ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉

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39.モフモフを召喚

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 鉱山に着いた。
 輸送の馬車の乗り心地としては、まあ最悪かな。
 ご飯は一日1回だし、トイレは6時間に1回くらいだし、寝るのは座ったままだし、馬車はずっと動いてるし。
 地獄のような三日だった。
 三日で着くって普通夜は馬車止めて寝ると思うでしょ。
 馬変え御者変えずっと移動だよ。
 寝れないし、お腹空いたし、トイレは休憩所まで我慢だし。
 しんどかった。
 あの幼女のことを心配している余裕がないくらい地獄だったけど、幼女は生き延びているだろうか。
 あと被害者の会の彼も。
 鉄格子の扉が開き、ふらふらになった犯罪奴隷たちが青い顔をしながら順番に降りていく。
 荒くれものの元犯罪者共もさすがに三日の地獄で気力をすべて奪われたのか、逃げようとする者や暴れる者は皆無だ。
 もしかしたら脱走する気力を削ぐためにこんな無茶な輸送スケジュールなのかもしれない。
 数人気絶している者もいるからね。
 そんな中でも幼女は出発前と変わらぬ顔色でつんと澄まして馬車の外を見ていた。
 幼女タフだな。
 僕なんかさっき気絶から回復したばかりだというのに。
 僕の場合他の人よりも気絶するタイミングが早かったおかげで到着する頃ちょうど目が覚めた。
 被害者の会の彼は青い顔をしているけれど、気絶していない。
 彼もタフだな。
 やがてほとんどの犯罪奴隷が下ろされて、僕たち特別奴隷の番となる。
 別に一般奴隷と特別奴隷で分かれていたわけではないけれど、なんとなくこの3人が残ったというだけだ。
 
「よし、お前たち3人が特別奴隷だな。仕事がたくさんあるぞ。こっちに来い」

 僕たちを案内してくれているのは鉱山の管理官だ。
 肉体労働者のような恰好をしているけれど、ここでは一番偉い人らしい。
 小さな鉱山なので偉い人自ら働かなくてはやっていけないのだろう。
 悲しい現実だ。
 しかし偉ぶった嫌な奴じゃなさそうで少しホッとする。
 奴隷生活は出だし上々なのではないだろうか。

「あの、俺たち以外に特別奴隷っていないんですか?」

 被害者の会の彼が管理官におずおずと質問する。
 すごいコミュ力だ。
 君を被害者の会の会長にしてあげてもいい。

「ああ、死んだよ。この間の落盤事故でね……」

 ひぇっ。
 僕の奴隷生活は、出だし上々なのだろうか。




 僕たち3人の特別奴隷は、別々の場所に連れていかれ仕事をすることとなった。
 どうやら役割分担があるらしく、幼女は僕の石魔法と同じような石を加工する系のスキルを持っているようなので加工場に、被害者の会の会長はブラックキューブスキルを持っているようなので石運びに。
 僕はというと、召喚士系のスキルを持っていることを見込まれて狭い坑道の偵察を任された。
 管理官の部下だというこれまた肉体労働者のような男。
 たぶんこの人はマジモンの肉体労働者だと思う。
 その人から渡されたのはひとつのスキルキューブだ。
 
スキル名:【召喚術(猫)】
  詳細:エクストラスキル。猫を召喚することができる。

「これは?」

「お前は地を歩く召喚生物を召喚できないだろ?だからそれを使え。本当はネズミがベストなんだが、今在庫切れだから猫だ」

 なるほど。
 たしかに僕が召喚できるのは鳩とゴブリンだけ。
 ゴブリンは奴隷になって鑑定を受けた後に取得したから知られていないし、鳩で坑道を偵察というのも難しい。
 僕はありがたく【召喚術(猫)】をいただいた。
 奴隷になってスキルをもらえるってこともあるんだな。
 これも特別奴隷だからなのかもしれない。
 使役魔法も憑依も、どちらも金貨50枚のスキルだ。
 合わせて金貨100枚。
 それだけの価値が僕にはあるということだ。
 僕はスキルオーブを握りしめ、古代語で解放を意味する単語をつぶやいた。
 スキルオーブは一瞬光り、僕の中に新しいスキルが芽生える。
 スキルの力を行使して、僕は次元の彼方から1匹の猫を呼び寄せた。
 スキルオーブを解放したときよりも幾ばくかやわらかい光が巻き起こり、光の中から真っ黒い猫が現れた。

「ニャーン……」

 あ、かわいい。
 僕は実は猫派なんだ。
 猫も犬もかわいいと思うけど、どちらを飼うのかと聞かれたら猫なんだ。

「おい、早く使役魔法を撃ち込まないと」

 ああ、猫の愛らしさに気を取られて忘れていた。
 僕は使役魔法スキルのエフェクトである紫の矢のようなものを猫に撃ち込む。
 ここから先は精神の綱引きだ。
 鳩の時は2分くらいかかった。
 鳩のように思考能力の低そうな生き物にそれだけの時間がかかるのだから猫はもう少しかかるかもしれないな。
 僕と猫は睨みあう。
 かわいいな。
 ついつい僕の精神が猫に引っ張られそうになる。
 僕は目を瞑って猫の精神に集中した。
 5分ほど続けてようやく使役契約を結ぶことができた。
 猫と僕の間になんとなく繋がりのようなものができた気がする。
 この繋がりは非常に重要で、憑依スキルを発動したり召喚生物を送還したりする場合使役契約を結んでいないと召喚生物に触れる必要があるのだけれど、使役契約を結んでいればお互いがどれだけ離れていようと触れることなく憑依や送還が可能になる。
 まあ一言で言えばこの猫ちゃんはこれから僕と一心同体ってわけだ。
 
「ニャーン……」

 かわいいかわいい。
 一心に黒猫を撫でる。
 そういえば異世界なのにモフモフ成分が足りてなかったよね。
 頭に浮かぶモフモフといえば盗賊の用心棒だった男の耳と尻尾くらいだ。
 あんなのモフモフじゃない。
 僕の異世界生活に足りないものはこれだったんだ。

「そろそろ仕事に入るぞ……」

「はい……」

 異世界生活以前に今は奴隷生活なんだったね。
 さっさとモフモフに憑依するとしよう。



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