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122.砂男のスキル

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 ソロモン・オルマ、それが例の敵軍のスキル保持者の名前なのだという。
 黒人で、身長は185センチくらい。
 スキンヘッドにサングラスがトレードマークだとジャーハルは言っていた。
 悪そうな見た目だな。
 これから向かうのは敵の軍事拠点。
 僕がそこに直接行ってその男を捕まえてくるということになっている。
 なにせこれは20億円の仕事だよ。
 気合も入るというものだ。
 20億円なんてユー〇ューブに何本の動画を投稿すれば稼げる金額なんだ。
 今の再生数ならば1億2億は年内に稼げるかもしれないけれど、さすがに20億はそれを何年も続けなければ稼げない金額だ。
 ユー〇ューバーという職業がそこまで存在しているという保証も無い。
 今回の仕事はいい臨時収入になった。
 それも成功すればの話だけどね。
 バラライカは快速で飛び、すぐに敵の軍事拠点が見えてくる。
 体育館のような大きな建物が規則的に並んだ大きな拠点だ。
 建物の周りにはぐるりと囲むように有刺鉄線付きのフェンスが張り巡らされ、警備の兵は皆銃を構えている。
 厳重な警備だ。
 まあ僕には関係ない。
 まっすぐ正面突破だ。
 僕はバラライカを送還し、高空から垂直落下する。

「なっ、なんだ!?落下物?いやっ、人だっ!!敵襲!!敵襲!!」

 反転魔法の足場にふわりと着地する。
 地面からの高さは大体10メートルくらいだろうか。
 警備兵たちから銃弾がお見舞いされる。
 全方位からだからちょっと魔力がきつい。
 僕は毛魔法で髪を四方八方に伸ばし、片っ端から人間を絡めとっていく。
 
「うわぁっ、なんだこりゃっ。くそっ、絡み付いて取れない。それになんだ、これは力が抜けるし頭が痛い。毒か!?」

 ついでとばかりに魔力を奪っていく。
 マナドレインは高かったが、買ってよかった。
 これはとても使えるスキルだ。

「なんの騒ぎだ?」

 奥から軍の偉そうな奴と一緒に、標的の人物と身体的特徴の一致する人物が出てくる。
 185センチくらいの身長にスキンヘッド、サングラスをした黒人。
 たぶんあれがソロモン・オルマだろう。
 僕は毛魔法の触手をソロモン・オルマに殺到させる。
 
「くっ、なんだこれは!風刃!!」

 触手は風の刃によって切り裂かれてしまった。
 触手が1本でも絡み付いていればマナドレインで魔力を吸って無力化できていたのだが、そうそう上手くはいかないか。
 
「あのガキが能力者か!風刃!砂弾!」

 風の刃と砂の弾丸がたくさん飛んでくる。
 跳ね返したら殺してしまいそうだ。
 すべて打ち消すだけに留める。
 ジャーハルの言っていたとおり、砂の弾丸はそれほどでもないが風の刃はそれなりに強い攻撃だ。
 僕はソロモン・オルマを鑑定する。

固有名:ソロモン・オルマ
 種族:人間
スキル:【風魔法lv9】【砂魔法lv6】【暗視lv6】

 すごいな。
 風魔法のレベルは向こうの世界でもなかなかいないようなレベルだ。
 これはジャーハルたちが苦労するわけだ。
 もしかしたら、この国の軍幹部が欲にかられてしまったのもこの男の存在が原因の一端にはあるのかもしれない。
 こんなに強い力を持った人間が手駒に居たら、パイプラインの利権くらい手に入るかもと思ってしまっても不思議ではない。
 なんなら世界征服もできるかもとか馬鹿なこと考えていたりしてね。
 そんなわけないか。

「くそっ、なんだあれ!俺の攻撃が当たってねーぞ!」

「何をしているんだソロモン!さっさとあのガキを殺さんか!!」

 ソロモン・オルマの隣にいた偉そうな男が焦れて騒ぎ出した。
 軍関係者にしてはずいぶんと腹の出た男だ。
 眼鏡が顔にめり込んでいる。
 悪趣味な金のネックレスと金の腕時計、さらには眼鏡のフレームもよく見れば金だ。
 アフリカは世界有数の金の産出地だと聞いたことはあるが、そこまでして地元のものを宣伝しなくてもいいのに。

「わかってますよ!すぐに殺ります。ちょっと黙っててください!」

「なんだと貴様!」

 ソロモン・オルマは激昂する金ぴかの偉そうな男を無視して落ちていた軽機関銃を拾う。
 そのまま僕の方へ向けて発砲する。
 僕の反転魔法の性質でも調べようというのか。
 銃弾は僕の前で止まり、ポロポロと地面へ落ちていく。

「物理攻撃も効かねえか……」

 残念ながらね。
 ソロモン・オルマは再び風と砂を操作する。
 しかし今度はさっきまでのような小技ではないようだ。

「仕方がねえ。俺の最強の必殺技を使うしかねえようだな」

 最強の必殺技。
 すごい響きだ。
 まあ確かにこの世界でレベル9の魔法スキルを持っていれば、個人の持てる力としては最強に近いだろう。
 ソロモン・オルマは砂を巻き上げ、その上に飛び乗った。
 砂はどんどん巻き上がっていく。
 ジャーハルが言っていた、砂嵐で前後不覚にする技だろうか。
 
「おぉぉぉぉぉっ!」

 なにやらめちゃくちゃ気合が入っている。
 砂はどんどん集まり、大きな砂の竜巻のようになっていく。
 ここはすぐ近くに砂漠がある。
 砂はどれだけでも集めることができるだろう。

「おぉぉぉぉぉぉっ!砂龍!!」

 砂はやがて蛇のように長く伸び、1匹の龍を形作る。
 なんとかボールを7つ集めると出てくるような細長い龍だ。
 なかなかにかっこいい技じゃないか。
 そちらが龍で来るのならば、僕も竜を見せなければなるまい。
 出でよ毛竜。
 僕の髪がにょきにょきと伸び、絡み合う。
 幾重にも編みこまれてどんどん強度を増していく。
 地を踏みしめ、天を食らう。
 漆黒のドラゴンが砂の竜を睨む。
 2匹のドラゴンはぶつかり合った。

「ぬぉぉぉぅ!俺の龍がそんな西洋かぶれのトカゲもどきに負けるかよ!!」

「僕の竜だってそんな東洋かぶれの鯉の進化系には負けない!」

「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」

 2人の男の咆哮が重なった。

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