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107.織田家イメージアップ戦略
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税金が高くて賦役がきついという織田家のイメージを払拭するべく、勘九郎君や殿たち家臣と手分けして賦役現場を一日に何箇所も回る日々が始まった。
ワンシーズンによくもこれだけ賦役を詰め込んだなというような現場の多さに目が回る。
道や橋は整備すればそれだけ役に立つということは分かっているのだが、ちょっと鬼畜すぎじゃないだろうか。
税も賦役も民が死んでしまうほどではないのがなんとも信長らしい。
生かさず殺さずの治世だ。
効率的に税を取り、効率的に賦役をさせ領内を整える。
だが民はそれが国にとっていいことだとしても、楽なほうがいいに決まっている。
それが信長と民との意識の違いなんだろう。
信長は民草を怠惰で馬鹿だと思っているし、民は信長を鬼畜大魔王だと思っている。
統治者と民との関係というのは本当に難しい。
近すぎても情に流されて合理的な統治ができなくなるし、遠すぎても信長のように一揆を起こされてしまう。
信長が新たに始めた自分を鞭として勘九郎君を飴とする形は案外いい線いっているかもしれない。
唯一つ心配なのは、民がそれほど単純でもないことか。
銭あげるって言ってるんだから素直にありがたく受け取ってくれればいいのに。
「けっ、何が褒美だよ。元はといえば俺達から巻き上げた税じゃねえか」
「まったくだ。こっちは賦役で働いてんだからもらって当然だぜ」
「しっ、聞こえるぜ。仮にも若様の名代だぜ」
「聞かせてやればいいんだよ。刀もろくに振れなさそうな優男じゃねえか」
「どうせ何もできやしねえ」
褒美の布告役が俺だからだろうか。
民たちは舐め腐って俺に聞こえるような声の大きさで陰口を叩く。
俺が髭もじゃの大男だったりすれば民は卑屈な笑みを浮かべて褒美をありがたく受け取ってくれたのだろうが、どうにも俺の見た目は睨みがきかない。
侍は舐められたらいかんと鬼柴田はしきりに言っていたが、あながち間違いでもなかったな。
この時代の民草の雑草魂を舐めていた。
侍でも弱みを見せれば食い尽くされるような時代だ。
下手に出ていては民は従わない。
「そこのあなた。若様からの褒美に何か不満があるのだろうか」
「不満なら大有りだ。こんなちっぽけな額じゃあな」
「そうだそうだ!もっとよこせ!!」
「今までの分全部よこせ!!」
「はぁ、欲深いな。強欲は身を滅ぼしますよ」
「うるせぇ!!さっさと銭を払え!!」
一部の不満を持つ者たちが文句を言い始めると、すぐにそれは伝播する。
普通は侍に、それも殿様の息子の名代にこのような態度は一揆とみなされて殺されても文句は言えない。
だが集団心理がその心のたがを外していた。
赤信号でもみんなで渡れば怖くないっていう心理だ。
だがこれはこの時代では少し下手に出すぎた俺のミスでもあるだろう。
侍が偉ぶっているのは何も自尊心からだけではないということか。
場は騒然となり、暴動寸前だ。
きっとこのまま逃げ帰ったら殿や勘九郎君に怒られるんだろうな。
俺は刀の柄に手をかける。
「なんだよ、やるっていうのかよ!!」
「この人数相手に一人で何ができる!!」
「かまうことはねえ、やっちまえ!!」
「「「うぉぉぉっ!!」」」
農民たちは賦役に使っていた道具を各々振り上げ向かってくる。
俺は刀の柄に置いていた手を放す。
どうにも農民たちの持つ農具はそれほど脅威には思えなかったからだ。
そして刀の横に脇差代わりに刺していた十手を引き抜いた。
俺は侍を名乗っているが、朝廷からなんの役職も貰っていないために厳密に言えば侍ではない。
あくまでも自称侍だ。
この時代には珍しいことではないが、家柄を気にする人というのはいつの時代にもいるものだ。
そのために一応勘九郎君の陪臣として働くときには区別するために脇差を差していないのだ。
その代わりに十手を差していた。
室内での勘九郎君の護衛なども俺の仕事には含まれているので間合いの短い得物というのも必要だからだ。
それをこんなところで使うはめになるとは。
まあ民は侍の重要な収入源だから殺さないにこしたことはない。
俺のミスで民に舐められたので返り討ちにして殺しましたなんて報告したら結構怒られそうだしね。
「そんなおもちゃで戦えるものか!!」
「殺せ!!殺して奪え!!」
「銭だ銭だ!!」
ちょっと世紀末すぎる。
実際そろそろ世紀末なんだけどね。
16世紀の。
「銭銭銭銭!」
「うるさい」
「ぷぎゃっ」
俺の後ろに置かれた千両箱に入った大量の銭によって正気を失っているのだろうか。
民たちは狂気の宿る目で俺に迫る。
俺は振り下ろされる農具を避け、十手の柄で鳩尾を殴打することによって一人ずつ正気に戻していく。
「ぜ、銭……へでぶっ」
「ぜにぃ……ほげっ」
「ぜぇにぃ……ぶはっ」
やはり金というのは人を変えてしまう魔力があるな。
俺の高校時代の同級生もユー〇ューブに投稿した動画がたまたまヒットしてチャンネル登録数が増えるとすっかり下衆なユー〇ューバーになってしまった。
彼と親しくしていた人は皆動画に出演させられて晒し上げられ、面白おかしくコメントを書かれる。
それを嫌って昔からの知り合いは彼を遠巻きにするようになった。
俺も戦国時代にいることが彼に知られたら動画出演を頼まれていただろうな。
危なかったな。
帰れなくてよかった。
泣きそう。
ワンシーズンによくもこれだけ賦役を詰め込んだなというような現場の多さに目が回る。
道や橋は整備すればそれだけ役に立つということは分かっているのだが、ちょっと鬼畜すぎじゃないだろうか。
税も賦役も民が死んでしまうほどではないのがなんとも信長らしい。
生かさず殺さずの治世だ。
効率的に税を取り、効率的に賦役をさせ領内を整える。
だが民はそれが国にとっていいことだとしても、楽なほうがいいに決まっている。
それが信長と民との意識の違いなんだろう。
信長は民草を怠惰で馬鹿だと思っているし、民は信長を鬼畜大魔王だと思っている。
統治者と民との関係というのは本当に難しい。
近すぎても情に流されて合理的な統治ができなくなるし、遠すぎても信長のように一揆を起こされてしまう。
信長が新たに始めた自分を鞭として勘九郎君を飴とする形は案外いい線いっているかもしれない。
唯一つ心配なのは、民がそれほど単純でもないことか。
銭あげるって言ってるんだから素直にありがたく受け取ってくれればいいのに。
「けっ、何が褒美だよ。元はといえば俺達から巻き上げた税じゃねえか」
「まったくだ。こっちは賦役で働いてんだからもらって当然だぜ」
「しっ、聞こえるぜ。仮にも若様の名代だぜ」
「聞かせてやればいいんだよ。刀もろくに振れなさそうな優男じゃねえか」
「どうせ何もできやしねえ」
褒美の布告役が俺だからだろうか。
民たちは舐め腐って俺に聞こえるような声の大きさで陰口を叩く。
俺が髭もじゃの大男だったりすれば民は卑屈な笑みを浮かべて褒美をありがたく受け取ってくれたのだろうが、どうにも俺の見た目は睨みがきかない。
侍は舐められたらいかんと鬼柴田はしきりに言っていたが、あながち間違いでもなかったな。
この時代の民草の雑草魂を舐めていた。
侍でも弱みを見せれば食い尽くされるような時代だ。
下手に出ていては民は従わない。
「そこのあなた。若様からの褒美に何か不満があるのだろうか」
「不満なら大有りだ。こんなちっぽけな額じゃあな」
「そうだそうだ!もっとよこせ!!」
「今までの分全部よこせ!!」
「はぁ、欲深いな。強欲は身を滅ぼしますよ」
「うるせぇ!!さっさと銭を払え!!」
一部の不満を持つ者たちが文句を言い始めると、すぐにそれは伝播する。
普通は侍に、それも殿様の息子の名代にこのような態度は一揆とみなされて殺されても文句は言えない。
だが集団心理がその心のたがを外していた。
赤信号でもみんなで渡れば怖くないっていう心理だ。
だがこれはこの時代では少し下手に出すぎた俺のミスでもあるだろう。
侍が偉ぶっているのは何も自尊心からだけではないということか。
場は騒然となり、暴動寸前だ。
きっとこのまま逃げ帰ったら殿や勘九郎君に怒られるんだろうな。
俺は刀の柄に手をかける。
「なんだよ、やるっていうのかよ!!」
「この人数相手に一人で何ができる!!」
「かまうことはねえ、やっちまえ!!」
「「「うぉぉぉっ!!」」」
農民たちは賦役に使っていた道具を各々振り上げ向かってくる。
俺は刀の柄に置いていた手を放す。
どうにも農民たちの持つ農具はそれほど脅威には思えなかったからだ。
そして刀の横に脇差代わりに刺していた十手を引き抜いた。
俺は侍を名乗っているが、朝廷からなんの役職も貰っていないために厳密に言えば侍ではない。
あくまでも自称侍だ。
この時代には珍しいことではないが、家柄を気にする人というのはいつの時代にもいるものだ。
そのために一応勘九郎君の陪臣として働くときには区別するために脇差を差していないのだ。
その代わりに十手を差していた。
室内での勘九郎君の護衛なども俺の仕事には含まれているので間合いの短い得物というのも必要だからだ。
それをこんなところで使うはめになるとは。
まあ民は侍の重要な収入源だから殺さないにこしたことはない。
俺のミスで民に舐められたので返り討ちにして殺しましたなんて報告したら結構怒られそうだしね。
「そんなおもちゃで戦えるものか!!」
「殺せ!!殺して奪え!!」
「銭だ銭だ!!」
ちょっと世紀末すぎる。
実際そろそろ世紀末なんだけどね。
16世紀の。
「銭銭銭銭!」
「うるさい」
「ぷぎゃっ」
俺の後ろに置かれた千両箱に入った大量の銭によって正気を失っているのだろうか。
民たちは狂気の宿る目で俺に迫る。
俺は振り下ろされる農具を避け、十手の柄で鳩尾を殴打することによって一人ずつ正気に戻していく。
「ぜ、銭……へでぶっ」
「ぜにぃ……ほげっ」
「ぜぇにぃ……ぶはっ」
やはり金というのは人を変えてしまう魔力があるな。
俺の高校時代の同級生もユー〇ューブに投稿した動画がたまたまヒットしてチャンネル登録数が増えるとすっかり下衆なユー〇ューバーになってしまった。
彼と親しくしていた人は皆動画に出演させられて晒し上げられ、面白おかしくコメントを書かれる。
それを嫌って昔からの知り合いは彼を遠巻きにするようになった。
俺も戦国時代にいることが彼に知られたら動画出演を頼まれていただろうな。
危なかったな。
帰れなくてよかった。
泣きそう。
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