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004話 初めての狩り
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今日からは一匹で生きていかなくてはならない。
いつも優しく見守ってくれていた母虎や、うるさくじゃれついてくる兄弟たちがいないだけで途端に心細くなってきた。寂しい。生後1ヶ月以内で親離れとか早すぎるよ。
一匹で暗い森の中を歩いていると後ろ向きなことばかり考えてしまう。これからのことを考えなければ。
今の僕は小さい子供の虎で、魔法もほとんど使えなくて、牙や爪もまだまだ小さい。
尻尾も母虎のような3本ではなくて、1本しか生えてない。
兄弟全員1本だったけれど大人になったら増えるんだろうか。
思考が逸れてしまったけれど、ようするに今の僕はこの森では完全に狩られる側だということだ。
母虎は色々な動物や魔獣を狩って食べていたけれど、今の僕では最初に見た鹿のような動物にも勝てそうにない。あの角で突かれたら痛そうだ。
僕は他の生き物の気配にビクビクしながら隠れられる場所を探した。
少し歩き回ったら、いい感じに岩の影になった場所に、浅い洞窟を見つけた。広さは4畳半くらいだけど、僕の体はまだ猫くらいの大きさしかないので余裕で寛げる。
ここをとりあえずねぐらにすることにしよう。
しばらくはこの洞窟に隠れながら魔法の練習をして、たまに兎などの小さい獲物を狩って飢えをしのごう。
幸い水は時間をかければ水魔法で出すことができる。僕は早速魔法の練習を始めた。
あれから2日ほどが経った。お腹が空いて死にそうだ。
狩りに行くにも魔法が使えた方が安心だろうと思い、ギリギリまで引きこもって、寝ている時以外は魔法の練習をしていた。
そのおかげで魔力が少し増えたけれどお腹が空いた。早く何か食べたい。
洞窟を出て少し歩くと、遠くに毒々しい紫色をした巨大な蛙が見えた。僕は蛙に見つからないようにそっと木陰に隠れた。
あいつはダメだ。
前に母虎が狩っているのを見たことがあるが、母虎でも一撃では狩りきれないくらい強い。
僕なんてぺろりと食べられてしまうだろう。
それに見た目が毒々しいので食べたくない。ていうか絶対毒あるよ。
母虎は普通に食べていたけれど大丈夫なんだろうか?
毒に耐性とかあるのかな。少しずつ摂取して慣らしていけば毒耐性が手に入るだろうか。
毒耐性は欲しいけれど、やっぱり僕には蛙はまだ早いのでその場から音をたてないようにそっと離れた。
よく考えたら僕に母虎のような狩りはまだ無理かもしれない。
まだ体長が大人の猫くらいしかない僕ではあまり大きい獲物は仕留められない。
猫が狩るものを想像しても、ねずみか小鳥くらいのものだ。
兎も僕には大きすぎる。
それでもねずみや小鳥なんかではお腹が一杯にならないので、僕は罠を使って兎を狩ることにした。
罠なら仕掛けて待つだけだ。子虎の僕にも兎が狩れるかもしれない。
早速僕は土魔法で穴を掘り始めた。原始的だけれど罠の王道、落とし穴だ。
まだ魔力量が少なくて少しずつしか掘れないが、魔法の練習にもなって一石二鳥だ。
いつもやっている魔法の練習と同じように、掘る、魔力が枯渇する、大気中から吸収するというルーチンワークを延々と繰り返す。
半日ほど掘って、満足できる大きさの穴が掘れた。お腹が減っているのでたくさん食べたくて、つい大きな穴を掘ってしまった。兎が何十匹も入りそうな穴だ。
最後に土魔法で落とし穴の底に針山を作って、薄い粘土板のような蓋をした後、木の葉をかけてカモフラージュした。
作成に半日ちょっとかかってしまったが、なんとか落とし穴が完成した。
後は獲物がかかるのを待つだけだ。木の実でも探して食べながら待つとするか。
ちょっと遠くまで足を延ばして、やっと見つけた桃みたいな果物を食べた。
落とし穴から結構離れているのでそれなりに時間が経っている。
そろそろ何か掛かっている頃だろうと思い、落とし穴まで戻ってそっと覗き込んでみると、毒々しい紫色をした蛙が掛かっていた。なんでだよ。
幸いにも串刺しになって死んでいるようなので、僕が逆に食べられることはなさそうだ。しかし、持って帰って洞窟で食べたいのに、大きすぎて持って帰れない。
こんなときに転移か空間収納が使えると便利なのだけど、次元魔法は魔法の中でも消費魔力がダントツで多いので今の僕には全く使えない。
しょうがないのでこの場で食べることにした。完全に死んでいることを確かめるように恐る恐る近づいて肉球でちょんちょんと触ってみる。ちゃんと死んでいるようだ。
さすがに母虎のように内臓まで貪り食うのは気が引けたので、とりあえず足にかぶりついてみた。毒々しい外見に似合わず美味しい。
食べても身体に不調がないかどうか少し待ってみたが、身体に不調は見られない。毒々しいのは外見だけで毒はないのかもしれない。僕は一心不乱に食べた。
2日半ぶりのお肉は最高だった。ただ、生肉も美味しいけれど、ビジュアル的に焼いた肉のほうが食欲をそそるので、そのうち焼いた肉も食べたい。塩や香辛料なんかがあれば最高だ。
塩は海か岩塩の鉱脈があれば、虎でも手に入れられるかもしれないが、香辛料は人間と関わらなければ手に入らないかもしれない。
正直人間とは関わりたくない。あれだけ盛大に公開処刑されればトラウマにもなる。人間の醜さと今の自分の無力さを想像して、思わず身体がぶるりと震えた。
そして早く魔法を使えるだけの魔力を鍛えなければという焦燥感がこみ上げてきた。香辛料はあきらめよう。人間怖い。
僕は蛙の内臓などが残されたままの落とし穴に、さっきと同じように蓋をして木の葉でカモフラージュして、逃げるように洞窟に帰った。
これから全力で魔力を上げなくては。
いつも優しく見守ってくれていた母虎や、うるさくじゃれついてくる兄弟たちがいないだけで途端に心細くなってきた。寂しい。生後1ヶ月以内で親離れとか早すぎるよ。
一匹で暗い森の中を歩いていると後ろ向きなことばかり考えてしまう。これからのことを考えなければ。
今の僕は小さい子供の虎で、魔法もほとんど使えなくて、牙や爪もまだまだ小さい。
尻尾も母虎のような3本ではなくて、1本しか生えてない。
兄弟全員1本だったけれど大人になったら増えるんだろうか。
思考が逸れてしまったけれど、ようするに今の僕はこの森では完全に狩られる側だということだ。
母虎は色々な動物や魔獣を狩って食べていたけれど、今の僕では最初に見た鹿のような動物にも勝てそうにない。あの角で突かれたら痛そうだ。
僕は他の生き物の気配にビクビクしながら隠れられる場所を探した。
少し歩き回ったら、いい感じに岩の影になった場所に、浅い洞窟を見つけた。広さは4畳半くらいだけど、僕の体はまだ猫くらいの大きさしかないので余裕で寛げる。
ここをとりあえずねぐらにすることにしよう。
しばらくはこの洞窟に隠れながら魔法の練習をして、たまに兎などの小さい獲物を狩って飢えをしのごう。
幸い水は時間をかければ水魔法で出すことができる。僕は早速魔法の練習を始めた。
あれから2日ほどが経った。お腹が空いて死にそうだ。
狩りに行くにも魔法が使えた方が安心だろうと思い、ギリギリまで引きこもって、寝ている時以外は魔法の練習をしていた。
そのおかげで魔力が少し増えたけれどお腹が空いた。早く何か食べたい。
洞窟を出て少し歩くと、遠くに毒々しい紫色をした巨大な蛙が見えた。僕は蛙に見つからないようにそっと木陰に隠れた。
あいつはダメだ。
前に母虎が狩っているのを見たことがあるが、母虎でも一撃では狩りきれないくらい強い。
僕なんてぺろりと食べられてしまうだろう。
それに見た目が毒々しいので食べたくない。ていうか絶対毒あるよ。
母虎は普通に食べていたけれど大丈夫なんだろうか?
