねえ、すまねえ、菊……」

 男は自分の無力に涙を流して娘の名前を呟く。
 なんだか俺もやるせない気分になってきてしまった。
 本当は治療と炊き出しだけにしようと思っていたのにな。

「離れてください」

「な、何を……」

 俺は腰に差した刀を抜く。
 男は俺が娘を楽にするつもりだと判断したようで、涙をポロポロ流して娘に最後のお別れを言い、離れた。
 大丈夫、娘さんは助けてみせるよ。
 俺の腰の刀は今日はめずらしくAランクのよく切れる刀だ。
 こんなこともあるだろうと思ってこの刀を差しておいてよかった。
 普通の刀ではさすがにこんなに太い丸太や角材は切れなかった。
 俺は一息で女の子を捕らえている邪魔な木材をすべて切った。
 崩れないように慌てて押さえる。
 小さくなった木材は簡単に持ち上げることができた。
 女の子の上の木材をすべてどかし、口に神酒ソーマの原液を垂らす。
 そして一思いに腹の柱を抜き去る。

「うっ……」

 あまり鋭くない木の柱で貫かれた女の子の腹の傷は、思わず胃液がせりあがってくるほど酷いものだった。
 しかし口から吸収された神酒ソーマがあっという間にその傷を癒していく。
 念のためもう一度ソーマの原液を飲ませておく。
 
「ごほっ、ごほっ……」

 口に流し込まれた液体にむせる女の子。
 むせるくらいの力が戻ってきたということだ。
 なんとかなってよかった。
 今までここまでの大怪我の人に神酒ソーマを飲ませたことがなかったから、正直自分でも信じることができていなかった。
 しかし死んでいなければすべての怪我や病気を癒す神酒の力を今日ようやく思い知ったよ。

「菊!?どうして……。あんな大怪我、助かるはずが……」

「大丈夫。夢なんかじゃありませんよ。俺は大天狗の弟子なんです。大怪我でも直せる霊薬を持っています」

 最近もう慣れてきてしまったこの嘘。
 この時代の人には存外通用する。

「大天狗……それじゃあ本当に……」

「ええ」

「菊!菊!よかった、よかったなあ!!」

 男は涙を流して喜んだ。
 女の子は容態が安定したのか、安らかな寝息を立てている。
 もう大丈夫だろう。
 俺はそっと立ち上がった。

「待ってください!あなた様のお名前をお聞かせできませんか?俺は竹内惣左衛門ってもんです。一応長宗我部様の兵です。半分は百姓ですが」

「俺は山田善次郎といいます。俺は美濃の織田軍の山内伊右衛門っていう侍の家臣です。たぶん知らないと思いますけど」

「織田軍山内伊右衛門様の家臣の山田善次郎様ですね。そのお顔とお名前、生涯忘れはしません。必ず、このご恩はいつか返させていただきます。この命に代えましても」

「い、いや、そんなに頑張らなくてもそのうち銭とかで返してくれたらいいよ……」

 なんかちょっと重いものを背負うことになりそうで嫌なんだよね、恩返しとか。
 銭の恩くらいがちょうどいい。
 俺はいつまでも深く頭を下げ続ける竹内惣左衛門さんをチラチラ気にしながら次の怪我人を探した。
 全然頭上げないな。
 さっさと去ろう。

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