77 / 131
77.信長という侍
しおりを挟む
「な、何者と申されましても。人間でございますが」
と小粋なおとぼけを挟んでみるも信長は鼻息一つ漏らさない。
真顔だ。
月代刈り込んだおっさんの真顔って信じられないくらい怖いんだね。
「そのような巫山戯た問答に付き合うつもりはない。百歩譲ってお主がどこの誰であるか、なぜそのように金を持っておるのかは問わぬ。肝心なのはお主がワシの敵であるかどうかよ」
「はぁ……」
なぜだか溜息が出た。
信長の前なのに。
だが溜息を吐きたくもなるというものだ。
敵か味方か、そんなことを聞いてどうするんだ。
敵だったら殺すのか?
その考え方がまず嫌いだ。
確かに信長は敵が多いから、織田に入り込んだ外敵を排除する必要があるのかもしれない。
だけど、もっとやり方というものがあるだろう。
信長はそういうデリケートな気遣いができないんだよな。
謀反を起こしちゃう家臣の気持ちがよくわかるよ。
信長という男は確かに人を惹きつけるカリスマと知略を兼ね備えた英雄中の英雄なのだろう。
だが同時に、話していると無性に謀反が起こしたくなる魔力のようなものも持ち合わせているのだと思う。
俺も勇者ミツヒデのことも笑えない。
「言え。敵か、味方か」
「敵って言ったらどうなるんですか?」
「知れたことよ。斬る」
壁のからくり扉が回転し、数人の刀を持った男たちが入ってくる。
壁の向こうに人の気配がするのでどうなっているのかと思えば、隠し部屋というやつか。
まあどこの馬の骨とも知れない奴を信長と二人きりにするわけはないよな。
仕方がないこととはいえ、今この状況ではそれすらも無性に腹が立つ。
仕事に私情を持ち込むなというのが口癖の先輩を思い出した。
まあその先輩は典型的な意識高い系だったのだけれど、信長はリアルガチだ。
感情を無くし、ただ冷徹に判断を下すだろう。
本当に、ムカつく侍だ。
「刀を突きつけて、敵か味方か尋ねるなんて無粋だと思いませんか?」
「酔狂で侍やっとるわけじゃないんでな」
酔狂でやってるんじゃないならなんでやってるんだよ。
何が楽しくてこんな殺し合いを続けているというのか。
やっぱり信長とは、決定的に気が合わないな。
1%も信長の気持ちがわからないもの。
敵か味方かで言ったら、やっぱり敵かな。
消極的敵。
「やっぱり味方は無いです。敵か味方という選択肢しか無いのならば、敵ですね」
「やれ」
「「「はっ」」」
刀を抜いた男が斬りかかってくる。
積極的に敵対する気はなかったのだが、信長はよほど俺のことが嫌いと見える。
俺も信長が嫌いだけどね。
両想いになれて嬉しいね。
俺は刀を抜かずにゆっくりと待ち構えた。
信長の敵となったからといって、信長が殺したいほど憎いわけでもない。
ましてやその部下なんて、顔も見たことが無い人ばかりだ。
殺すことはしない。
俺は斬りかかってきた男たちの背後にテレポートし、一番後ろにいた男の肩と股関節をすばやく外す。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ」
勘九郎君の取り巻きだった侍たちにもやったことのある技だけど、関節を無理やり外されるのはメチャクチャ痛いらしい。
でも後できちんとはめれば俺の使える武術の中ではこの技が一番怪我が少なく済むのだ。
悪いが痛みは我慢して欲しい。
男たちは俺が背後に移動したことに気がついたのか、振り返り俺を包囲するような陣形に組み替える。
しかし俺はまたも背後にテレポートする。
またひとり、地を這い痛みに絶叫する。
「ぐぁぁぁぁぁっ」
「なんなんだ!なんなんだよこいつ!!」
どう見ても一瞬で背後に移動している俺を前に、男たちも狼狽え始める。
「敵だったらどうするんでしたっけ?斬る?だったかな。人一人斬るのにどれだけかかるんですか?ねえねえ」
ちょっと煽りがすぎるとは自分でもわかっているのだが、信長を前にするとなぜか挑発するようなことを言ってしまうのだ。
なんかの呪いでももらってるんじゃないのかね、信長。
「さっさと仕留めぬか!」
「わ、わかっております!」
もはや武士の誇りも何もかも捨てて俺を捕らえようとルパンダイブしてくる男たち。
そんな男たちに俺は、サンダーを放つ。
