俺のメイドちゃんだけキリングマシーンなんだけど

兎屋亀吉

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4.浸食する魔界食材

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 エルザの柔らかい唇が離れると共にすべてを思い出した。
 あのパーティーの後大変だったな、俺行方不明扱いされてて次の日洋館で球形の積み木抱えて寝てるのが発見されたんだよな。
 あの洋館の持ち主は地下室の存在自体知らないみたいだったけれど、エルザのお礼参りの相手は誰だったのだろうか。

「ずいぶんと口調が変わっていたから分からなかったよ。封印されたお礼は済んだの?」

「はい、すべては坊ちゃまのおかげです。私は坊ちゃまに一生お仕えする所存にございます。坊ちゃまの下に馳せ参じるために、イギリスでメイドに必要なスキルを全て習得して参りました。この口調も努力の結晶でございます」

「そっか、あのときの貴婦人がね。それでエルザはいったい何者なの?」

「はい、私の本名はエリザベート・ルシファルと申します。魔界を統べる三大魔王の一角、グレン・ルシファルの末の娘にございます。ちなみに種族は上位悪魔です」

「さ、さよか」

 すごいのをメイドにしてしまった。







 エルザがメイドになってから約4ヶ月。
 若きパッションを持て余す俺側の問題は多々あれど、エルザのメイドとしてのスキルには全く問題はない。
 むしろちょっとおばさん特有の無神経気味な律子さんに比べると、非常にサービスとしての質は高い。
 今日はすでに金持ちボンボン学園…正式名称は…えっと、なんだったかな。

「彩叶学園です、坊ちゃま」

 そうだった彩叶学園に入寮する日だ。
 全寮制のこの学園は、入学式の前日までに入寮しておく必要がある。
 俺は何事にも余裕をもたせて早めに行動したいタイプなので1週間前の今日、入寮することにしたのだ。

「坊ちゃまはこちらでお茶でも飲んでごゆっくり」

「あ、ああ」

 そんで今何が起こっているのか、俺にもさっぱりだ。
 なんか、ちっちゃいエルザがいっぱいいる。
 3頭身くらいのちっちゃいエルザが、ぴょこぴょこ動いて引越しの荷物を運んでいる。
 なんかちょっと可愛い。
 でもこれ、誰かに見られたら…。

「大丈夫です。人払いの結界を張っておりますので。それにこんなに早くに入寮するのは坊ちゃまだけのようです。みなさま最低でも3日後くらいに入寮するようです。食堂もまだ稼動しておりませんので3日間は私がお食事をお作りいたします」

「そ、そうか。エルザの料理楽しみだなぁ。あはは…」

 先ほどからの会話からも分かるとおり、エルザは心が読める。
 つまり俺の思春期特有の葛藤もすべて分かっているのだ。
 分かっていてわざと太ももや胸のふくらみを強調してみせて、俺の反応を楽しんでいる。
 まさに悪魔の所業。
 くそっ、これだから本職の悪魔は、悔しい!でも見ちゃう。
 早く思春期を抜けて童貞でも卒業しないことには、俺の合理的な思考が煩悩に侵されてしまう。
 
「坊ちゃまはずっと思春期でいてくださってもいいんですよ?」

 そう言ってエルザは胸の下で腕を組み、ぎゅっとよせて胸を強調して見せる。
 柔らかそうな双丘に俺の理性が一瞬吹っ飛びかけるが拳を握りしめてなんとか耐える。
 もう無理だ。

「ちょっとトイレ」

「はい、ご一緒します」

「ご一緒しなくていい!!」

 俺は逃げるようにトイレに向かった。
 寮の部屋も学生が住む部屋とは思えないほど広かったが、トイレも高速道路のパーキングのトイレかというほど広かった。
 
「ふぅ」

 トイレで用を済ませた俺は、念入りに手を洗って部屋に戻る。
 また悪魔と理性の戦いが始まるな。







 今日は入寮から3日目、エルザの話では今日この男子寮に2番目の入寮者が来るらしい。
 やだな、金持ちのボンボン怖いよ。
 気が重い中、エルザの作った朝食を食べる。
 今日も完璧な味だ。
 帝国ホテルの朝食バイキングを食べたことがあるが、それと遜色ない味だ。
 どこで買ったのかベーコンだけは帝国ホテルよりもうまく感じる。
 
「魔界のベーコンです」

「あ、そう」

 そりゃ帝国ホテルには仕入れられんな。
 俺が気づいていないだけで魔界産の食材は結構使われていたのだろうか。

「昨夜の煮込み料理の肉はドラゴンの尾の付け根の肉です」

「……」

 みんなの憧れ、ドラゴン肉を知らずに食していたとはな。

「一部の知性ある古龍を除いてドラゴンは魔界では家畜として飼育されています」

 俺の常識がどんどん崩れていく。
 いや、言い訳をさせてくれ、煮込み料理は肉質が分かりづらいんだよ。
 だからなんだって話だけどな。
 もういいや、ドラゴン肉もう一回食べたいです。

「かしこまりました。今日の夕食から食堂が稼動するみたいですが、今日の夕食は私がお作りいたしますね」

 そう言ってエルザはにっこりと妖艶に笑った。
 なんだか胃袋から侵略されているような気がする。
 食堂の料理、はたして俺はその味に満足できるのだろうか。
 俺がそんなことを考えていると、扉の外がにわかに騒がしくなってきた。

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