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48.初陣
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夏になった。
島のダンジョン化はそこそこ進んで、すでに島民たちが暮らしているあたりはすべてダンジョンの領域だ。
井戸も2箇所に設置が完了しているし、家も破壊不能オブジェクトとなった。
そこで暮らす人たちからは毎日豊富なDPが得られるために、島の開拓が更に進むという好循環が起き始めている。
今後、沖ノ鳥島は加速度的に豊かになっていくだろう。
しかし島にばかりかまけているわけにもいかないのが木っ端侍の辛いところ。
久しぶりに殿に戦の出陣命令が出されたのだ。
織田信長からサラリーを頂いて働いている戦国サラリーマンである殿は、命令されたからには戦に行かなければならない。
正確には命令が下ったのは殿が与力している秀吉にだが。
敵は前と同じ浅井・朝倉。
実は最近武田の動きがかなり活発になっているらしいのだ。
織田信長はすでに足利義昭と不仲になっていて、その義昭が信長包囲網なんていうものを構築しようと信長の周辺諸国大名に連絡して回っているのだ。
信長に将軍にしてもらったというのに恩知らずな人だ。
武田が本格的に織田・徳川同盟と戦おうという気配を察知した信長は、そろそろ浅井・朝倉と決着をつけることを決意。
それでこの度の出兵だ。
柴田勝家、佐久間信盛、丹羽長秀、そして秀吉。
そうそうたる面々に声をかけた信長。
それもそのはずで、実は浅井長政のいる小谷城を攻めるのは奇妙丸君なのだ。
ついに初陣だ。
信長は5万もの軍勢を率いて一気に近江を攻めるらしい。
越前から朝倉の増援が来る前に浅井を滅ぼしてしまうつもりなのかもしれない。
今回はほぼほぼ勝ち戦だということで、奇妙丸君の初陣にはちょうどいいと判断したようだ。
殿は秀吉の与力という家臣でもなく同僚でもない微妙な立ち位置なので勝ち戦に連れて行ってもらえるかどうかは運次第だった。
だが最近は武闘派の武士として少しずつ名声を高めているおかげか、なんとか連れて行ってもらえることとなった。
一応俺も山内家剣術指南役という役職をもらっているので付いていかないわけにもいかない。
木っ端武家の剣術指南役ってなんか意味あるのかな。
そりゃあ殿が少しは有名になってくれればあの山内一豊に剣を教えた人みたいな感じで俺も有名になれるかもしれないけど、今は何の価値もない役職だ。
この時代の剣術って兵法とかも含まれたような気がするんだけど、俺はそんなの教えられないよ。
岐阜城で行われたのは奇妙丸君の具足初めの儀。
初めて鎧兜をつけるときの儀式だ。
大名クラスの武家ともなると、鎧一つで大騒ぎだな。
俺も初めての鎧だったけど、勘左衛門さんに木刀でバシバシ身体中を叩かれて強度チェックをされただけだったよ。
あれが山内家流の具足初めらしいけど、もうちょっと優しくできないかな。
しかし鎧っていうのは重いな。
ガチャからはこの時代に合った鎧が出てないんだよな。
タクティカルスーツやボディアーマーを着てくるわけにもいかないから、しょうがなく俺の鎧はこの時代のものだ。
木と動物の皮と鉄と布で出来たこの時代の鎧はかなり重たい。
俺の鎧は足軽用の身軽さが売りの鎧だが、それでもたぶんアメフトのプロテクターより重たいからね。
アメフトやったことないから知らないけど。
でもこの鎧を着て40ヤードもダッシュできないことだけは確かだ。
俺と違って武将用の全身金属塊みたいな鎧を着せられているにも拘わらず、奇妙丸君はしっかりとした足取りで歩いている。
さすがに身体の出来が違うな。
小さい頃から馬に乗り慣れているこの時代の武士は体幹がしっかりしている。
俺も大人しいゆきまるに乗るばかりではなくて、もっと暴れ馬みたいな奴を乗りこなさないとな。
