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兎屋亀吉

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97.蟹江城主

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 俺がダンジョンを建てたのは蟹江城下町のすぐ近く。
 また少し宝箱を開けるのを我慢して溜めたダンジョンポイントにより、全12階層、全長240メートルを越える巨大な塔を建てた。
 その外観は一言で言い表すならば、金ぴか。
 朝日を浴びると眩しくて直視できないほどに煌びやかな黄金の塔だ。
 本当は町中に造りたかったのだけど、ギラギラと太陽の光を反射する塔を人が住んでいる場所に建てては未来のソーラーパネルのように暑いとか眩しいとかの迷惑がかかる可能性がある。
 そんな住民感情も考えてちょっとだけ町から離れた場所に建てた。
 金ぴかにしたのは人々の欲望を刺激しようという意図なのだけど、ダンジョンの建築物に金ぴかにするオプションなんてなかったから雪斎にちょっとだけ加工してもらった。
 もちろん全部金で作ったら金がいくらあっても足りないから金メッキだ。
 雪斎の金属加工は魔導ナノマシンというのを使っての分子プリンターみたいなやりかたなので、人の手では作り出せないくらい表面が綺麗に仕上がっている。
 これだけの大きさの建造物を丸っと全部金でコーティングしているというのに、繋ぎ目も無いし傷も無い。
 一片の曇りも無い鏡面仕上げだ。
 さすがに全面鏡面タワーだと飾り気が無いので、表面は雪斎の自由にしていいと言っておいた。
 朝になって塔を見たらなんかエジプト風の壁画みたいなやつが描かれていた。
 ちゃんとストーリーがあって、主役は一人の男。
 宇宙船のようなものに乗ってやってきたゴブリンを倒して宝を奪って王になったみたいな話だ。
 ちょっとそれっぽくて面白いじゃないか。
 SF映画の冒頭でエジプトあたりから見つかる壁画みたいでなんかワクワクする。
 
「でもこれ、どういう設定なの?王になったってどこで?なんで日本にダンジョンが現れてそこに壁画が描かれてるの?」

『王が手に入れた宝とは、ゴブリンたちが乗ってきた宇宙船の管理者権限だったのでござる。そして宇宙船にはテクノロジーの粋が詰まっていたでござるよ。王とは、地球の王でござる。地球上で敵無しとなった王は、戯れに世界各地にダンジョンを出現させて自分の元にたどり着く勇者を待っているでござるよ』

 なんか色々混ざってるな。
 どことなく俺の状況と似ているような気もするし。
 まあこの壁画を見ればゴブリンを倒せば何かが手に入るということは分かってもらえるだろう。
 実際には手に入れただけで王になれるアイテムなんかはダンジョンに置いてないから、ちょっと詐欺っぽい気がするけど。
 手に入れた食べ物や財宝なんかを使って頑張ればこの時代なら一国の王になれないこともないかもしれないから、完全な詐欺ってわけでもない。
 詐欺じゃないよね?





「入らないなぁ」

 蟹江ダンジョン第12階層のボス部屋。
 俺はフカフカソファに座って大画面モニターに映るダンジョン前の光景を見て溜息を吐き出した。
 塔は直径30メートルほどの円柱型をしており中央部にこれ見よがしに出入り口が大口を開けているのだが、誰も入ろうとしない。
 朝になって大勢の人が塔を見に来たのだが、人々がまず最初に行なったのは金の盗掘だ。
 ノミとハンマーを持ってきてガッツンガッツンやり始めたのだ。
 すでに俺は雪斎が施したメッキをダンジョンに取り込んで破壊不能オブジェクトに設定しているので、金は一ミリグラムたりとも盗むことはできない。
 ノミとハンマーが壊れるだけだ。
 しかし人々は先を越されてなるかとばかりに塔を囲んでガッツンガッツン叩きまくる。
 ノミとハンマーなんて持ってない人は尖った石で叩きまくる。
 叩く手のほうから血が出ているのにも構わずだ。

『人の欲望とは、恐ろしいものでござるな』

「そうだね、中入ってくれたら金塊とかも用意してあるんだけどな」

 金塊は簡単に手に入ってしまっては金の価値が落ちてしまうので、ちょっと良い装備を持たせたゴブリンを倒せば手に入るようにしてある。
 でもこの光景を見てしまうと、金塊なんて手に入れた人はどうなってしまうんだろうかと心配になる。
 ちょっと強めのゴブリンを打ち負かした武勇に優れた人が、民衆に群がられて殴殺される様が目に浮かぶようだ。
 
「やっぱり最初は米だけのほうがいいかもな」

『そうでござるな。段階的にアップグレードしていけばいいのでござりまする』

 第1階層に設置するのは米だけにしておこう。
 塔を登ればそれだけ良い物や貴重なものが手に入るとかは鉄板だよね。
 敵も強くしないといけないから大変だな。

「お、侍が来たな」

 馬に乗ってやってきた20人ほどの侍。
 着物の仕立てが上品なところを見るに、貧乏侍じゃないな。
 蟹江城は長島一向一揆と戦うための重要拠点だから、城主は木っ端侍ではないと思うけど。
 はて、今の城主は誰だったかな。

「盗掘をやめろ!!やめぬか!!」

「散れ!」

 塔にへばりついて少しでも金を引き剥がそうとしていた民衆を追っ払った侍たち。
 民衆は不服そうにしていたが、侍が刀に手をかけると逃げていった。
 塔を囲む人がいなくなると、一人の侍が馬から降りてきた。

「ほー、なんじゃろうな、この建造物は……」

「一夜にしてこのようなものが建つなど、聞いたことがありませぬな」

「墨俣一夜城でも驚かされたものじゃが、これはさすがに人間には不可能じゃろうな」

「神仏の御業にございますかね」

「一向一揆のようなことを申すな。うんざりしておるのだ」

 黄金の塔を見上げて家臣と話し込むその姿を、俺は見たことがあった。
 この人、滝川一益だ。


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                あとがき
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すみませんが次話から更新頻度を落とさせていただきます。
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