バチンと空中に放電現象が起こり、男たちが感電する。
場内に敷かれた畳の上に倒れてビクンビクンと痙攣する男たち。
一応脈を確認する。
死んでないね。
よかった。
サンダーを人に向けて放ったのは始めてだから加減がわからなかった。
ちょうどよく気絶させることができたようだ。
「面妖な技を使う。お主、もしやアヤカシの類いか?」
「人間ですよ。正真正銘のね」
「ならば妖術使いといったところか。ぬかったな、ワシもこれまでか。辞世の句を考える。しばし待て」
まるでこうなることがわかっていたかのように落ち着き払った様子の信長。
何から何まで苛つく男だ。
まるで人生なんかゲームだとでも思っているかのようだ。
侍こじらせると一周回ってゲーム脳になるのだろうか。
「命が惜しくないのですか?」
「惜しいな。もう少しで天下が取れたものを。あと5年、いや、3年あったら……」
決定的な価値観の違い。
それが人を苛つかせる原因なのだろうな。
人は自分と違うものを無意識のうちに拒絶する。
信長は未来人である俺どころか、この時代の人とも価値観が違いすぎる。
理解できないから、否定する。
何を言っているかわからないから、とりあえず否定する。
そうやって否定され続けてきたから、きっと信長は自分以外をそういうものだと思っているのかもしれない。
しかしその態度が、更に周りの人々の心を逆なでする。
気がつけば誰も信長を理解しないし、信長も誰にも理解されようとしない。
俺も、そんな信長の周囲の人たちと同じなのだろう。
理解できないものを前に、とりあえず否定している状態。
しかしそれはそれで、なぜだか腹がたった。
今日は腹が立ってばかりだ。
もう反抗期という歳でもないのにね。
だが今度の苛立ちは、自分に対してのもの。
大勢の信長の取り巻きたちと、同じことをしている自分への怒り。
侍はすぐに刀を抜くと皮肉を言う俺が、いつの間にかすぐに力で解決しようとするようになってしまっていることへの焦り。
そういった感情を飲み込み、俺は口を開く。
「あんた、何がしたいんですか?」
まずは相互理解が大切だ。
と小粋なおとぼけを挟んでみるも信長は鼻息一つ漏らさない。
真顔だ。
月代刈り込んだおっさんの真顔って信じられないくらい怖いんだね。
「そのような巫山戯た問答に付き合うつもりはない。百歩譲ってお主がどこの誰であるか、なぜそのように金を持っておるのかは問わぬ。肝心なのはお主がワシの敵であるかどうかよ」
「はぁ……」
なぜだか溜息が出た。
信長の前なのに。
だが溜息を吐きたくもなるというものだ。
敵か味方か、そんなことを聞いてどうするんだ。
敵だったら殺すのか?
その考え方がまず嫌いだ。
確かに信長は敵が多いから、織田に入り込んだ外敵を排除する必要があるのかもしれない。
だけど、もっとやり方というものがあるだろう。
信長はそういうデリケートな気遣いができないんだよな。
謀反を起こしちゃう家臣の気持ちがよくわかるよ。
信長という男は確かに人を惹きつけるカリスマと知略を兼ね備えた英雄中の英雄なのだろう。
だが同時に、話していると無性に謀反が起こしたくなる魔力のようなものも持ち合わせているのだと思う。
俺も勇者ミツヒデのことも笑えない。
「言え。敵か、味方か」
「敵って言ったらどうなるんですか?」
「知れたことよ。斬る」
壁のからくり扉が回転し、数人の刀を持った男たちが入ってくる。
壁の向こうに人の気配がするのでどうなっているのかと思えば、隠し部屋というやつか。
まあどこの馬の骨とも知れない奴を信長と二人きりにするわけはないよな。
仕方がないこととはいえ、今この状況ではそれすらも無性に腹が立つ。
仕事に私情を持ち込むなというのが口癖の先輩を思い出した。
まあその先輩は典型的な意識高い系だったのだけれど、信長はリアルガチだ。
感情を無くし、ただ冷徹に判断を下すだろう。
本当に、ムカつく侍だ。
「刀を突きつけて、敵か味方か尋ねるなんて無粋だと思いませんか?」
「酔狂で侍やっとるわけじゃないんでな」
酔狂でやってるんじゃないならなんでやってるんだよ。
何が楽しくてこんな殺し合いを続けているというのか。
やっぱり信長とは、決定的に気が合わないな。
1%も信長の気持ちがわからないもの。
