俺のメイドちゃんだけキリングマシーンなんだけど

兎屋亀吉

文字の大きさ
5 / 24

5.隣のラスボス

しおりを挟む
 ついに来てしまった。
 しかもよりによって隣の部屋だ。
 めちゃくちゃ横暴なバカボンボンだったらどうしよう。
 
「坊ちゃん、お父様の四宮ホールディングスも結構大きな会社ですよ?明確な格上などそれこそ真四角御三家くらいしかないのではないですか?」

 真四角御三家、真四角グループを代表する主要企業の会長、社長たちによって結成された真四角グループの大まかな方向性などを決める会合である黒曜会の中核をなす真四角商事、真四角銀行、真四角電機の3大企業のことをそう呼ぶ。
 実質的な真四角グループのトップだ。
 この3企業の子息、令嬢が偶然にも全員俺と同学年で、今年高等部に進学するということはすでにエルザ情報で知っている。
 できるなら一生会いたくなかったな。

「あとは一部の権力者の子供にも会いたくないな。芸能人の息子とかも可能性としてはあるな。あと裏社会のやつな」

「それではほぼ全員ですが」

「こんな学園でお友達たくさんできるわけない」

 お腹痛い金持ちボンボン怖い。
 そうそう言っているうちに廊下が静かになってきた。
 お引越しが終わったのだろうか。
 俺はドアに近づき、ちょっとだけ開けて外を見る。
 なぜかエルザも付いてきて俺の後ろにぴったりと張り付く。
 ちょっ、当ててんの?
 廊下には気弱そうな背の低い男子生徒が一人で立っていた。
 ちょうど引越しが終わったところのようで、出て行く引越し業者が見えなくなるまで見送っているようだ。
 律儀なやつだ。
 これはお友達になれそうな予感。
 お、まずい、こっちに来る。
 お隣に挨拶か?マジで律儀。
 ちょ、エルザ、下がれって。
 エルザは少し名残惜しそうにしながらも、俺の後ろから離れる。
 直後ドアノッカーがカンカンという音を立てて鳴らされる。
 危なかった、ギリギリセーフ。
 俺は何事もなかったかのように自然にドアを開ける。
 
「あ、あの、初めまして、隣になりました雪村ゆきむらつばさです。これから、よ、よろしくね」

 そこには気の弱そうな美少年が立っていた。
 世の中のお姉さま方の庇護欲をくすぐる天性の女垂らしといった風貌の少年だ。
 だが、俺はそんなことよりも名前のほうに度肝を抜かれていた。
 雪村翼、それは今年高等部に進学する真四角御三家の一角、真四角商事の会長の孫の名前だった。
 俺はびっくりしすぎてちょっと涙が出てきた。
 茫然自失状態の俺のお尻を、できるメイドがそっと撫でる。
 ゾクリとする快感に俺は我を取り戻す。

「あ、あの、四宮要です。よ、よろしくおねがいします」

 ここはめちゃくちゃ下手に出ておく。
 ボンボン怖すぎる。
 こんな可愛い顔してメイドさんを集めて酒池肉林とかしてるんだろうか。
 メイドさんの胸の谷間から葡萄ジュースとか飲んでるんだろうか。
 う、うちのメイドは渡さないぞ!?

「坊ちゃん…ポッ」

 ポッて自分で言うな。
 
「あ、あの、四宮ってあの四宮ホールディングスの?」

「はい、末っ子です」

「ぼ、僕なんかに敬語は使わなくて、いいよ」

「そ、そうですか。そうかですか。?そう、そうか」

 ビビりすぎて自分がなに言ってるのか分からなくなってきた。
 
「あ、あの、いままでなんで彩叶学園に通わなかったの?」

 ビビッてました、とは言えない。
 
「い、いやあれだよね。世間一般の感覚というものを養うために、その、あらゆる可能性をだね、鑑みて、えーと、自分の可能性を試していた!」

「ボソッ)ビビッてたんですよね、坊ちゃま…」

 今日はやけにメイドが騒ぎやがる。
 さては俺の右腕に封印された邪神の欠片と共鳴してやがるのか?
 
「すごい…。自分の可能性を試すためにあえて過酷な環境に自分を追い込むなんて!誰にでもできることじゃないよ!!四宮君、僕と友達になってくれないかな?僕は君と友達になりたいんだ」

「ぶっくくくく、坊ちゃま、右腕に、邪神、ぶくくくっ、苦し」

 上位悪魔を撃退する方法がわかったかもしれない。
 しかし、雪村君はなにか熱いなにかを迸らせているな。
 何が雪村君の琴線に触れたんだろうか。
 今更怖いからお友達にはなれませんとは言えない。

「ああ、友達になろう。雪村君、いや、雪村」

「うん。これからよろしくね、要君」

 おう、いきなり名前呼びですか。
 ちょっと俺にはハードル高いです。

「あ、要君の反対隣も生徒が来たみたいだよ」

「本当だ…」

 なんでよりにもよって俺の両隣は今日入寮しちゃってんだよ。
 まあどうせいつかは入寮するんだ、早いか遅いかの違いしかないのならば早いほうが楽か。
 それに俺の部屋の反対隣はどうやら珍しく一般家庭の生徒らしい。
 引越しを家族らしき人が手伝っている。
 金持ちならば俺のような例外を除いて、引越しには使用人か業者を使うだろう。
 家族みんなでアットホームにお引越しなど金持ちはしない、と思う。
 だけど、雰囲気というかなんかそういうのが、あの集団はきっと金持ちではないと感じさせる。
 
「恵理香、お前本当にメイドなんてできるのか?」

「大丈夫だってお父さん、私めちゃくちゃ練習したんだから」

「文彦、お前もこんなお金持ちばかりの学校でやっていけるのか?」

「問題ないよ、親父。絶対出世して、恵理香を幸せにして見せるよ」

「頼んだよ文彦君」

 なんというアットホーム。
 家族ぐるみでお付き合いしているのか。
 大方幼馴染メイドといったところだろう。
 まだ15、6歳で照れて気持ちを伝えられないお年頃だというのに、すでに幼馴染メイドと将来結婚するという関係性を家族ぐるみで確立している。
 あの文彦君という男子生徒、なかなかの上級者だな。
 しかし、この弱肉強食の金持ちボンボン学園で幼馴染を守り通すのは茨の道だと思うぞ文彦君。
 絶対このド貧民、メイド置いて出ていきな!みたいなバカボンボンがいるんだ。
 怖いよバカボンボン。

「そろそろあいさつに行こうか」

 マジかよ雪村。
 一生付いて行こうかな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

処理中です...