80 / 131
80.箱屋山内と食事改革
しおりを挟む
「というわけで、商売を始めようと思っております。若様には一応報告しておいたほうが良いと思いまして」
「ほう?これは雅な箱であるな。錠が付いておるのか。なかなか面白い商品だ。私も10ほどもらおうか」
「ありがとうございます」
商売を始めるにあたって、勘九郎君に黙ってこっそりとやるわけにもいかない。
そのくらいで勘九郎君は何も言わないだろうが、義理というものを通しておかなければならない。
そんなわけで勘九郎君のところに商品を持って挨拶に来たのだが、いきなり10個も買ってくれるとは幸先がいい。
殿は千代さんの言うとおりこの箱を1個2貫で売るつもりなのでいきなり20貫の売り上げだ。
20貫といえば未来の感覚で言えば1万2万というお札をぺらぺらと単体で出すような金額ではない。
100万円の札束をポンと出すような感覚だ。
さすがにボンボンは違うね。
貰っているお小遣いの額が違う。
この時代の商売は基本掛け売りだ。
お金をすぐに払うのではなく、売掛金としておき年末あたりに一気に回収する。
ツケと言ってもいいかもしれない。
そんなわけですぐに金が入ってくるわけでもないが、帳簿には計上することができる。
俺は鍵付きの良い宝箱の空き箱を1個につき1貫で殿たちに卸しているので、殿の儲けと俺の儲けは等しくなる。
殿が儲かれば俺も同じだけ儲かるというわけだ。
勘九郎君のおかげで殿も俺も10貫の儲けが出たわけだ。
ありがたやありがたや。
甲斐で俺が松姫様のお兄さんに渡した結納品の総額には遠く及ばないけど、少しだけ貸しを軽くしてあげてもいいと思った。
「河尻殿、お主もどうか」
「はっ、某もなかなかに雅な宝物入れかと存じます。妻と自分の分、家臣たちにも下賜したいので某も10ほどいただけますでしょうか」
「あ、ありがとうございまする」
また10個売れた。
河尻さんは本名を河尻秀隆さんといい、元々信長の直参だった人だ。
勘九郎君は織田の若様だが、以前から殿の屋敷にお忍びで剣術の稽古に来ていた。
だから殿にとっては中学の頃から知っている上司の子供くらいの感覚だと思うのだろうが、河尻さんは違う。
河尻さんは威厳も実績もある正真正銘の織田家の重臣だ。
殿は勘九郎君よりも河尻さんのほうが話していて緊張するらしい。
そしてなぜそんな織田家の重臣である河尻さんが勘九郎君のところにいるのかといえば、それは俺達が信長に内緒で行った甲斐遠征が一因だ。
謁見では甲斐に行ったことを褒めた信長だったが、やはり心配だったようであの後すぐにこの人が勘九郎君の補佐役として派遣されてきた。
まあ殿は適当だし、勝三さんはイエスマンだからね。
しっかりと勘九郎君の行動を止めてくれる家臣がいたほうがいいと思ったのだろう。
河尻さんはまさにその任にぴったりの人物だ。
ボンボン育ちでメンタルの弱い勘九郎君のことを時には叱り、時には優しく宥めてくれる真面目で頼りになる家臣。
勘九郎君に一番必要だけど、今まで周りにはあまりいなかったタイプの人だ。
この人のおかげで勘九郎君は大丈夫だろうと思える安心感がある。
おまけに箱を10個も買ってくれる人となれば、拝みたくもなる。
ありがたやありがたや。
他にも河尻さんに対抗心を燃やした勘九郎君の取り巻きの侍たちが1つ2つずつ買ってくれて、今日だけでかなりの儲けとなった。
箱屋山内は幸先のいいスタートを切った。
「なんかさ、この時代ってご飯が美味しくないよね」
「そうでしょうか。私は北畠家にいたときよりも美味しいご飯が食べられて幸せだと思っていましたが」
「いや、雪さんのご飯は美味しいよ。でも、他のところで食べるご飯が美味しくないんだ」
「まあそうでしょうね。今の時代に、食べるものにこだわりを持てるほど余裕のある人などは限られていますから」
そうなのだ。
この時代、食べ物の味にこだわっていては生きていけない。
不味いものでも栄養がありそうであれば食べなければ飢えてしまう。
おまけに戦争であちこちが通行止めになったり野伏せりが出たりするものだから、行商人が商品を届けるのも命がけ。
流通は発達せず、遠くでしか手に入らない食材を食べるには莫大な金が必要になる。
食材や調味料が限られているため料理も同じようなものしか作れない。
味のいいものを食べようなんて思うにはある程度余裕が必要なんだ。
みんな今日もご飯が食べられたってレベルだから、料理が発展する余地が無い。
「でもさ、誰でも美味しいものが食べたいと思うんだよ」
「そうですね。美味しいものを食べると、幸せな気持ちになれます。でも、お金が無いと美味しいものは食べられません」
「俺はそれを変えたいんだ。お金が無くても、工夫だけで美味しいものって食べることができないかな」
何か安く手に入るものを使って、料理を美味しくする。
最近では岐阜の城下町にも、俺が通っていた定食屋のように簡単な料理を出す店が増えてきているんだ。
この流れに乗らない手はない。
貧乏人にも食えるとは言わないから、ちょっと金を持った人ならば美味しいものが食べられる程度の新しい定番を作ることはできないだろうか。
そしてあわよくば金を稼げないだろうか。
俺があれほどの金を持っているのは、こんな風に商売をしていたおかげなのだと思わせるようなダミーの商売。
戦国時代の食文化と俺の金策、どちらも解決することのできる一石二鳥のいいアイデアだと自分では思うのだけど。
「そんなに簡単ではないと思いますよ」
「だよね」
簡単に美味しいものを作れるのならばみんなやっているはずだ。
俺にあるのはチートなガチャから出たアイテムと、未来の知識。
スマホアプリ『よくわかる戦国時代』で検索すれば、大抵のことは出てくる。
カレーだってなんだって作ろうと思えばできるわけだ。
しかしこんなスパイスのスの字も見たことないような時代の日本で、お決まりのカレーなんぞ作ってみても誰も再現できない。
ガチャから出た未来の食材や調味料を使っても同じことだ。
俺が目指すのは誰でも真似ができて安く売れる料理だ。
そして使う食材が安ければなおよし。
さて、そんな料理はあっただろうか。
「雪さん、助けて」
「はぁ、しょうのない人ですね」
やっぱり雪さんは頼りになる。
「ほう?これは雅な箱であるな。錠が付いておるのか。なかなか面白い商品だ。私も10ほどもらおうか」
「ありがとうございます」
商売を始めるにあたって、勘九郎君に黙ってこっそりとやるわけにもいかない。
そのくらいで勘九郎君は何も言わないだろうが、義理というものを通しておかなければならない。
そんなわけで勘九郎君のところに商品を持って挨拶に来たのだが、いきなり10個も買ってくれるとは幸先がいい。
殿は千代さんの言うとおりこの箱を1個2貫で売るつもりなのでいきなり20貫の売り上げだ。
20貫といえば未来の感覚で言えば1万2万というお札をぺらぺらと単体で出すような金額ではない。
100万円の札束をポンと出すような感覚だ。
さすがにボンボンは違うね。
貰っているお小遣いの額が違う。
この時代の商売は基本掛け売りだ。
お金をすぐに払うのではなく、売掛金としておき年末あたりに一気に回収する。
ツケと言ってもいいかもしれない。
そんなわけですぐに金が入ってくるわけでもないが、帳簿には計上することができる。
俺は鍵付きの良い宝箱の空き箱を1個につき1貫で殿たちに卸しているので、殿の儲けと俺の儲けは等しくなる。
殿が儲かれば俺も同じだけ儲かるというわけだ。
勘九郎君のおかげで殿も俺も10貫の儲けが出たわけだ。
ありがたやありがたや。
甲斐で俺が松姫様のお兄さんに渡した結納品の総額には遠く及ばないけど、少しだけ貸しを軽くしてあげてもいいと思った。
「河尻殿、お主もどうか」
「はっ、某もなかなかに雅な宝物入れかと存じます。妻と自分の分、家臣たちにも下賜したいので某も10ほどいただけますでしょうか」
「あ、ありがとうございまする」
また10個売れた。
河尻さんは本名を河尻秀隆さんといい、元々信長の直参だった人だ。
勘九郎君は織田の若様だが、以前から殿の屋敷にお忍びで剣術の稽古に来ていた。
だから殿にとっては中学の頃から知っている上司の子供くらいの感覚だと思うのだろうが、河尻さんは違う。
河尻さんは威厳も実績もある正真正銘の織田家の重臣だ。
殿は勘九郎君よりも河尻さんのほうが話していて緊張するらしい。
そしてなぜそんな織田家の重臣である河尻さんが勘九郎君のところにいるのかといえば、それは俺達が信長に内緒で行った甲斐遠征が一因だ。
謁見では甲斐に行ったことを褒めた信長だったが、やはり心配だったようであの後すぐにこの人が勘九郎君の補佐役として派遣されてきた。
まあ殿は適当だし、勝三さんはイエスマンだからね。
しっかりと勘九郎君の行動を止めてくれる家臣がいたほうがいいと思ったのだろう。
河尻さんはまさにその任にぴったりの人物だ。
ボンボン育ちでメンタルの弱い勘九郎君のことを時には叱り、時には優しく宥めてくれる真面目で頼りになる家臣。
勘九郎君に一番必要だけど、今まで周りにはあまりいなかったタイプの人だ。
この人のおかげで勘九郎君は大丈夫だろうと思える安心感がある。
おまけに箱を10個も買ってくれる人となれば、拝みたくもなる。
ありがたやありがたや。
他にも河尻さんに対抗心を燃やした勘九郎君の取り巻きの侍たちが1つ2つずつ買ってくれて、今日だけでかなりの儲けとなった。
箱屋山内は幸先のいいスタートを切った。
「なんかさ、この時代ってご飯が美味しくないよね」
「そうでしょうか。私は北畠家にいたときよりも美味しいご飯が食べられて幸せだと思っていましたが」
「いや、雪さんのご飯は美味しいよ。でも、他のところで食べるご飯が美味しくないんだ」
「まあそうでしょうね。今の時代に、食べるものにこだわりを持てるほど余裕のある人などは限られていますから」
そうなのだ。
この時代、食べ物の味にこだわっていては生きていけない。
不味いものでも栄養がありそうであれば食べなければ飢えてしまう。
おまけに戦争であちこちが通行止めになったり野伏せりが出たりするものだから、行商人が商品を届けるのも命がけ。
流通は発達せず、遠くでしか手に入らない食材を食べるには莫大な金が必要になる。
食材や調味料が限られているため料理も同じようなものしか作れない。
味のいいものを食べようなんて思うにはある程度余裕が必要なんだ。
みんな今日もご飯が食べられたってレベルだから、料理が発展する余地が無い。
「でもさ、誰でも美味しいものが食べたいと思うんだよ」
「そうですね。美味しいものを食べると、幸せな気持ちになれます。でも、お金が無いと美味しいものは食べられません」
「俺はそれを変えたいんだ。お金が無くても、工夫だけで美味しいものって食べることができないかな」
何か安く手に入るものを使って、料理を美味しくする。
最近では岐阜の城下町にも、俺が通っていた定食屋のように簡単な料理を出す店が増えてきているんだ。
この流れに乗らない手はない。
貧乏人にも食えるとは言わないから、ちょっと金を持った人ならば美味しいものが食べられる程度の新しい定番を作ることはできないだろうか。
そしてあわよくば金を稼げないだろうか。
俺があれほどの金を持っているのは、こんな風に商売をしていたおかげなのだと思わせるようなダミーの商売。
戦国時代の食文化と俺の金策、どちらも解決することのできる一石二鳥のいいアイデアだと自分では思うのだけど。
「そんなに簡単ではないと思いますよ」
「だよね」
簡単に美味しいものを作れるのならばみんなやっているはずだ。
俺にあるのはチートなガチャから出たアイテムと、未来の知識。
スマホアプリ『よくわかる戦国時代』で検索すれば、大抵のことは出てくる。
カレーだってなんだって作ろうと思えばできるわけだ。
しかしこんなスパイスのスの字も見たことないような時代の日本で、お決まりのカレーなんぞ作ってみても誰も再現できない。
ガチャから出た未来の食材や調味料を使っても同じことだ。
俺が目指すのは誰でも真似ができて安く売れる料理だ。
そして使う食材が安ければなおよし。
さて、そんな料理はあっただろうか。
「雪さん、助けて」
「はぁ、しょうのない人ですね」
やっぱり雪さんは頼りになる。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる