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兎屋亀吉

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112.明智光秀2

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 明智光秀の奥さんは牧さんといい、美しい髪の小柄な女性だった。
 後世では細川藤孝の息子に嫁いだ娘のガラシャ(洗礼名)の母親、明智煕子(ひろこ)と呼ばれている女性だ。
 顔には若い頃に罹ったという天然痘の跡がある。
 この天然痘に罹って顔が爛れてしまっても光秀が気にせず結婚したというのは後世に伝わる逸話だよね。
 あとは光秀が斎藤家の親子争いで美濃を追われて家計が苦しいときに奥さんが自分の髪を売って光秀を助けたとかそんな逸話もあったような気がする。
 史実のとおり光秀は奥さんのことを愛しており、心配そうに床に臥せる奥さんを見つめている。
 奥さんは光秀に迷惑をかけてしまったことをしきりに謝っている。
 お互いに想い合ういい夫婦だ。
 光秀の奥さんは歴史的にはあまりスポットライトの当たらない人だけれど、光秀が一番辛いときに支えてくれた影の立役者だと思うんだよね。
 そして史実の一説では来年あたり病気で亡くなる予定でもあった。
 別の説でも本能寺の変の前には亡くなっている。
 この妻の死が、光秀になんの変化ももたらさないとは思えないよね。
 もしかしたら本能寺の変にも関係があるのかもしれない。
 顔色からいってちょっと、いやかなり病状は悪そうだ。
 史実の病が早まったのか、それとも今年から来年にかけて臥せって亡くなる予定だったのか。
 どちらにしろさっさと病気を治してしまおう。
 俺は薬効がありそうな味と匂いのいつもの万能薬を取り出し、飲みやすいようにぬるま湯に溶いてあげる。
 うわぁ、やっぱりお湯になんて溶かなければよかった。
 酷い匂いだ。
 そのままのほうが飲みやすかったかもしれない。

「ごほっ、ごほっ、も、申し訳ありません。少し匂いが……」

「いえ、皆さんそのような反応のなさりますから。ついでに疱瘡の跡にもよく効く軟膏を塗っておきますね」

「ありがとうございます」

 こちらも酷い匂いのする草ばかりをすりつぶしてすごい傷薬と混ぜ合わせた特製軟膏。
 天然痘の跡があっても光秀は気にせず奥さんを愛した。
 でもやっぱり綺麗に治るならそのほうがいいと思うんだよね。
 
「まあ、なんだか温かい。効いている気がするわ」

「ええ、1日、2日もすれば綺麗になりますからね」

「ありがとうございます。先生」

 奥さんは俺の言葉を今より少しマシになる程度だと思ったのかそれほど反応しなかった。
 こういう甘い話を持ってきた薬師は今までにも結構いたのかもしれないな。
 まあ俺は本物だけど。
 本物の神様のガチャから出たアイテムだから。

「では飲み薬を3日分、塗り薬も同じだけ置いていきますね」

「ええ。どうもありがとうございました」

 俺は奥さんの元を離れる。
 薬師とはいえ女性の寝所にあまり男が長居するものじゃない。
 




「3日もすれば完治すると思いますよ。薬を毎日飲ませてあげてください。あと疱瘡の跡に塗る薬も奥さんでは塗りにくい場所は手伝ってあげてください」

「わかった。貴殿の薬で妻はずいぶんと楽になったようだ。この度はまことに感謝申し上げる。妻が完治したあかつきには改めて謝礼を贈ろう」

「ええ、期待しております」

 殿の何倍もの速度で出世街道をひた走る光秀だからね。
 お金はたくさん持っているに違いない。
 俺の診療料金は自由診療なんであるところからはたくさんもらうよ。
 どこぞの闇医者みたいにね。
 あっちょんぷりけ。
 
「ところで、つかぬことをお伺いしますけど」

「なんであろうか」

「大殿のことをどう思いますか?」

 俺はドストレートに聞いてみた。
 目の前の明智光秀と斎藤利三が四国で信長の無体さに辟易するのはこれからなのだけれど、信長の近くにいれば殺したくなるような出来事の10や20はすでにあったかもしれない。
 今現在の光秀の謀反ゲージはいかほどなのだろうか。

「ふむ、大殿のことか。なかなか苛烈な方だとは思う。だが、その苛烈さに時に胸が高鳴るときがあるのだ。なぜだろうな」

 光秀が信長のことをそう語るその顔は、まるで恋する乙女のような顔であった。
 おっさんがそんな顔しても可愛くもなんともないけどね。
 ちょっと引くわ。
 これ衆道やっちゃってないかな。
 嗜んでらっしゃるのかな。
 まさか本能寺の変は愛憎のもつれからとかそういう感じなのかな。
 いや、さすがにそれはないか。

「おそらくあのお方を一番理解しているのは羽柴秀吉、あのクソザルであろうな。それが悔しくてな。なぜ私にはあのお方のお考えを理解することが叶わぬのかと」

 秀吉とも色々こじれてそうだけど、これ大丈夫なのかな。
 まあ秀吉は織田家の中でも一番の成り上がりものだから、色々な人と折り合いが悪いのは仕方がないかな。
 元々生まれが侍である殿がちょっと出世しただけで色々な人からものすごい嫌味を言われたり嫌がらせを受けたりするのだ。
 侍でもない生まれの秀吉はもっと酷いことになっているんだろうな。
 
「殿、そのへんで……」

「すまぬ。取り乱した。今のは忘れてくれ。とにかく、大殿は私などには理解できないような高度なことを考えておられる方だ。何かの参考になっただろうか」

「ええ、よくわかりました」

 謀反ゲージはとりあえずマックスにはなっていないことがわかった。
 しかし何かのきっかけがあればマックスになりやすい人だというのもなんとなくわかった。



 
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