ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉

文字の大きさ
103 / 159

103.氷竜王グランフロスト3

しおりを挟む
「アナスタシア、氷竜王の後ろを取ってくれ」

「ピェェェェェェッ(頑張る)」

 アナスタシアは加速する。
 重たい鉄の塊を乗せて大変だろうけど、あと少しなのでどうか頑張ってほしい。
 氷竜王も黙ってやられるようなドラゴンではない。
 跳ね返されることを警戒してか、真・ドラゴンブレスは撃って来ないけれど自分が当たっても問題ないレベルの魔法攻撃や冷気ブレスを雨あられと放ってくる。
 気温が下がって寒いので、僕にとってはなかなか有効な攻撃だ。
 跳ね返しても気温は下がる。
 そしてたまに金の瞳が光って魔眼が発動される。
 これが一番厄介だ。
 僕は氷冷耐性を持っているので死ぬようなことにはならないが、アナスタシアは違う。
 目から放たれる青い光を一瞬でも見てしまうと体温がガッツリと持っていかれるので、避けるのは難しい。
 相手の目を見ないように戦うなんて、車〇眼対策に何年も訓練を重ねた緑タイツの人くらいしかできっこない。
 当然アナスタシアも多少なりとも目から出る光を見てしまい、寒さで身体が硬直してしまっている。
 不味いねこれは。

「ゴブ次郎」

「グギャ(ここに)」

 やっぱりいたか。
 一流の忍であるゴブ次郎なら必ずどこかに忍んでいると思っていたけれど、まさかアナスタシアのお腹の袋の中に居るとは。
 セクハラだぞ。
 ゴブ次郎はアナスタシアの身体をよじ登って僕の隣にやってくる。

「ゴブ次郎、分かっているな?あのスキルだ」

「グギャギャ(承知)」

 ゴブ次郎はひとつのスキルを発動する。
 それは以前奴隷時代に鉱山でザイードさんにこっそり買ってきてもらった銀貨10枚のスキルのうちのひとつ、温風だ。
 ゴブ次郎はアナスタシアのフワフワの羽毛に手を付き、温かい風を吹かせる。

「ピェェェェェェ……」

 アナスタシアは気持ち良さそうな鳴き声を漏らす。
 少し風が当たる僕も気持ちいい。
 まるでコタツの中の空気のように暖かい。
 
「よし、ゴブ次郎そのままの状態を維持していてくれ。アナスタシア、今のうちにやろう」

「グギャ(了解)」

「ピェェェェェェッ!!(やったる!!)」

 アナスタシアは身体が温まってスピードを速めた。

『くっ、ちょこざいな!』

 氷竜王の尻尾による一撃が来る。
 しかしそれは悪手だ。
 僕にとって直接攻撃ほど相性のいいものは無い。

『ぐぁぁぁぁぁっ』

 氷竜王は尻尾を弾き返されて体勢を大きく崩す。
 隙ができた。
 僕は巨大な手裏剣を大きく振りかぶって、ブンブンと3周半振り回す。
 何度も練習したリリースポイントで回転スキルを発動し、触腕を手裏剣から放す。
 高速回転する巨大な手裏剣の輪郭は、実物よりも幾分か大きく見えた。
 ピュインという空気を裂く音がして、弧を描きながら手裏剣は氷竜王の脇腹のあたりに接触する。
 ダンプカー同士の交通事故みたいな音がして、氷竜王の右脇腹から鮮血が噴出した。
 
『がぁぁぁぁぁっ』

 もはや声になっていないような叫び声が僕の頭の中に響き渡る。
 氷竜王は緩やかに高度を落としていった。
 僕も追随するように高度を落とす。
 やがて氷竜王は地面に墜落する。
 しかし僕が直前に設置した反転魔法のおかげで激突はしなかった。
 力なく横たわる氷竜王の金の瞳には、すでに戦意は無かった。
 僕もアナスタシアの背中から下り、氷竜王に近づく。
  
『まさか人間にここまで手酷くやられるとはな……』

「僕と契約してくれる?」

『竜の王たるもの一度した約束は守らなければならない。貴様との契約に応じよう』

「ありがとう」

 僕は使役魔法を飛ばして契約を結ぶ。
 そしてゴブヒールを呼び出す。
 氷竜王グランフロストはかなりの重症を負っている。
 早く治療をしなければ。

『ありがたいが、それには及ばぬ』

 氷竜王の身体が青い光に包まれ、その光が小さく凝縮されていく。
 光が晴れてそこに居たのは、綺麗なアイスブルーの髪に金の瞳をした絶世の美女だった。
 美人だとかそんなことはどうでもいいことだ。
 なにせその女の人は服を着ていなかった。
 生まれたままの姿の女の人が僕の目の前にいたのだ。
 僕は冷静に観察する。
 髪はさらさらのストレート、長さは腰くらいまである。
 顔は小さく、堀の深い欧米人のような顔立ち。
 口元にほくろがあって色っぽい。
 そしてなによりむき出しのおっぱいだ。
 手のひらには到底収まらなさそうなロケット型のおっぱいが惜し気も無くさらけ出されている。
 なんという重量感だ。
 しかし太っているというわけではない。
 その下のウエストはキュッと引き締まっていて筋肉質。
 腹筋もわずかに割れている。
 その下はとてもではないがR15では描写することはできない。
 なんという圧倒的な美。
 そしてエロスだ。
 芸術作品には女の人の裸をモチーフにしたものが多いけれど、こういうことだったんだ。
 おそらく歴々の高名な芸術家達はこの美を伝えたかったのだろう。
 その美と匂い立つようなエロスからは、神から人間へのメッセージのようなものを感じる。
 人間よ子孫を増やせ、と。
 分かりました神様、しかし僕のような童貞はどうしたらいいのでしょうか。
 え?他の人に伝えたらいい?この気持ちを?
 そういうことですか。
 みんな同じなんだ。
 ピカソもルノアールもダヴィンチも、みんな童貞で、だからこそ自分ではない誰かにその神からのメッセージを伝えようとしたのだね。
 今なら分かるよ、その気持ちが。
 僕も下手くそな粘土細工でも作りたくなってきたから。
 肩をポンと叩かれて正気に戻る。
 ゴブ次郎が気を利かせてくれたようだ。
 本当に気の利くゴブリンだ。
 それにしても危なかった。
 危うく芸術家になるところだったよ。
 不器用な僕なんかではきっと食うに困って犯罪にでも手を出してしまうに違いなかった。
 ありがとうゴブ次郎、あとでお前の好きなすっぱ〇ーチョを買ってあげよう。

「この姿が何か不思議か?」

 不思議かどうかで聞かれれば不思議だよね。
 女体の不思議。
 うそうそ、スキルのことだ。

「そんなスキルは見当たらなかったけど」

「鑑定では見えんよ。これは種族スキルだ。ドラゴンや竜と種族に付くものは皆持っておる。しかしスキルレベルの上限は30と高い。10以下では人の姿は10秒と持たんだろうよ」

 ああ、だから普通のブルードラゴンとかは使えないのか。
 しかし鑑定で見えないスキルがあるとは。
 氷竜王の持っていた竜眼というスキルならば見えるのかな。
 僕のスキルが見えていたようだし、おそらく鑑定の上位互換みたいなスキルだろう。
 僕にもそんな隠れたチートスキルがあったりするのだろうか。

「言っておくが、貴様には一般スキルの他に持っているスキルは無いぞ」

 僕はがっくりとうなだれる。
 なんという残酷な現実。
 き、期待なんてしてないんだからね。

「それで、なんで人の姿に?怪我は?」

「人化スキルの副産物として、傷の回復力が高くなるのだ。人化しているうちは竜体の怪我の影響は受けぬし、この状態で数時間も過ごせばあの程度の傷は完治する」

 チートめ。
 でもこの眺めがあと数時間は続くと思えば、妬みや僻みも消えうせるというもの。
 僕は自然と手を合わせて拝む。
 ありがたやありがたや。

「拝んでないで何か服を貸してくれ。この身体は寒くてかなわん」

 やっぱり服は着てしまうのか。
 すでに【環境変化(冷)】の影響は薄れて気温は上がりつつある。
 僕は渋々自分の着ている上着を脱いで着せてあげた。
 ハーフコートなので、僕より背が高い彼女が着ると下がミニスカートみたいになってこれはこれで良い。
 僕はもう一度両手を合わせて拝んだ。
 ありがたやありがたや。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

処理中です...