103 / 131
103.一を知り十を悟る者
しおりを挟む
頭の良い勘九郎君は親子丼を食べて世の無常を知った。
すなわち親鳥の肉とその卵を一緒に料理することが残酷だと感じるのは人間から見た価値観であり、鶏から見れば殺され食べられることは等しく残酷であると。
そしてそれは鶏以外も同じこと。
すべての生き物が全力で生きている。
生きるために食らい合っている。
戦乱ばかりのこの人の世もまた、食らい合いだ。
別の視点からの価値観が必要になる。
物事はある一面から見ただけでは凝り固まった価値観しか得ることができない。
様々な視点からの価値観を想像する力こそが、これからの世を変えていくために必要なことなのだということを勘九郎君は親子丼から学んだ。
親子丼は美味い。
冒涜的なほどに。
多くの人がそれを食べれば、これからの世では親鳥の肉と卵を一緒に料理して食べることを残酷だとは思わなくなるだろう。
同じように『人から物を奪ってはならん』『人を殺してはならん』というような常識が人々に根付けばいずれ、泰平の世が訪れるのではないか。
勘九郎君は親子丼を食べ終わった後、俺達にそう語った。
俺は感動して涙が出そうになった。
まさか親子丼を食べさせてその発想が出てくるとは思わなかったが、なんにせよこれは良い変化だ。
本能寺の変が起きなければこれからの世を背負って立つであろう勘九郎君の中に、その思想が芽生えたのは僥倖と言っても過言ではないだろう。
本当に頭の良い人の発想力には驚かされる。
勘九郎君の中ではなにやら泰平の世への大望がグツグツと煮え立つように湧き上がっているようで、戦を前にした緊張もすでに無い。
もう心配はいらないと思うが、俺達は勘九郎君が流れ弾に当たるとかいうくだらない死に方をしないように頑張って守ろう。
「構えぇぇっ!狙えぇぇぇっ!!撃てぇぇぇっ!!!」
数百丁もの火縄銃がほぼ同時に発砲され、大きな銃声が鳴り響く。
やはり火縄銃の怖さの一つはこの音だ。
この音が鳴れば誰かが死ぬ。
その事実は最前線で戦う者たちに大きな恐怖を与える。
脳に恐怖が刷り込まれる。
銃の脅威をみんなが認識する。
そうなったとき、ずらりと並べられた銃口から逃げずにいられる者など皆無だ。
もはやこれは蹂躙と言ってもいい代物だった。
号令を出した河尻さんも苦い顔をしている。
「こ、降伏だ!降伏する!!」
「頼む、撃たないでくれ!」
「死にたくねえ!!」
火縄銃の掃射を二度繰り返すと大半の一揆勢は長島城に逃げ込み、逃げることもできなかった人たちは降伏した。
史実とは違い、信長から降伏する者も斬れという命令は受けていない。
俺達は降伏を受け入れた。
しかし侍ならともかく指揮権も無いただの農民が降伏してきてもそれほど意味は無い。
捕虜にしても仕方が無いので身ぐるみ剥がされて裸で放り出されることになる。
今は夏なので運が良ければ死にはしないだろう。
「ふぅ、なんとも一揆との戦は後味が悪い」
「そうですな。しかもこちらには鉄砲がある。これでは虐殺ですよ」
「しかもまだこれから長島城の兵糧攻めが残っていますし」
「兵糧攻めは包囲するほうも根気がいりますからな」
鉄砲を持った兵をずらりと一列に並べ一斉に放つ信長の鉄砲隊には、もはや個人の武勇が介入する余地は無い。
破ろうと思ったら同じく鉄砲を並べての撃ち合いか、大砲でも持ってこなければならないだろう。
自軍の被害を考えないのならば、圧倒的な数で押し切るという手も取れるだろう。
しかしどれも一揆勢に取れる手ではないし、それを指揮する人も向こうにはいない。
おまけに武具も、銭の力で鉄を大量購入できる織田よりも数段劣る。
正直言って信長の領地は税が高い。
長島の住人は信長に税を納めているわけではないが、彼らの言うことにも一理くらいはあるのだ。
お坊さんたちが自分を棚に上げすぎなのを除けばほんの一理くらいは。
しかし残念ながら信長は下々から吸い上げた税の力によって兵を雇い銃を買い、どんどん強くなる。
干上がった農民と税を吸って大きく膨れ上がった信長、勝負は火を見るよりも明らかだ。