毒に耐性とかあるのかな。少しずつ摂取して慣らしていけば毒耐性が手に入るだろうか。
毒耐性は欲しいけれど、やっぱり僕には蛙はまだ早いのでその場から音をたてないようにそっと離れた。
よく考えたら僕に母虎のような狩りはまだ無理かもしれない。
まだ体長が大人の猫くらいしかない僕ではあまり大きい獲物は仕留められない。
猫が狩るものを想像しても、ねずみか小鳥くらいのものだ。
兎も僕には大きすぎる。
それでもねずみや小鳥なんかではお腹が一杯にならないので、僕は罠を使って兎を狩ることにした。
罠なら仕掛けて待つだけだ。子虎の僕にも兎が狩れるかもしれない。
早速僕は土魔法で穴を掘り始めた。原始的だけれど罠の王道、落とし穴だ。
まだ魔力量が少なくて少しずつしか掘れないが、魔法の練習にもなって一石二鳥だ。
いつもやっている魔法の練習と同じように、掘る、魔力が枯渇する、大気中から吸収するというルーチンワークを延々と繰り返す。
半日ほど掘って、満足できる大きさの穴が掘れた。お腹が減っているのでたくさん食べたくて、つい大きな穴を掘ってしまった。兎が何十匹も入りそうな穴だ。
最後に土魔法で落とし穴の底に針山を作って、薄い粘土板のような蓋をした後、木の葉をかけてカモフラージュした。
作成に半日ちょっとかかってしまったが、なんとか落とし穴が完成した。
後は獲物がかかるのを待つだけだ。木の実でも探して食べながら待つとするか。
ちょっと遠くまで足を延ばして、やっと見つけた桃みたいな果物を食べた。
落とし穴から結構離れているのでそれなりに時間が経っている。
そろそろ何か掛かっている頃だろうと思い、落とし穴まで戻ってそっと覗き込んでみると、毒々しい紫色をした蛙が掛かっていた。なんでだよ。
幸いにも串刺しになって死んでいるようなので、僕が逆に食べられることはなさそうだ。しかし、持って帰って洞窟で食べたいのに、大きすぎて持って帰れない。
こんなときに転移か空間収納が使えると便利なのだけど、次元魔法は魔法の中でも消費魔力がダントツで多いので今の僕には全く使えない。
しょうがないのでこの場で食べることにした。完全に死んでいることを確かめるように恐る恐る近づいて肉球でちょんちょんと触ってみる。ちゃんと死んでいるようだ。
さすがに母虎のように内臓まで貪り食うのは気が引けたので、とりあえず足にかぶりついてみた。毒々しい外見に似合わず美味しい。
食べても身体に不調がないかどうか少し待ってみたが、身体に不調は見られない。毒々しいのは外見だけで毒はないのかもしれない。僕は一心不乱に食べた。
2日半ぶりのお肉は最高だった。ただ、生肉も美味しいけれど、ビジュアル的に焼いた肉のほうが食欲をそそるので、そのうち焼いた肉も食べたい。塩や香辛料なんかがあれば最高だ。
塩は海か岩塩の鉱脈があれば、虎でも手に入れられるかもしれないが、香辛料は人間と関わらなければ手に入らないかもしれない。
正直人間とは関わりたくない。あれだけ盛大に公開処刑されればトラウマにもなる。人間の醜さと今の自分の無力さを想像して、思わず身体がぶるりと震えた。
そして早く魔法を使えるだけの魔力を鍛えなければという焦燥感がこみ上げてきた。香辛料はあきらめよう。人間怖い。
僕は蛙の内臓などが残されたままの落とし穴に、さっきと同じように蓋をして木の葉でカモフラージュして、逃げるように洞窟に帰った。
これから全力で魔力を上げなくては。
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