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108.お正月
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てんやわんやの冬が過ぎ、今はお正月だ。
今年は暦の関係で1年が13ヶ月になる閏年だったのでなんだか1年が倍くらいの長さに感じたような気がする。
この時代の暦は1ヶ月が29日か30日、1年が354日となる太陰太陽暦というものを採用しているので3年に1回はこういった年がある。
1年で11日、3年で33日暦と地球の公転周期がズレてしまうので、そのズレを合わせるために1ヶ月増やして調整するのだ。
そうしなければどんどん暦と季節がずれていって8月に雪が降ったり12月に真夏日が続くようなことになってしまう。
そうして増やされた1ヶ月は1年のうちどこに入れるのかなんだかよく分からない方法で決められているらしく規則性は無いように思える。
今年は11月が2回あった。
3年前は確か1月が2回あったし、雪さんに聞いたらその3年前は5月が2回あったそうだ。
雪さんは閏月の決め方も知っていたけれど、節気とか中気とか俺には理解できそうになかった。
現代の日本で採用されている1年を365日とする太陽暦でも、小数点以下のズレは生じているので4年に一回2月が29日まである閏年がある。
この時代はそのズレが少し大きいという認識で概ね間違いは無いだろう。
3年に1回13ヶ月の年があるよりも4年に1回366日の年があるほうが暦を頼りに生活している者からしてみたら違和感は少ない。
節気とか中気とか風水用語みたいなものを並べられるよりも4年に1回2月とシンプルに決められていたほうが分かりやすい。
太陰太陽暦が廃れたのも納得だ。
そんなわけで例年よりも30日以上も長い1年を越えて、お正月がやってきたわけだ。
お正月といえば去年から決まっていたことがある。
それは勘九郎君と松姫様の結婚だ。
敵国同士の恋、戦国のロミジュリと称される2人の結婚なので俺は国をあげて盛大にお祝いをしてあげたらいいと思うのだけれど、やはりそういうわけにもいかないようだ。
いまや武田家は散り散り、家臣も敵味方に分かれて戦う始末。
そんな中で織田家の総領息子に武田家直系の姫が嫁ぐなんてことは大っぴらにできるはずもない。
絶対に松姫様を利用しようとする輩が出てくるだろう。
武田の残党がどこかに併合されるか討ち取られるかして甲斐と信濃が落ち着かないかぎりはこの婚姻は大っぴらにすることはできない。
それゆえにこの婚姻を知っている松姫様のお兄さんも岐阜までやって来ることはできない。
今はたぶんそれどころではないだろうしね。
新郎側の親族も織田家の直系の中でも信長に近い人やその家臣だけ、新婦側の親族はほとんどおらず松姫様についてきた数人の侍女と護衛だけだ。
この規模の大名家の婚姻の儀としては少し寂しいものとなりそうなので、その後の宴はなるべく盛り上げてあげないとな。
「はぁ、でも宴会とか苦手なんだよな。一発芸とかを強要されたら謀反でも起こしてやろうかな」
無難にマジックでもやっとけばウケるかな。
戦国時代だし物珍しいだろう。
岐阜城に入るためにはちゃんとした格好をしていなければならない。
貧乏武士だった殿がお給料が上がって最初に買ったのが冠婚葬祭用の紋付袴一式だ。
殿は高級武具や馬が欲しかったようだが、絶対に紋付袴は必要になるから仕立てて来いと千代さんに言われて1着仕立てたようだ。
その後すぐに勘九郎君の家臣になり、岐阜城に出入りするようになったのだから千代さんの言葉は間違っていなかった。
そして立場ある人の家臣ともなれば、冠婚葬祭を偉い人と同席させてもらうことも増える。
今日のように。
「周りは織田家の重臣ばかりじゃな。みすぼらしい着物を着てひんしゅくを買うところだった。千代のおかげで首が繋がったわ」
「さすがに着流しで婚姻の儀は無いですよね」
まず岐阜城に入れてもらえないと思うけど。
殿の言葉どおり、周りには織田家と婚姻を結んで名実ともに織田家の一員と認められたような重臣ばかりだ。
そんな中に全く織田家と婚姻関係を結んでいない俺達が入ると完全にアウェーだ。
勘九郎君が直接招待してくれたので来たが、なにやら場違い感がすごいな。
木っ端侍だったのにいきなり勘九郎君の家臣となった殿は元々多くの嫉妬を集めていたこともあり、重臣の中でも家柄の良い人たちはかなり厳しい目を殿に向けている。
きっと重臣の人たちは殿よりもお給料ももらっていると思うし領地も持っているだろうに、なにが気に食わないというのか。
俺にはちょっと分からない感覚だ。
まあ織田家にもいろんな人がいるっていうことだね。
それを全て従わせている信長はやはり稀代の傑物ということか。
噂をすれば、その信長が入場してきた。
そして最上座に座る。
場の空気は一気に緊張感が高まる。
先ほどまで殿に厳しい視線を送っていた重臣たちも信長と目を合わせないように下を向いて頭を下げる。
圧倒的な力と恐怖で家臣を従わせているのだ。
勘九郎君ではたぶん同じことはできないだろうな。
良くも悪くも勘九郎君は優しすぎる。
恐怖政治は勘九郎君の性格に合わないだろう。
まあ本能寺の変を止めることができれば時間はまだまだある。
焦らずゆっくりと信長の地盤を自分の物にしていけばいいさ。
信長が入ってきて少しすると、新郎と新婦が入ってくる。
2人とも平安時代の貴族のような格好だ。
すごく動き難そう。
しかし烏帽子をかぶって象牙で作られた美しいシャクを持った勘九郎君はキリリとして男らしいし、十二単姿で紅を差した松姫様は天女のように美しい。