そしてこれからその税で買った兵糧を、飢えた一揆を包囲しながら美味そうに食べなければならないと思うと胃がずんと重くなって食欲が無くなる。
早く生臭坊主なんて見限って降伏してくれ。
蟹江のダンジョンに潜れば米なんていくらでも手に入るはずだ。
なにせ俺は1000万人分の米を用意しているのだ。
沖ノ鳥島のダンジョン地下第3階層ではスケルトンさんたちが次の米のための育苗も初めてくれているだろう。
豆と麦のために階層も1つ増やした。
順当にいけば奪わなければ食べられない時代は早々に終わりを告げるだろう。
次に来るのはダンジョンに潜って宝を探す夢とロマンに溢れた時代、大冒険時代だと俺は信じている。
生臭いお坊さんの言うことを信じていては時代に乗り遅れてしまうよ。
伊勢長島城に集まった織田の各方面軍は、城をびっしりと包囲した。
ネズミ1匹逃げ出すことはできないというほどの包囲網だ。
包囲した後は別段やることは無い。
まだまだ城の中には兵糧があるので敵も打って出ようという決死の覚悟はできていない。
時折飛んでくる強弓自慢の超遠距離射撃にうっかり射抜かれないように適度に警戒して待機するだけだ。
すでに包囲してから10日ほどは経っているので、織田側も気の緩みが出てきている。
酒を飲んでいる人も結構いるようだ。
まあ包囲していることに意味があるのであって、別に文句は言わないけどさ。
ひょろひょろの矢に当たって死んでも知らないよ。
「伊右衛門、暇だ」
「奇遇ですね、ワシもです」
殿と勘九郎君は共に死んだような目で長島城を見つめ続けている。
2人とも職務には真面目なタイプだからずっと長島城を見張っているのだ。
もうちょっと気を抜けば良いのに。
他の侍のように酒を飲んで騒ぐというのは感心しないが、暇つぶしに何かするとかね。
「伊右衛門、なんとかせよ」
「善次郎、なんとかせよ」
「えぇ、ここでそれですか!?」
まさかのたらい回し命令がまた発令されてしまった。
そんなこと言われたって篭城した人を引きずり出す作戦なんて思いつかないよ。
すなわち親鳥の肉とその卵を一緒に料理することが残酷だと感じるのは人間から見た価値観であり、鶏から見れば殺され食べられることは等しく残酷であると。
そしてそれは鶏以外も同じこと。
すべての生き物が全力で生きている。
生きるために食らい合っている。
戦乱ばかりのこの人の世もまた、食らい合いだ。
別の視点からの価値観が必要になる。
物事はある一面から見ただけでは凝り固まった価値観しか得ることができない。
様々な視点からの価値観を想像する力こそが、これからの世を変えていくために必要なことなのだということを勘九郎君は親子丼から学んだ。
親子丼は美味い。
冒涜的なほどに。
多くの人がそれを食べれば、これからの世では親鳥の肉と卵を一緒に料理して食べることを残酷だとは思わなくなるだろう。
同じように『人から物を奪ってはならん』『人を殺してはならん』というような常識が人々に根付けばいずれ、泰平の世が訪れるのではないか。
勘九郎君は親子丼を食べ終わった後、俺達にそう語った。
俺は感動して涙が出そうになった。
まさか親子丼を食べさせてその発想が出てくるとは思わなかったが、なんにせよこれは良い変化だ。
本能寺の変が起きなければこれからの世を背負って立つであろう勘九郎君の中に、その思想が芽生えたのは僥倖と言っても過言ではないだろう。
本当に頭の良い人の発想力には驚かされる。
勘九郎君の中ではなにやら泰平の世への大望がグツグツと煮え立つように湧き上がっているようで、戦を前にした緊張もすでに無い。
もう心配はいらないと思うが、俺達は勘九郎君が流れ弾に当たるとかいうくだらない死に方をしないように頑張って守ろう。
「構えぇぇっ!狙えぇぇぇっ!!撃てぇぇぇっ!!!」
数百丁もの火縄銃がほぼ同時に発砲され、大きな銃声が鳴り響く。
やはり火縄銃の怖さの一つはこの音だ。
この音が鳴れば誰かが死ぬ。
その事実は最前線で戦う者たちに大きな恐怖を与える。
脳に恐怖が刷り込まれる。
銃の脅威をみんなが認識する。