「うぉぉぉっ」
「「「うぉぉぉぉぉっ!!」」」
奇妙丸君が少し気恥ずかしそうに気合の声を上げると、呼応するように織田軍すべての武士が声を張り上げる。
俺も一応上げたけど声って全然響かないんだな。
怒号にも近い他の武士たちの声に掻き消されてしまって、俺の声は自分の耳にすら届かなかった。
おかしいな、右隣の慶次の声はめちゃくちゃ聞こえるんだけどな。
左隣の善住坊さんの声も結構聞こえる。
腹から声出せってことかね。
単純に腹筋と肺活量が足りないのかも。
そんなこんなで織田軍5万の軍勢は北近江の小谷城を目指して出陣した。
織田軍の作戦は基本的に数で押す作戦になる。
弱小だった頃は色々策を弄した信長だったけれど、すでに5万の兵を動員できるほどの大名だ。
戦はやっぱり数だ。
数が多いほうが大体勝つ。
信長は秀吉がいる横山城から小谷城を攻め、近所に砦を築いて軍事拠点とするつもりなのだ。
しかし近江にいる敵は浅井だけではない。
一向宗の扇動する一向一揆もまた、織田の進軍を阻むだろう。
一向一揆は別に浅井の味方というわけでもないが、侍と見ると無差別に攻撃してくる厄介な奴らだ。
俺達の役目は信長と奇妙丸君が小谷城をストレートに攻められるように、一向一揆を抑えること。
いや、抑えるというのは少しオブラートに包みすぎたかな。
皆殺しにするということだ。
なかなかハードは命令じゃないか。
宗教を否定するわけではないが、クソだな。
何も知らない民衆を煽って好き勝手する坊さん共には辟易する。
だが民衆も、一揆を起こした以上は憐れな被害者ではない。
これを許せば侍の統治というものが崩壊してしまう。
坊さんに騙されるようでは、まだまだ民主主義の世は遠い未来の話だろう。
だから一向一揆は討たねばならない。
もう少しだけ、侍という統治者が必要だから。
しかし最近の信長は結構イラついているから、結構無茶な命令とかされるかもしれない。
とりあえず、命大事に。
山内家は安全第一だよ。
島のダンジョン化はそこそこ進んで、すでに島民たちが暮らしているあたりはすべてダンジョンの領域だ。
井戸も2箇所に設置が完了しているし、家も破壊不能オブジェクトとなった。
そこで暮らす人たちからは毎日豊富なDPが得られるために、島の開拓が更に進むという好循環が起き始めている。
今後、沖ノ鳥島は加速度的に豊かになっていくだろう。
しかし島にばかりかまけているわけにもいかないのが木っ端侍の辛いところ。
久しぶりに殿に戦の出陣命令が出されたのだ。
織田信長からサラリーを頂いて働いている戦国サラリーマンである殿は、命令されたからには戦に行かなければならない。
正確には命令が下ったのは殿が与力している秀吉にだが。
敵は前と同じ浅井・朝倉。
実は最近武田の動きがかなり活発になっているらしいのだ。
織田信長はすでに足利義昭と不仲になっていて、その義昭が信長包囲網なんていうものを構築しようと信長の周辺諸国大名に連絡して回っているのだ。
信長に将軍にしてもらったというのに恩知らずな人だ。
武田が本格的に織田・徳川同盟と戦おうという気配を察知した信長は、そろそろ浅井・朝倉と決着をつけることを決意。
それでこの度の出兵だ。
柴田勝家、佐久間信盛、丹羽長秀、そして秀吉。
そうそうたる面々に声をかけた信長。
それもそのはずで、実は浅井長政のいる小谷城を攻めるのは奇妙丸君なのだ。
ついに初陣だ。
信長は5万もの軍勢を率いて一気に近江を攻めるらしい。
越前から朝倉の増援が来る前に浅井を滅ぼしてしまうつもりなのかもしれない。
今回はほぼほぼ勝ち戦だということで、奇妙丸君の初陣にはちょうどいいと判断したようだ。
殿は秀吉の与力という家臣でもなく同僚でもない微妙な立ち位置なので勝ち戦に連れて行ってもらえるかどうかは運次第だった。
だが最近は武闘派の武士として少しずつ名声を高めているおかげか、なんとか連れて行ってもらえることとなった。
一応俺も山内家剣術指南役という役職をもらっているので付いていかないわけにもいかない。
木っ端武家の剣術指南役ってなんか意味あるのかな。
そりゃあ殿が少しは有名になってくれればあの山内一豊に剣を教えた人みたいな感じで俺も有名になれるかもしれないけど、今は何の価値もない役職だ。
この時代の剣術って兵法とかも含まれたような気がするんだけど、俺はそんなの教えられないよ。
岐阜城で行われたのは奇妙丸君の具足初めの儀。
初めて鎧兜をつけるときの儀式だ。
大名クラスの武家ともなると、鎧一つで大騒ぎだな。
俺も初めての鎧だったけど、勘左衛門さんに木刀でバシバシ身体中を叩かれて強度チェックをされただけだったよ。
あれが山内家流の具足初めらしいけど、もうちょっと優しくできないかな。
しかし鎧っていうのは重いな。
ガチャからはこの時代に合った鎧が出てないんだよな。
タクティカルスーツやボディアーマーを着てくるわけにもいかないから、しょうがなく俺の鎧はこの時代のものだ。
木と動物の皮と鉄と布で出来たこの時代の鎧はかなり重たい。
俺の鎧は足軽用の身軽さが売りの鎧だが、それでもたぶんアメフトのプロテクターより重たいからね。
アメフトやったことないから知らないけど。
でもこの鎧を着て40ヤードもダッシュできないことだけは確かだ。
俺と違って武将用の全身金属塊みたいな鎧を着せられているにも拘わらず、奇妙丸君はしっかりとした足取りで歩いている。
さすがに身体の出来が違うな。
小さい頃から馬に乗り慣れているこの時代の武士は体幹がしっかりしている。
俺も大人しいゆきまるに乗るばかりではなくて、もっと暴れ馬みたいな奴を乗りこなさないとな。
「うぉぉぉっ」
「「「うぉぉぉぉぉっ!!」」」
奇妙丸君が少し気恥ずかしそうに気合の声を上げると、呼応するように織田軍すべての武士が声を張り上げる。
俺も一応上げたけど声って全然響かないんだな。
怒号にも近い他の武士たちの声に掻き消されてしまって、俺の声は自分の耳にすら届かなかった。
おかしいな、右隣の慶次の声はめちゃくちゃ聞こえるんだけどな。
左隣の善住坊さんの声も結構聞こえる。
腹から声出せってことかね。
単純に腹筋と肺活量が足りないのかも。
そんなこんなで織田軍5万の軍勢は北近江の小谷城を目指して出陣した。
織田軍の作戦は基本的に数で押す作戦になる。
弱小だった頃は色々策を弄した信長だったけれど、すでに5万の兵を動員できるほどの大名だ。
戦はやっぱり数だ。
数が多いほうが大体勝つ。
信長は秀吉がいる横山城から小谷城を攻め、近所に砦を築いて軍事拠点とするつもりなのだ。
しかし近江にいる敵は浅井だけではない。
一向宗の扇動する一向一揆もまた、織田の進軍を阻むだろう。
一向一揆は別に浅井の味方というわけでもないが、侍と見ると無差別に攻撃してくる厄介な奴らだ。
俺達の役目は信長と奇妙丸君が小谷城をストレートに攻められるように、一向一揆を抑えること。
いや、抑えるというのは少しオブラートに包みすぎたかな。
皆殺しにするということだ。
なかなかハードは命令じゃないか。
宗教を否定するわけではないが、クソだな。
何も知らない民衆を煽って好き勝手する坊さん共には辟易する。
だが民衆も、一揆を起こした以上は憐れな被害者ではない。
これを許せば侍の統治というものが崩壊してしまう。
坊さんに騙されるようでは、まだまだ民主主義の世は遠い未来の話だろう。
だから一向一揆は討たねばならない。
もう少しだけ、侍という統治者が必要だから。
しかし最近の信長は結構イラついているから、結構無茶な命令とかされるかもしれない。
とりあえず、命大事に。
山内家は安全第一だよ。
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