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38.青年と幼女と僕
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ジロジロと僕のことを頭から足まで検分するひとりの男。
派手な服装からおそらく貴族であると思われる。
「うーん、ぱっとせんな。次行くぞ」
「かしこまりました」
後ろに付き従う奴隷商がしっしっと手振りで戻るように促す。
あれから数日がたった今日。
僕は未だに売れ残っている。
僕の身分は元盗賊の犯罪奴隷ではあるものの、雑用ばかりしていた軽微な罪の者という触れ込みで奴隷商はなるべく普通のところに売れるように便宜を図ってくれているものの、僕自身の顔の地味さとスキルの地味さで中々売り手が見つからない。
僕の持っているスキルの中で、わりと世間一般から使えると思われているものはやはり金貨で買ったブラックキューブなどだろう。
石魔法や、召喚士スキル3点セットもなかなか使えると思われるかもしれない。
しかしそういった人材には信用というものが重要である。
ブラックキューブの中に入れたものを横領しない、召喚生物に憑依して得た情報を漏らさない、嘘の情報を伝えない。
そういったことに対する信頼性が僕には無い。
元冒険者、元盗賊、犯罪奴隷、どれをとっても信用できない。
かといって他の荒くれ犯罪奴隷のように戦闘に使えるかと言われたら、スキル構成や体つきからも強そうには見えない。
僕のスキル構成で信用を気にせず働ける奴隷の販売先ってどこだろうなぁって考えたときに、一つ思い当たる場所がある。
鉱山だ。
僕のスキル構成はまさに鉱山労働のためにあるかのようではないか。
最近奴隷商が冷たいような気がする。
嫌な予感がビシビシするね。
「クロード君、私は君が売れるように精一杯努力してきたけれどね、限度というものがある。オークの肉2箱で出来る努力というのはこのへんが限度だと思うのだよ」
もうちょっとだけ努力してくれてもいいんですよ。
「私も最大限努力したさ。優良な売り渡し先には必ず最初に君を見せたし、値引きも応じると伝えた。しかし君は売れなかった。これは私に非があると思うかね?」
どうですかね。
難しくて分かりかねます。
「無いとも。私は優遇するとは言ったが別に必ずいいところに売るとは言ってない。私が約束したのは努力だけであって私はすでにその努力を終えている。つまり契約は履行されたと言っても過言ではない」
過言だと思いますが。
少なくとも僕にとってはですが。
「何が言いたいのかといえば、君を鉱山に売ってもいいかな」
「ふぁっ!?」
「しかし私も鬼じゃない。君は特別奴隷として売ろう。一山いくらの鉱山奴隷と違って使い潰されることはない。君は鉱山向きのスキルをたくさん持っているからね。一生懸命働いてくれるならばそれなりに待遇もいいことだろう。ただ、事故の心配は拭いきれないがね……」
「ひっ……」
こうして僕は、鉱山に特別奴隷として売られることとなった。
鉄格子の付いた馬車の荷台に、20人くらいの奴隷が押し込められるように乗せられる。
ぎゅうぎゅう詰めだ。
全員が座ったら肩が当たるくらいの距離。
満員電車よりはマシかもしれないけれど、これから3日この状態が続くと思うと気が滅入る。
この馬車に乗せられている奴隷はみんな鉱山に売られる奴隷ばかりだ。
僕は特別奴隷と呼ばれる種類の奴隷なので、赤色の首輪を付けている。
しかし他の奴隷と違うのは鉱山についてからの待遇と首輪の色くらいで、輸送中は他の奴隷と同じ扱いだ。
みんなお風呂なんて入っていないからなかなか匂うな。
僕は生活魔法がレベル5になったときに使えるようになった浄化の魔法で常に身ぎれいに保っているので余計に他の人たちの匂いが気になってしまう。
僕の他にも身ぎれいにしている人はいるけれど、みんな赤色の首輪だ。
やはり特別奴隷になるようなスキルを持った人は銀貨10枚で買える生活魔法スキルを身につけている人が多いようだ。