そうなったとき、ずらりと並べられた銃口から逃げずにいられる者など皆無だ。
もはやこれは蹂躙と言ってもいい代物だった。
号令を出した河尻さんも苦い顔をしている。
「こ、降伏だ!降伏する!!」
「頼む、撃たないでくれ!」
「死にたくねえ!!」
火縄銃の掃射を二度繰り返すと大半の一揆勢は長島城に逃げ込み、逃げることもできなかった人たちは降伏した。
史実とは違い、信長から降伏する者も斬れという命令は受けていない。
俺達は降伏を受け入れた。
しかし侍ならともかく指揮権も無いただの農民が降伏してきてもそれほど意味は無い。
捕虜にしても仕方が無いので身ぐるみ剥がされて裸で放り出されることになる。
今は夏なので運が良ければ死にはしないだろう。
「ふぅ、なんとも一揆との戦は後味が悪い」
「そうですな。しかもこちらには鉄砲がある。これでは虐殺ですよ」
「しかもまだこれから長島城の兵糧攻めが残っていますし」
「兵糧攻めは包囲するほうも根気がいりますからな」
鉄砲を持った兵をずらりと一列に並べ一斉に放つ信長の鉄砲隊には、もはや個人の武勇が介入する余地は無い。
破ろうと思ったら同じく鉄砲を並べての撃ち合いか、大砲でも持ってこなければならないだろう。
自軍の被害を考えないのならば、圧倒的な数で押し切るという手も取れるだろう。
しかしどれも一揆勢に取れる手ではないし、それを指揮する人も向こうにはいない。
おまけに武具も、銭の力で鉄を大量購入できる織田よりも数段劣る。
正直言って信長の領地は税が高い。
長島の住人は信長に税を納めているわけではないが、彼らの言うことにも一理くらいはあるのだ。
お坊さんたちが自分を棚に上げすぎなのを除けばほんの一理くらいは。
しかし残念ながら信長は下々から吸い上げた税の力によって兵を雇い銃を買い、どんどん強くなる。
干上がった農民と税を吸って大きく膨れ上がった信長、勝負は火を見るよりも明らかだ。
そしてこれからその税で買った兵糧を、飢えた一揆を包囲しながら美味そうに食べなければならないと思うと胃がずんと重くなって食欲が無くなる。
早く生臭坊主なんて見限って降伏してくれ。
蟹江のダンジョンに潜れば米なんていくらでも手に入るはずだ。
なにせ俺は1000万人分の米を用意しているのだ。
沖ノ鳥島のダンジョン地下第3階層ではスケルトンさんたちが次の米のための育苗も初めてくれているだろう。
豆と麦のために階層も1つ増やした。
順当にいけば奪わなければ食べられない時代は早々に終わりを告げるだろう。
次に来るのはダンジョンに潜って宝を探す夢とロマンに溢れた時代、大冒険時代だと俺は信じている。
生臭いお坊さんの言うことを信じていては時代に乗り遅れてしまうよ。
伊勢長島城に集まった織田の各方面軍は、城をびっしりと包囲した。
ネズミ1匹逃げ出すことはできないというほどの包囲網だ。
包囲した後は別段やることは無い。
まだまだ城の中には兵糧があるので敵も打って出ようという決死の覚悟はできていない。
時折飛んでくる強弓自慢の超遠距離射撃にうっかり射抜かれないように適度に警戒して待機するだけだ。
すでに包囲してから10日ほどは経っているので、織田側も気の緩みが出てきている。
酒を飲んでいる人も結構いるようだ。
まあ包囲していることに意味があるのであって、別に文句は言わないけどさ。
ひょろひょろの矢に当たって死んでも知らないよ。
「伊右衛門、暇だ」
「奇遇ですね、ワシもです」
殿と勘九郎君は共に死んだような目で長島城を見つめ続けている。
2人とも職務には真面目なタイプだからずっと長島城を見張っているのだ。
もうちょっと気を抜けば良いのに。
他の侍のように酒を飲んで騒ぐというのは感心しないが、暇つぶしに何かするとかね。
「伊右衛門、なんとかせよ」
「善次郎、なんとかせよ」
「えぇ、ここでそれですか!?」
まさかのたらい回し命令がまた発令されてしまった。
そんなこと言われたって篭城した人を引きずり出す作戦なんて思いつかないよ。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる