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113.謀反の疑い
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「善次郎はおるか!!急ぎの用じゃ!!」
明智光秀の謀反ゲージを溜めないためにはどうしたらいいのかと考えながらうとうとしていた昼下がり。
突如として俺の平穏は終わりを告げる。
ドタバタと鶯張りなど関係ないほどの足音を立てて俺の部屋まで走ってきたのは殿の主君にして織田信長の息子、次期織田家当主と名高い勘九郎君だった。
いつもクールな勘九郎君にしては珍しく、血相を変えている。
初陣で初めて人を斬ったときくらい取り乱しているように思える。
いったい何事なのだろうか。
「善次郎、ここにおったか」
「ええ、俺は大体ここにいますがね」
「そんなことはどうでもいい!謀反だ。北畠具教殿に謀反の疑いありという報告があった」
「ええ!!北畠殿が!?」
あのじいさん、なにをやっているんだ。
北畠家にはもともと謀反の気配があった。
完膚なきまでに叩きのめした他の家と違って、北畠家の力を信長は削ぎきれていないのだ。
将軍からの和睦仲介があったこともあり、信長は北畠家を戦で支配することをやめた。
北畠家に織田家の血を入れることによる血筋での支配に切り替えたのだ。
しかしそれが効果を発するのはもっと先の話で、今の北畠家にはまだまだ謀反の火種がくすぶっている。
そのひとつが前当主の北畠具教だ。
和睦の時点で具教は出家し北畠家の当主は雪さんのお兄さんの具房さんに移っていたが、具房さんが武将向きの人ではなかったことからまだまだ北畠家で一番強い力を持っているのは具教だった。
俺と出会ったのはそんな頃だ。
あの人の目はまだまだギラギラしていた。
絶対に信長に一泡吹かせてやるという目だったな。
それから剣術勝負して、雪さんを攫ってくれっていう依頼を受けた。
受けてくれたら大人しく隠居していると約束したからこそ俺はその依頼を受けたんだ。
「話はそこで終わりではない。その謀反に伊右衛門やお主が資金提供をしたという情報もあるのだ」
「ええ、俺はそんなことしてませんよ。北畠殿にも会ってないですし」
「そんなことはわかっておる。此度のことは少しおかしい。父上にもそのように伝えてくるから、お主らは伊右衛門の屋敷に集まってじっとしておれ。一応女子供も危険のないように集めておけ」
「わかりました。殿にはこのことを?」
「伝えてある。今頃は家臣を集めておるはずだ」
「とにかく、私が戻るまで何者かが訪ねてきても門は開けぬほうが良い。良いな?」
「はい」
それだけ言うと勘九郎君は来た時と同じようにドタバタと出て行ってしまった。
遅れてやってきた勝三君は戸惑っていたが、俺に一礼して勘九郎君を追いかけていった。
頑張れ。
「それにしても、雪さんのお父さんが謀反か……」
雪さんは今、吉兵衛さんの屋敷にお料理のおすそ分けに行っている。
しかし殿が家臣を招集しているとなると、雪さんの耳にもこのことが入っている可能性が高い。
雪さんは武家の姫だからそこまで親子の関係というのはべたべたしたものではないけれど、たぶん心配だよね。
それに雪さんならお父さんが何を考えているのか、今何が起こっているのか予想することができるかもしれない。
はやいところ雪さんと合流して殿たちとは別に俺たちの考えを纏めておきたいな。
俺はずるずるの着流しを脱いで一応鎧を纏って屋敷を出た。
「雪さん!」
「善次郎さん……」
「大丈夫、お父さんが本当に謀反を起こしていたとしても最悪の場合は島でかくまえばいいんだよ。誰も沖ノ鳥島までは追ってこられないんだから」
でもそれだとある意味島流しになってしまうのかな。
まあいい。
本当に謀反を起こしたのならばもうあのじいさんの意見などは聞かなくてもいい。
お父さんの命を助けたいという雪さんの意見さえ尊重しておけばなんの問題もない。
「そうですね。少し気が楽になりました。そのときはお願いします」
「わかった。それで、今いったい何が起こっているんだろうか。勘九郎様はなんかちょっとおかしいみたいなことを言っていたけれど」
「おかしいどころではありませんよね。お父様のことは分かりませんが、山内様や善次郎さんが謀反を支援しているなんていう情報はまるっきり嘘じゃありませんか」
「そうだね。なんで嘘の情報が流れているんだろう」
城の伝令兵が嘘の情報なんて話したら戦やらなんやらがめちゃくちゃになってしまうような気がするんだけど。
「いえ、敵のかく乱工作で伝令兵に嘘の情報を掴ませるというのはよくある作戦ですよ」
「それを取捨選択するのは武将の責任ってこと?」
「明らかに嘘の情報を吐いたら伝令兵のほうが斬られるとは思いますけどね」
情報戦っていうわけか。
ということは俺たちは今その情報戦を仕掛けられているのだろうか。
問題はなぜ俺たちが情報戦を仕掛けられているのかっていうことなんだよな。
「山内様と善次郎さんが狙い撃ちされた理由は色々考えられますが、そこにお父様が関わってくると少し変わってきますね。もし謀反の話までもが嘘であれば、お父様と山内様、善次郎さんの3人がいなくなることで一番得をする人が敵の可能性が高いですね」