絵になるカップルだな。
公表はできない婚姻だけれども、俺の心の中でくらいは盛大に祝っておこう。
今年は暦の関係で1年が13ヶ月になる閏年だったのでなんだか1年が倍くらいの長さに感じたような気がする。
この時代の暦は1ヶ月が29日か30日、1年が354日となる太陰太陽暦というものを採用しているので3年に1回はこういった年がある。
1年で11日、3年で33日暦と地球の公転周期がズレてしまうので、そのズレを合わせるために1ヶ月増やして調整するのだ。
そうしなければどんどん暦と季節がずれていって8月に雪が降ったり12月に真夏日が続くようなことになってしまう。
そうして増やされた1ヶ月は1年のうちどこに入れるのかなんだかよく分からない方法で決められているらしく規則性は無いように思える。
今年は11月が2回あった。
3年前は確か1月が2回あったし、雪さんに聞いたらその3年前は5月が2回あったそうだ。
雪さんは閏月の決め方も知っていたけれど、節気とか中気とか俺には理解できそうになかった。
現代の日本で採用されている1年を365日とする太陽暦でも、小数点以下のズレは生じているので4年に一回2月が29日まである閏年がある。
この時代はそのズレが少し大きいという認識で概ね間違いは無いだろう。
3年に1回13ヶ月の年があるよりも4年に1回366日の年があるほうが暦を頼りに生活している者からしてみたら違和感は少ない。
節気とか中気とか風水用語みたいなものを並べられるよりも4年に1回2月とシンプルに決められていたほうが分かりやすい。
太陰太陽暦が廃れたのも納得だ。
そんなわけで例年よりも30日以上も長い1年を越えて、お正月がやってきたわけだ。
お正月といえば去年から決まっていたことがある。
それは勘九郎君と松姫様の結婚だ。
敵国同士の恋、戦国のロミジュリと称される2人の結婚なので俺は国をあげて盛大にお祝いをしてあげたらいいと思うのだけれど、やはりそういうわけにもいかないようだ。
いまや武田家は散り散り、家臣も敵味方に分かれて戦う始末。
そんな中で織田家の総領息子に武田家直系の姫が嫁ぐなんてことは大っぴらにできるはずもない。
絶対に松姫様を利用しようとする輩が出てくるだろう。
武田の残党がどこかに併合されるか討ち取られるかして甲斐と信濃が落ち着かないかぎりはこの婚姻は大っぴらにすることはできない。
それゆえにこの婚姻を知っている松姫様のお兄さんも岐阜までやって来ることはできない。
今はたぶんそれどころではないだろうしね。
新郎側の親族も織田家の直系の中でも信長に近い人やその家臣だけ、新婦側の親族はほとんどおらず松姫様についてきた数人の侍女と護衛だけだ。
この規模の大名家の婚姻の儀としては少し寂しいものとなりそうなので、その後の宴はなるべく盛り上げてあげないとな。
「はぁ、でも宴会とか苦手なんだよな。一発芸とかを強要されたら謀反でも起こしてやろうかな」
無難にマジックでもやっとけばウケるかな。
戦国時代だし物珍しいだろう。
岐阜城に入るためにはちゃんとした格好をしていなければならない。
貧乏武士だった殿がお給料が上がって最初に買ったのが冠婚葬祭用の紋付袴一式だ。
殿は高級武具や馬が欲しかったようだが、絶対に紋付袴は必要になるから仕立てて来いと千代さんに言われて1着仕立てたようだ。
その後すぐに勘九郎君の家臣になり、岐阜城に出入りするようになったのだから千代さんの言葉は間違っていなかった。
そして立場ある人の家臣ともなれば、冠婚葬祭を偉い人と同席させてもらうことも増える。
今日のように。
「周りは織田家の重臣ばかりじゃな。みすぼらしい着物を着てひんしゅくを買うところだった。千代のおかげで首が繋がったわ」
「さすがに着流しで婚姻の儀は無いですよね」
まず岐阜城に入れてもらえないと思うけど。
殿の言葉どおり、周りには織田家と婚姻を結んで名実ともに織田家の一員と認められたような重臣ばかりだ。
そんな中に全く織田家と婚姻関係を結んでいない俺達が入ると完全にアウェーだ。
勘九郎君が直接招待してくれたので来たが、なにやら場違い感がすごいな。
木っ端侍だったのにいきなり勘九郎君の家臣となった殿は元々多くの嫉妬を集めていたこともあり、重臣の中でも家柄の良い人たちはかなり厳しい目を殿に向けている。
きっと重臣の人たちは殿よりもお給料ももらっていると思うし領地も持っているだろうに、なにが気に食わないというのか。
俺にはちょっと分からない感覚だ。
まあ織田家にもいろんな人がいるっていうことだね。
それを全て従わせている信長はやはり稀代の傑物ということか。
噂をすれば、その信長が入場してきた。
そして最上座に座る。
場の空気は一気に緊張感が高まる。
先ほどまで殿に厳しい視線を送っていた重臣たちも信長と目を合わせないように下を向いて頭を下げる。
圧倒的な力と恐怖で家臣を従わせているのだ。
勘九郎君ではたぶん同じことはできないだろうな。
良くも悪くも勘九郎君は優しすぎる。
恐怖政治は勘九郎君の性格に合わないだろう。
まあ本能寺の変を止めることができれば時間はまだまだある。
焦らずゆっくりと信長の地盤を自分の物にしていけばいいさ。
信長が入ってきて少しすると、新郎と新婦が入ってくる。
2人とも平安時代の貴族のような格好だ。
すごく動き難そう。
しかし烏帽子をかぶって象牙で作られた美しいシャクを持った勘九郎君はキリリとして男らしいし、十二単姿で紅を差した松姫様は天女のように美しい。
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