特別奴隷の赤い首輪をしている人は僕を含めて全部で3人だけ。
僕の他には同年代くらいの青年が一人と、10歳くらいの女の子が一人だ。
あんな女の子も奴隷だなんて、ひどい世界だ。
いったい何をして鉱山なんかに送られることになったのか。
少しウェーブした銀色の髪に褐色の肌、赤い目のきれいな女の子だ。
あと10年くらいしたらさぞかし美人になることだろう。
しかし鉱山に送られる奴隷の中に他に女性は居ない。
あの血も涙もなさそうな奴隷商でもさすがに鉱山に女性の奴隷を送るなんて非常なことはしないようなのに、彼女だけはこの鉱山行きの馬車に乗せられている。
彼女に何かあるのだろうか。
特別奴隷なのだし、きっと何かあるのだろう。
「なあ、俺は本当にやってないよ。スタークさんにもう一度だけ確認してくれ。本当に俺じゃないんだ」
僕と同年代くらいの特別奴隷の青年が御者に一生懸命訴えかけている。
気になる名前が出た。
僕を奴隷に落とした男、商人のスターク。
同名の別人とかでなければ同じ人だろう。
「うるさい、黙れ!!」
御者の男は手に持っていた乗馬鞭で鉄格子をピシリと叩く。
特別奴隷の青年はビクリと体を震わせると鉄格子を掴んでいた手を放し、俯いてしまう。
このギュウギュウ詰めの状態ではあの青年に近づいて話を聞くことはできないけど、鉱山に着いたら話を聞いてみたい。
もしかしたら僕と同じように何らかの罪を被せられて犯罪奴隷にされてしまった被害者かもしれない。
被害者の会でも立ち上げようかな。
特に活動するわけでもないけど、なんとなく愚痴とか言い合えるかもしれないし。
問題は僕が初対面の人と話すのが苦手というところだな。
盗賊相手には結構好き勝手なことを言えたんだけど、普通の人間は苦手だな。
盗賊とは絶対にお友達になる可能性がなかったから意外に話しやすかったな。
でもこれからはそれではいけない。
盗賊としか話せないような人間になるのはよくないよね。
僕の決意と共に、馬車はガタゴト走り出した。
ああ、尻痛い。
派手な服装からおそらく貴族であると思われる。
「うーん、ぱっとせんな。次行くぞ」
「かしこまりました」
後ろに付き従う奴隷商がしっしっと手振りで戻るように促す。
あれから数日がたった今日。
僕は未だに売れ残っている。
僕の身分は元盗賊の犯罪奴隷ではあるものの、雑用ばかりしていた軽微な罪の者という触れ込みで奴隷商はなるべく普通のところに売れるように便宜を図ってくれているものの、僕自身の顔の地味さとスキルの地味さで中々売り手が見つからない。
僕の持っているスキルの中で、わりと世間一般から使えると思われているものはやはり金貨で買ったブラックキューブなどだろう。
石魔法や、召喚士スキル3点セットもなかなか使えると思われるかもしれない。
しかしそういった人材には信用というものが重要である。
ブラックキューブの中に入れたものを横領しない、召喚生物に憑依して得た情報を漏らさない、嘘の情報を伝えない。
そういったことに対する信頼性が僕には無い。
元冒険者、元盗賊、犯罪奴隷、どれをとっても信用できない。
かといって他の荒くれ犯罪奴隷のように戦闘に使えるかと言われたら、スキル構成や体つきからも強そうには見えない。
僕のスキル構成で信用を気にせず働ける奴隷の販売先ってどこだろうなぁって考えたときに、一つ思い当たる場所がある。
鉱山だ。
僕のスキル構成はまさに鉱山労働のためにあるかのようではないか。
最近奴隷商が冷たいような気がする。
嫌な予感がビシビシするね。
「クロード君、私は君が売れるように精一杯努力してきたけれどね、限度というものがある。オークの肉2箱で出来る努力というのはこのへんが限度だと思うのだよ」
もうちょっとだけ努力してくれてもいいんですよ。
「私も最大限努力したさ。優良な売り渡し先には必ず最初に君を見せたし、値引きも応じると伝えた。しかし君は売れなかった。これは私に非があると思うかね?」
どうですかね。
難しくて分かりかねます。
「無いとも。私は優遇するとは言ったが別に必ずいいところに売るとは言ってない。私が約束したのは努力だけであって私はすでにその努力を終えている。つまり契約は履行されたと言っても過言ではない」
過言だと思いますが。
少なくとも僕にとってはですが。
「何が言いたいのかといえば、君を鉱山に売ってもいいかな」
「ふぁっ!?」
「しかし私も鬼じゃない。君は特別奴隷として売ろう。一山いくらの鉱山奴隷と違って使い潰されることはない。君は鉱山向きのスキルをたくさん持っているからね。一生懸命働いてくれるならばそれなりに待遇もいいことだろう。ただ、事故の心配は拭いきれないがね……」
「ひっ……」
こうして僕は、鉱山に特別奴隷として売られることとなった。
鉄格子の付いた馬車の荷台に、20人くらいの奴隷が押し込められるように乗せられる。
ぎゅうぎゅう詰めだ。
全員が座ったら肩が当たるくらいの距離。
満員電車よりはマシかもしれないけれど、これから3日この状態が続くと思うと気が滅入る。
この馬車に乗せられている奴隷はみんな鉱山に売られる奴隷ばかりだ。
僕は特別奴隷と呼ばれる種類の奴隷なので、赤色の首輪を付けている。
しかし他の奴隷と違うのは鉱山についてからの待遇と首輪の色くらいで、輸送中は他の奴隷と同じ扱いだ。
みんなお風呂なんて入っていないからなかなか匂うな。
僕は生活魔法がレベル5になったときに使えるようになった浄化の魔法で常に身ぎれいに保っているので余計に他の人たちの匂いが気になってしまう。
僕の他にも身ぎれいにしている人はいるけれど、みんな赤色の首輪だ。
やはり特別奴隷になるようなスキルを持った人は銀貨10枚で買える生活魔法スキルを身につけている人が多いようだ。
特別奴隷の赤い首輪をしている人は僕を含めて全部で3人だけ。
僕の他には同年代くらいの青年が一人と、10歳くらいの女の子が一人だ。
あんな女の子も奴隷だなんて、ひどい世界だ。
いったい何をして鉱山なんかに送られることになったのか。
少しウェーブした銀色の髪に褐色の肌、赤い目のきれいな女の子だ。
あと10年くらいしたらさぞかし美人になることだろう。
しかし鉱山に送られる奴隷の中に他に女性は居ない。
あの血も涙もなさそうな奴隷商でもさすがに鉱山に女性の奴隷を送るなんて非常なことはしないようなのに、彼女だけはこの鉱山行きの馬車に乗せられている。
彼女に何かあるのだろうか。
特別奴隷なのだし、きっと何かあるのだろう。
「なあ、俺は本当にやってないよ。スタークさんにもう一度だけ確認してくれ。本当に俺じゃないんだ」
僕と同年代くらいの特別奴隷の青年が御者に一生懸命訴えかけている。
気になる名前が出た。
僕を奴隷に落とした男、商人のスターク。
同名の別人とかでなければ同じ人だろう。
「うるさい、黙れ!!」
御者の男は手に持っていた乗馬鞭で鉄格子をピシリと叩く。
特別奴隷の青年はビクリと体を震わせると鉄格子を掴んでいた手を放し、俯いてしまう。
このギュウギュウ詰めの状態ではあの青年に近づいて話を聞くことはできないけど、鉱山に着いたら話を聞いてみたい。
もしかしたら僕と同じように何らかの罪を被せられて犯罪奴隷にされてしまった被害者かもしれない。
被害者の会でも立ち上げようかな。
特に活動するわけでもないけど、なんとなく愚痴とか言い合えるかもしれないし。
問題は僕が初対面の人と話すのが苦手というところだな。
盗賊相手には結構好き勝手なことを言えたんだけど、普通の人間は苦手だな。
盗賊とは絶対にお友達になる可能性がなかったから意外に話しやすかったな。
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盗賊としか話せないような人間になるのはよくないよね。
僕の決意と共に、馬車はガタゴト走り出した。
ああ、尻痛い。
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