俺と殿と雪さんのお父さんがいなくなると一番得をする人か。
そんな人いるかな。
明智光秀の謀反ゲージを溜めないためにはどうしたらいいのかと考えながらうとうとしていた昼下がり。
突如として俺の平穏は終わりを告げる。
ドタバタと鶯張りなど関係ないほどの足音を立てて俺の部屋まで走ってきたのは殿の主君にして織田信長の息子、次期織田家当主と名高い勘九郎君だった。
いつもクールな勘九郎君にしては珍しく、血相を変えている。
初陣で初めて人を斬ったときくらい取り乱しているように思える。
いったい何事なのだろうか。
「善次郎、ここにおったか」
「ええ、俺は大体ここにいますがね」
「そんなことはどうでもいい!謀反だ。北畠具教殿に謀反の疑いありという報告があった」
「ええ!!北畠殿が!?」
あのじいさん、なにをやっているんだ。
北畠家にはもともと謀反の気配があった。
完膚なきまでに叩きのめした他の家と違って、北畠家の力を信長は削ぎきれていないのだ。
将軍からの和睦仲介があったこともあり、信長は北畠家を戦で支配することをやめた。
北畠家に織田家の血を入れることによる血筋での支配に切り替えたのだ。
しかしそれが効果を発するのはもっと先の話で、今の北畠家にはまだまだ謀反の火種がくすぶっている。
そのひとつが前当主の北畠具教だ。
和睦の時点で具教は出家し北畠家の当主は雪さんのお兄さんの具房さんに移っていたが、具房さんが武将向きの人ではなかったことからまだまだ北畠家で一番強い力を持っているのは具教だった。
俺と出会ったのはそんな頃だ。
あの人の目はまだまだギラギラしていた。
絶対に信長に一泡吹かせてやるという目だったな。
それから剣術勝負して、雪さんを攫ってくれっていう依頼を受けた。
受けてくれたら大人しく隠居していると約束したからこそ俺はその依頼を受けたんだ。
「話はそこで終わりではない。その謀反に伊右衛門やお主が資金提供をしたという情報もあるのだ」
「ええ、俺はそんなことしてませんよ。北畠殿にも会ってないですし」
「そんなことはわかっておる。此度のことは少しおかしい。父上にもそのように伝えてくるから、お主らは伊右衛門の屋敷に集まってじっとしておれ。一応女子供も危険のないように集めておけ」
「わかりました。殿にはこのことを?」
「伝えてある。今頃は家臣を集めておるはずだ」
「とにかく、私が戻るまで何者かが訪ねてきても門は開けぬほうが良い。良いな?」
「はい」
それだけ言うと勘九郎君は来た時と同じようにドタバタと出て行ってしまった。
遅れてやってきた勝三君は戸惑っていたが、俺に一礼して勘九郎君を追いかけていった。
頑張れ。
「それにしても、雪さんのお父さんが謀反か……」
雪さんは今、吉兵衛さんの屋敷にお料理のおすそ分けに行っている。
しかし殿が家臣を招集しているとなると、雪さんの耳にもこのことが入っている可能性が高い。
雪さんは武家の姫だからそこまで親子の関係というのはべたべたしたものではないけれど、たぶん心配だよね。
それに雪さんならお父さんが何を考えているのか、今何が起こっているのか予想することができるかもしれない。
はやいところ雪さんと合流して殿たちとは別に俺たちの考えを纏めておきたいな。
俺はずるずるの着流しを脱いで一応鎧を纏って屋敷を出た。
「雪さん!」
「善次郎さん……」
「大丈夫、お父さんが本当に謀反を起こしていたとしても最悪の場合は島でかくまえばいいんだよ。誰も沖ノ鳥島までは追ってこられないんだから」
でもそれだとある意味島流しになってしまうのかな。
まあいい。
本当に謀反を起こしたのならばもうあのじいさんの意見などは聞かなくてもいい。
お父さんの命を助けたいという雪さんの意見さえ尊重しておけばなんの問題もない。
「そうですね。少し気が楽になりました。そのときはお願いします」
「わかった。それで、今いったい何が起こっているんだろうか。勘九郎様はなんかちょっとおかしいみたいなことを言っていたけれど」
「おかしいどころではありませんよね。お父様のことは分かりませんが、山内様や善次郎さんが謀反を支援しているなんていう情報はまるっきり嘘じゃありませんか」
「そうだね。なんで嘘の情報が流れているんだろう」
城の伝令兵が嘘の情報なんて話したら戦やらなんやらがめちゃくちゃになってしまうような気がするんだけど。
「いえ、敵のかく乱工作で伝令兵に嘘の情報を掴ませるというのはよくある作戦ですよ」
「それを取捨選択するのは武将の責任ってこと?」
「明らかに嘘の情報を吐いたら伝令兵のほうが斬られるとは思いますけどね」
情報戦っていうわけか。
ということは俺たちは今その情報戦を仕掛けられているのだろうか。
問題はなぜ俺たちが情報戦を仕掛けられているのかっていうことなんだよな。
「山内様と善次郎さんが狙い撃ちされた理由は色々考えられますが、そこにお父様が関わってくると少し変わってきますね。もし謀反の話までもが嘘であれば、お父様と山内様、善次郎さんの3人がいなくなることで一番得をする人が敵の可能性が高いですね」
俺と殿と雪さんのお父さんがいなくなると一番得をする人か。
そんな人いるかな。
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