チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉

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63.グアム

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 武田信玄が亡くなったようだ。
 武田を見張らせておいたゴーストからそのような知らせを受けた。
 武田家は信玄の遺言によってこの事実をしばらく隠すようだから、他の侍が知ることとなるのはもう少し後になるだろう。
 しかし武田家の中は少し慌ただしいことになっているらしい。
 史実通りならばまだ松姫様の身には危険は無いはずだが、どうにも危なっかしいらしくゴーストが相談してきたのだ。
 念のためゴーストを10体に増やして警戒させておいた。
 松姫様やその近しい者に危害が及びそうになったら介入してもいいと許可も出した。
 あまり武田が不安定なら俺も一度直接様子を見に行ってみたほうがいいかもしれない。
 ゴーストたちはスケルトンよりも頭はいいが、子供のように支離滅裂な伝え方をしてくるので状況が分かりにくいのだ。
 ポイントをケチらずにナイトメアゴーストにしておけばよかったかな。
 しかし1体につき500ポイントの差は大きい。
 10体で5000ポイントだ。
 普通の宝箱が5つ開けられる。
 最近宝箱にハマっているせいでダンジョンポイントがすべて箱数で見えてしまう。
 ガチャ中毒者の末期症状であることはすでに自覚している。
 ガチャは1日に1回の10連ガチャを回したら終わりだ。
 だが宝箱はダンジョンポイントを費やせばいくらでも開けられるのだ。
 ダンジョンの宝箱という機能はまさに課金ガチャだ。
 こんなのやめられるわけがない。
 最近の俺は四六時中ポイントが溜まれば宝箱を開けている。
 もちろん島の開発のためのポイントは残してあるが、それ以外はほぼすべて宝箱に費やしている。
 ダメだと分かっていてもついついあと一つと開けてしまうのだ。
 もはやこれは精神疾患。
 依存症だ。
 一生付き合っていくしかない病気だ。
 
「あ、またスクロールだ。しかもダブり」

 またひとつ、宝箱を開けてしまった。
 当初俺が予想したとおり、良い宝箱は平均してAランク相当のものが出る宝箱だった。
 まだスペシャル宝箱は開けたことが無いが、こちらもSランク相当のものが入っていると考えて間違いないだろう。
 いつかポイントが余って使い道に困ったらスペシャル宝箱も開けてみたいと思っている。
 だが今は、良い宝箱で十分かな。
 良い宝箱から出てくるAランクのものといえば、物理法則に捉われない不可思議な武器や魔法のスクロールなどのファンタジーなアイテムだ。
 しかし困ったことにまだ出たことの無いアイテムほど出現確率は低く、すでに持っているアイテムは何回も出たりする。
 俗に言うダブりというやつだ。
 魔法のスクロールはおそらくダブって使っても魔力の上昇のほうの効果は得られると思う。
 だが、その使い方はいささかもったいない。
 雪さんに覚えてもらおうと思ってダブったやつをあげてみたんだけど、火起こしに便利なファイアボール以外はいらないと言われてしまった。
 島の人たちにも魔法やスクロールのことは話していないから他の人にはあげようがない。
 仕方が無く収納の指輪に死蔵している。
 今度ダンジョンのモンスターたちにでも使わせてみるかな。
 魔法が使えるオーガとか、異世界だったら災害指定モンスターとかになりそう。
 ここも元の世界から分岐した世界だから異世界みたいなものだけど。
 アナザーワールドとパラレルワールドの違いだね。
 俺はダブったウィンドカッターのスクロールを収納の指輪に入れ、もう一つ良い宝箱を作成した。
 流れるように次の宝箱を開けてしまう俺だが、別に無軌道に宝箱を開けまくっているわけではないんだよ。
 実は欲しい魔法、もしくはアイテムがあるのだ。
 それは翻訳、つまり未知の言語が分かるようになる能力を持ったもの。
 スペイン人の襲来によって、伝兵衛さんというスペイン語の通訳さんを引き抜くことに成功した俺たちだったが、依然として世界は未知の言語に満ちている。
 特に早急に使えるようになりたいのは、グアムのチャモロ人たちの言葉だ。
 グアムにはおおよそ10万人くらいのチャモロ人たちが住んでいると言われている。
 あそこもフィリピンと同じように今はスペインの植民地になってしまっていたはずだが、この間スペイン人を2万人ばかし捕まえたおかげで近海の兵力は手薄だ。
 チャモロ人たちを支援してスペイン帝国の統治を跳ね除けるには絶好の機会。
 このままスペイン人たちがキリスト教を広めれば、チャモロ人たちは必ず反抗する。
 なぜならスペインの宣教師たちは先祖の祖霊を崇拝することを強く禁止するからだ。
 チャモロ人たちは伝統文化を否定されて怒り、蜂起する。
 だが銃器や大砲をたくさん持っているスペイン帝国に勝てるはずが無い。
 このまま行けば何万人ものチャモロ人たちが虐殺されるだろう。
 信長も同じようなことをやっているから一応織田軍に所属している俺はあまり非難する権利は無いのかもしれない。
 だから非難はしないが、ガチャ中毒者としてはダンジョンポイントがもったいないなと思ってしまう。
 それだけの人から毎日入ってくるポイントは岐阜のポイントも凌駕していることだろう。
 ぜひ、グアム島をダンジョンの領域に加えたいものだ。
 そのためには、すぐにチャモロ語の使える通訳もしくはアイテムか魔法が必要なのだ。
 今の時代グアムに日本人がいる可能性なんて絶望的だから、アイテムか魔法が手っ取り早い。
 自分でチャモロ語を勉強している時間も無いからね。
 と、ここまでが俺が毎日のように宝箱を開けている言い訳でした。






 やってきましたグアム。
 沖ノ鳥島とそこまで気候に違いは無いけれど、現代の日本でグアムといえば一度は行ってみたい南国の楽園というイメージだった。
 実際緑が生い茂り始めたばかりの沖ノ鳥島と比べて格段に色鮮やかな植物に包まれている。
 プラスチックゴミの全く流れ着いていない真っ白な砂浜、遠浅の海。
 あとすぐに日焼けしちゃうくらい強い日差し。
 日焼け止めクリーム塗っておこう。

「あの、善次郎さん。この格好、変じゃないですか?」

「変じゃないよ。とても綺麗だ。似合っている」

 今日はグアムの雰囲気を感じるだけのつもりなので、雪さんも一緒だ。
 いつもの着物姿だと暑いので、今日は一味違った服を着てきている。
 男の憧れ、真っ白なワンピースだ。
 南国でバカンスなら着物はちょっと遊び難いよね。
 だからワンピースを俺がデザインし、雪さんに縫ってもらったのだ。
 ただ、この時代の日本は婦人下着が発達していないからワンピース1枚だけだと色々とまずい。
 俺は考えに考え、フィリピンで買った踊り子の衣装を下に着てもらった。
 しかしこれは、完全に透けブラみたいになってしまった。
 踊り子衣装だけよりもエロい気がする。
 
「善次郎さん、本当に変じゃないのですか?」

「変じゃないって。この島は暑いから住んでる人はみんな薄着だし、雪さんよりも薄着の人だっているよ」

「ですが、女人がこのように肌を晒すのは……」

「他の人のいる場所にはいかないから。見るのは俺だけだよ」

 雪さんのこの姿を他の男になんて見せたくない。
 今日はこのビーチは貸切だ。
 周りはゴーストたちに見張らせている。
 誰も入ってくることはない。
 もう一度言おう、誰も入ってくることはないんだ。



 
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