ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉

文字の大きさ
115 / 159

115.お嬢様からの依頼

しおりを挟む
 僕はいつものごとく、シロの住処である高層ビルの屋上に降り立った。
 ここのところ何をやっても楽しくない。
 やっぱりみんなと一緒だったときを思い出して寂しくなってしまうんだ。
 リリー姉さんは貴族の押しかけ妻として毎日猛攻をかけているようだし、会長も酒造りを本格的に始めた。
 ミゲル君は意外にも酒場で料理人の修行を始めたようだ。
 みんな別々の人生を歩み始めたんだ。
 僕だけ足踏みしているわけにはいかない。
 でも少しだけこちらの世界で息抜きをしないとやっていられない。
 こちらの世界には拓君もいるし、拓君の彼女の花音ちゃんとも知らない仲じゃない。
 あまり2人の仲を邪魔したくはないけれど、僕も今はそこまで心に余裕がないからね。
 ふたりの間にわざと座ったりしちゃうよ。
 僕はゴブ次郎に夢幻魔法で姿を見えないようにしてもらい、ビルを飛び降りた。
 タクシーを拾い、拓君の家に向かう。
 拓君の家はあのとき不動産屋さんに案内してもらう予定だったあのマンションだ。
 高層マンションにあの家賃で住めるなんておかしいと思っていたのだが、あの部屋は案の定事故物件だった。
 以前人が自殺した部屋のようだ。
 夜な夜な変な音が聞こえて、前の住人は気持ち悪くて引っ越した。
 だが僕が猫や鳩やゴブ次郎を使って調査した結果、その噂の原因は隣の住人だった。
 隣に住んでいる高橋さん夫婦はちょっとアブノーマルな性癖の人たちだ。
 いわゆるSM好き。
 サディスティックな奥さんとマゾヒスティックな旦那さんが出会って結婚した高橋さん夫婦は、毎夜毎夜かなりの激しいプレイを行っているようだ。
 旦那さんは見るからにエリートだし、奥さんも楚々としていて清楚な大和なでしこに見えるんだけど人は見た目によらないものだな。
 まあそんなわけで拓君の家に幽霊は出ない。
 2年は家賃も今のままにしてもらえるように契約したし、お得な物件だったと思う。
 投稿動画のほうは、企画演出編集すべて拓君に任せるようになってからは再生回数もうなぎのぼりだ。
 僕のセンスが悪かったということなのだろうか。
 おかげで僕の仕事は英語字幕をつけるだけとなった。
 ちゃんねるを乗っ取られてしまった気分だ。
 
「ただいまぁ~」

 拓君の家ではあるけれど、僕の家でもあると思って帰ってきたときはいつもただいまと言っている。
 拓君からの返事は無い。
 どこかに出かけているのだろうか。
 代わりにゴブリンたちからグギャグギャと返答がある。
 僕は扉を開けてリビングに入った。
 リビングのローテーブルの上には拓君の書置きが。

『アニキへ。花音ちゃんとデートに行ってきます。あと、なんかおっぱいの大きい女の人が訪ねてきて連絡先を置いていったので連絡してみてください。なにかアニキに頼みたいことがあるって言ってました。けっこう急いでるっぽかったので早目に連絡してあげてください』

 くそぅ、拓君め。
 花音ちゃんと2人だけでデートに行くとは。
 寂しいじゃないか。
 拓君にはいざというときのためにゴブリン召喚と使役魔法を身に付けさせてあるし、ゴブ次郎みたいな忍ビルドのスキルを身に付けさせた隠密ゴブリンを待機させてある。
 だから2人だけでデートに行くことは問題は無い。
 僕の心情的な問題を抜きにすればね。
 まあいいや、年頃の男女をつかまえてデートするなとは言えない。
 しかしおっぱいの大きい女の人って誰のことだろう。
 以前お母さんの病気を治療してあげたおっぱいお嬢様かな。
 あの人以外は花音ちゃんくらいしか、おっぱいの大きい知り合いなんていないからね。
 僕はバッテリーが切れてしまっているスマホに充電ケーブルを繋ぎ、書かれていた連絡先に電話してみる。

『はい、真田でございます』

 おお、お嬢様の声だ。
 真田っていうのがお嬢様の名前なのかな。
 前回は名前を聞くのを忘れていたからね。
 志乃さんっていう下の名前は覚えているのだけれど、苗字は知らなかったんだ。
 真田志乃さんか、いい名前だ。

「あの、拓君に言われて電話したんですけど。前回お母さんの病気を治した者です」

『その度は本当にお世話になりました。一度直接会ってお話がしたいのですが、直近でご都合のつく日にちなどありますでしょうか』

 僕は今日会ってもいいことを伝えると、迎えをよこすと言われた。
 別に場所を言ってくれれば僕のほうから出向いたのだけどな。





「母を治療していただき、ありがとうございました。あのときは動転していてちゃんとお礼もできなかったので、改めてお礼申し上げます。本当に、感謝してもしきれません」

「い、いえ。それで、なにか頼みたいことがあるとか拓君に聞いたんですけど……」

「はい。厚かましいお願いなのですが、護衛を頼めないかなと思っておりまして」

 護衛か。
 また物騒な話なのかな。
 日本で一般の警備保障サービス以上の護衛が必要になるようなことは少ない。
 この前のようなことが起こっているということだろうか。

「今回は国内ではないんです。実は……」

 お嬢様の話によれば、お嬢様の家が経営している会社の社員が海外で紛争に巻き込まれてしまっているらしい。
 お嬢様の家の会社は国内でも有数の総合商社だ。
 海外のインフラ事業にも力を入れている。
 この度アフリカで通信事業の支援をしていた社員数十人が、パイプラインの奪い合いで起きた紛争に巻き込まれ助けを求めているのだという。
 自衛隊にも出動要請を出したらしいのだが、場所が3つの国を挟む国境線に近いために対応が遅れている。
 このままでは巻き込まれて死者が出る可能性も高いので、なんとか様々なツテを使って救出に行きたいらしい。
 それで僕に話を持ってきたのか。
 僕は身元があやふやな分、自由だからね。
 ま、おっぱいが大きい人の頼みは断れないよね。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...