ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉

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2.【回転】の威力

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 さあ、森に入ってゴブリン狩りだ。
 見習い冒険者といえばゴブリン、ゴブリンといえば見習い冒険者だ。
 僕は今までの薬草拾いという見習い以下の扱いを変えるために、森へと足を踏み出したのだった。
 そして戻ってきたのだった。
 いや、心の準備がまだだったよ。
 よし、今度こそ心の準備万端。
 踏み出したのだった。
 いや今度はホントに。
 僕は背中の投げ槍を一本引き抜き、握り締めながら歩く。
 ふー緊張する。
 大丈夫、昨日何度もシュミレーションした。
 あれ?シミュレーションだったかな、それとも炭レーション、いやいや。
 そんなことはどうでもいい。
 とにかく準備は万端なんだ。
 ゴブリンが出たら、こいつにジャイロ回転を加えて思い切り投げる。
 それだけだけど、何度も何度も頭の中で繰り返しその動作を確認したんだ。
 冒険者ギルドの訓練場で模擬練習もした。
 先を削っただけの木の棒を投げる練習を他の冒険者たちに笑われながらも繰り返した。
 いけるはず。
 ガサガサという木立が揺れる音。
 緑の肌の醜悪な小鬼が見える。
 ゴブリンだ。
 よし、行け!
 僕は身体を捻り、力いっぱい槍を投げる。
 手から放れる瞬間にジャイロ回転を加える。
 全力だ。
 【回転lv1】この『回転』の後に付いているlv1とはスキルレベルのこと。
 まだレベル1だけれど、そのレベル1の全力を込める。
 僕の投げた槍はギュルンギュルン回転しながら飛んで行き、ゴブリンの脳天を貫いた。
 やった!
 落ちていた木の棒で、ゴブリンを倒した!
 すごい、これはすごいことだよ。
 僕は踊りだしそうな喜びをこらえて倒したゴブリンに近づく。
 するとまたガサガサという音がして、新たに3匹のゴブリンが現れた。
 まずい、複数は無理だよ。
 ここは戦略的撤退だ。
 僕は倒したゴブリンに少し後ろ髪を引かれながらも逃げ出した。
 ゴブリンは足がそんなに速くないので全力で走れば逃げ切れるはずだ。
 ゴブリンたちは少しの間追ってきていたが、案の定途中でいなくなった。
 振り切ることができたみたいだ。
 はあ、それにしても倒したゴブリンはもったいなかったな。
 ゴブリンの討伐報酬は1匹だけでも薬草採集でもらえる1日の稼ぎの半分程度になる。
 つまり2匹倒すだけで今までの稼ぎを稼ぐことができるのだ。
 まあいい。
 ゴブリンはこの森に腐るほどいる。
 落ち込んでいる暇があったら新しいゴブリンを探したほうが建設的だ。
 僕は1匹でうろついているゴブリンを探して歩き始めた。
 




 ゴブリン狩りを始めて半日ほど。
 すでにゴブリンを5匹も仕留めた。
 やばいねジャイロは。
 僕の弱肩から放たれる60キロくらいのヘロヘロな投石でもジャイロ回転がかかることによってゴブリンを蹲らせるほどの威力になる。
 投げ槍ならどこに当たっても深く刺さる。
 しかし手持ちの槍ももうあと1本だし、今日はそろそろ帰るとしよう。
 ちょうど1匹で歩いているはぐれゴブリンを見つけたところだ。
 こいつを最後の1匹にする。
 僕は5メートルほどの距離まで近づき、槍を投げた。
 浅い。
 槍はゴブリンの太ももに刺さり、ゴブリンをダウンさせたけれどまだ生きている。
 ゴブリンの生命力は馬鹿にできないので慎重に投石でトドメを刺す。
 腰の皮袋からこぶし大の石を取り出し、投げる。
 大して鍛えていない僕の弱肩から放たれた石は、ジャイロ回転しながらゴブリンの右目のあたりにぶち当たった。
 
「グギャァァッァ!!!」
 
 断末魔の声をあげてゴブリンは動かなくなった。
 はあ、何度やっても慣れない。
 やっぱりゴブリンは怖いや。
 でもこれでゴブリンが6匹。
 いつもの収入の3倍くらいにはなる計算だ。
 討伐証明であるゴブリンの右耳を切り取りながらも僕はにやけてしまう。
 やっぱりこの【回転lv1】というスキルを買ってよかった。
 ナイフ1本持った僕じゃあこんなにゴブリンは狩れなかった。
 槍や石も、回転させないまま投げてもゴブリンを殺せるか微妙だ。
 こんなに安定してゴブリンを狩れるなら、やっぱりスキルを買ってよかった。
 でもこんなゴミスキルですら持っていたらそれなりに有利に戦闘を行えるのに、レアスキルなんて持って生まれた人は人生勝ち組なんだろうな。
 うう、僕は転生者なのに……。
 なんですごいスキルのひとつふたつ持って生まれさせてくれないんだ。
 もうやめよう。
 そういうことを考えるのはやめようって10歳のときに決めたんだ。
 ないものは無い。
 だから頑張るんだ。
 うん、そうだ、最初から持ってたらきっとこんなに頑張らなかった。
 よし、なんだか元気が出てきた。
 今日はなにか美味しいものでも食べよう。
 僕は軽くスキップしながら街への道を急いだ。
 あ、転んだ。
 痛い。







 
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