敵か味方かで言ったら、やっぱり敵かな。
消極的敵。
「やっぱり味方は無いです。敵か味方という選択肢しか無いのならば、敵ですね」
「やれ」
「「「はっ」」」
刀を抜いた男が斬りかかってくる。
積極的に敵対する気はなかったのだが、信長はよほど俺のことが嫌いと見える。
俺も信長が嫌いだけどね。
両想いになれて嬉しいね。
俺は刀を抜かずにゆっくりと待ち構えた。
信長の敵となったからといって、信長が殺したいほど憎いわけでもない。
ましてやその部下なんて、顔も見たことが無い人ばかりだ。
殺すことはしない。
俺は斬りかかってきた男たちの背後にテレポートし、一番後ろにいた男の肩と股関節をすばやく外す。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ」
勘九郎君の取り巻きだった侍たちにもやったことのある技だけど、関節を無理やり外されるのはメチャクチャ痛いらしい。
でも後できちんとはめれば俺の使える武術の中ではこの技が一番怪我が少なく済むのだ。
悪いが痛みは我慢して欲しい。
男たちは俺が背後に移動したことに気がついたのか、振り返り俺を包囲するような陣形に組み替える。
しかし俺はまたも背後にテレポートする。
またひとり、地を這い痛みに絶叫する。
「ぐぁぁぁぁぁっ」
「なんなんだ!なんなんだよこいつ!!」
どう見ても一瞬で背後に移動している俺を前に、男たちも狼狽え始める。
「敵だったらどうするんでしたっけ?斬る?だったかな。人一人斬るのにどれだけかかるんですか?ねえねえ」
ちょっと煽りがすぎるとは自分でもわかっているのだが、信長を前にするとなぜか挑発するようなことを言ってしまうのだ。
なんかの呪いでももらってるんじゃないのかね、信長。
「さっさと仕留めぬか!」
「わ、わかっております!」
もはや武士の誇りも何もかも捨てて俺を捕らえようとルパンダイブしてくる男たち。
そんな男たちに俺は、サンダーを放つ。
バチンと空中に放電現象が起こり、男たちが感電する。
場内に敷かれた畳の上に倒れてビクンビクンと痙攣する男たち。
一応脈を確認する。
死んでないね。
よかった。
サンダーを人に向けて放ったのは始めてだから加減がわからなかった。
ちょうどよく気絶させることができたようだ。
「面妖な技を使う。お主、もしやアヤカシの類いか?」
「人間ですよ。正真正銘のね」
「ならば妖術使いといったところか。ぬかったな、ワシもこれまでか。辞世の句を考える。しばし待て」
まるでこうなることがわかっていたかのように落ち着き払った様子の信長。
何から何まで苛つく男だ。
まるで人生なんかゲームだとでも思っているかのようだ。
侍こじらせると一周回ってゲーム脳になるのだろうか。
「命が惜しくないのですか?」
「惜しいな。もう少しで天下が取れたものを。あと5年、いや、3年あったら……」
決定的な価値観の違い。
それが人を苛つかせる原因なのだろうな。
人は自分と違うものを無意識のうちに拒絶する。
信長は未来人である俺どころか、この時代の人とも価値観が違いすぎる。
理解できないから、否定する。
何を言っているかわからないから、とりあえず否定する。
そうやって否定され続けてきたから、きっと信長は自分以外をそういうものだと思っているのかもしれない。
しかしその態度が、更に周りの人々の心を逆なでする。
気がつけば誰も信長を理解しないし、信長も誰にも理解されようとしない。
俺も、そんな信長の周囲の人たちと同じなのだろう。
理解できないものを前に、とりあえず否定している状態。
しかしそれはそれで、なぜだか腹がたった。
今日は腹が立ってばかりだ。
もう反抗期という歳でもないのにね。
だが今度の苛立ちは、自分に対してのもの。
大勢の信長の取り巻きたちと、同じことをしている自分への怒り。
侍はすぐに刀を抜くと皮肉を言う俺が、いつの間にかすぐに力で解決しようとするようになってしまっていることへの焦り。
そういった感情を飲み込み、俺は口を開く。
「あんた、何がしたいんですか?」
まずは相互理解が大切だ。
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる