ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉

文字の大きさ
145 / 159

145.多頭竜ヒュドラ

しおりを挟む
 ただのチートと化したマヤと連れ立って森を駆ける。
 マヤはなんらかのチートの力を行使しているのか、すごい速さで森を走り抜けていく。
 僕はゴブ次郎の背中に負ぶさってそれについていく。
 僕の足じゃついていけないからね。

「私、昔から運動は得意なの。でも前はすぐにバテちゃってたけど、今はずっと走ってられるよ!」

 さすが勇者だ。
 原初魔法か万魔創世の能力だと思うんだけど、いったいどんなスキルなのかな。
 無限魔力を手に入れたらバテなくなったということは魔力をエネルギー源にして、なんでもできるみたいなスキルだと思うんだけどね。
 チートだね。
 
「でもクロード、聖剣を私に渡して本当によかったの?」

「うん。僕が持っていてもあまり意味のないものっていうか、マヤが持っているから意味があるものなんだよ聖剣っていうのは」

「ふーん、よくわからないけどなんか聖剣を持つとなんとなく負ける気がしない感じはするよ」

 だろうね。
 たぶん誰も勝てないんだろうから。
 もはや魔王討伐に僕は必要ないのではないだろうか。
 まあここで帰るというのも無責任なので最後まで付き合うけどさ。
 
『『『グゲェェェェッ』』』

 やがて森の深部に差し掛かると、気持ちの悪い魔物の鳴き声が聞こえてくる。
 これが多頭竜ヒュドラの鳴き声か。
 恐ろしいというよりも気味が悪いというような印象を受ける声だ。
 馬の喉の奥にガマガエルが詰まっているような鳴き声だな。
 ちょっと自分でも何言ってるのか分からないけど。

「くっ、もう結界が持ちそうにないわっ」

「もう終わりだぁっ」

「諦めるな!マールフェイトさんが必ず助けを呼んできてくれる!」

「でもあの人、助けを呼びに行くとか言って自分だけ逃げただけじゃないか!!」

「うるさいわね。今そんなことを言っている場合なの?余裕があるなら少しでも結界に魔力を注ぐ!!」

 マールフェイトの取り巻きたちはまだ無事なようだ。
 守りに徹して結界を張る魔法にすべての魔力を費やしたおかげだろう。
 弱音を吐いて半べそ状態の男子生徒たちを女子生徒が叱咤して、なんとか精神的にもギリギリ折れずに済んでいる。
 こういういざという時にもう少し頼りになったら、彼らももう少し女の子にもてたんだろうな。
 まあ命があればまだ笑い話にできる。
 彼らはこれからクラスで女子に頭が上がらないかもしれないけどね。

「マヤ、聖剣の力を試してみるんだ」

「うん!聖剣召喚」

 マヤはマールフェイトのように派手に光らせることなく、最初からそこにあったかのように聖剣を具現化する。
 マールフェイトのギラギラとしたド派手な成金ソードとも、僕の無骨な鉄の剣とも違う。
 マヤの具現化させた剣は、柄の部分だけでもマヤの身長の半分くらいあるような巨大な剣だった。
 マヤはそれを生まれたときから使い方を知っていたかのように構える。
 マヤは驚異的な身体能力で飛び上がると、クルクルと回転しながらヒュドラの首の一つを切り落とす。
 しかしヒュドラの厄介なところはその再生能力だ。
 血を噴出してぼとりと落ちた首があっという間に生え変わる。

『『『グゲゲゲェェェェェ』』』

 八つの首がマヤを認識する。
 すべての首が口を開き、火を噴いた。
 僕は毛魔法でマヤを引き寄せる。
 
「あ、危なかった……」

「マヤ、今の君はたぶん何でもできるんだ。想像してみて欲しい。自分がどうなったらあの竜に勝てるのか」

「なんでも?」

「そうだ。君には何でもできる魔法の力と無限の魔力がある。空だって飛べるし、あんな気持ち悪い竜の吐く炎なんて簡単に跳ね返せるはずだ」

「うん。やってみる」

 マヤは強い意思を宿した瞳で頷く。
 あれだけのチートがあってこんな魔物に勝てないわけがないんだ。
 たぶん魔王だってワンパンレベルのチートだと思うんだけどね。
 
「な、なあ。俺達助かったのか?」

「分からないわ。でもとりあえず生存確率は上がったのは確かみたいね」

「すげー。あの化け物の首を一撃で落としちまった」

「すぐに再生しちゃったけどね」

 あと少しでマヤがあの竜を倒すことができると思うので君たちはもう少し待っていてくれ。
 マヤは目を閉じてヒュドラを倒せる自分を想像する。
 マヤの背中から光り輝くエネルギーが放出され、翼のような形になる。
 あくまで翼というのはイメージのようで、実際には羽ばたくこと無くマヤは宙に浮いた。

「すごい、本当に思ったとおりになった!」

「その調子だよ、マヤ」

 なんかボクサーとセコンドみたいになってきちゃったな。
 立つんだジ〇ーとか言ったほうがいいのかな。

「立つんだマヤ」

「ん?立ってるよ?ていうか浮いてるよ」

「そうだね。ごめん」

 マヤは光の翼で自由に空を飛び、ヒュドラを翻弄する。
 ヒュドラは首の動きは俊敏だけど、胴体の動きは緩慢だ。
 首の届く範囲をうまく見極めて戦えば、Cランク冒険者くらいの力量であっても首の2、3本は切り落とすことができるだろう。
 聖剣を持ったマヤはSランク冒険者であっても剣の一振りで倒せるほどの力がある。
 今のマヤにとってヒュドラの首を切り落とすことは簡単なことだろう。
 やがて切り落とした首が山となる。

「クロード、この魔物全然死なないよ。どうしたらいいの?」

「切り口を焼くんだ。こうやってね」

 僕はビームを細く引き絞ってレーザーのように使い、ヒュドラの首を1本切り取る。
 高温の光線で切断された首は炭化して再生しなくなった。

「わかった。やってみる」

 マヤが聖剣にぐっと力を入れると、その巨大な剣から陽炎が立ち上る。
 なんでもありか。
 マヤはその剣で同じようにヒュドラの首を切り落とす。
 僕のやったのと同じように首の断面は炭化して再生しなくなった。
 マヤは巨大な聖剣をブンブンと振り回してあっという間にすべての首を切り落としてしまった。

「やった!私、勝ったよ。こんな強そうな魔物に!!」

「待つんだ、マヤ」

 首をすべて切り落とされて、力なく倒れるヒュドラ。
 しかし僕は気を抜かない。
 なぜならゴブ次郎が手をクロスして首を振っているから。
 おそらくあいつはまだ死んでない。
 ヒュドラの胴体が突然ガバリと開く。
 聖剣のあまりの切れ味に三枚おろしになったのかと思ったが、どうやら違うらしい。
 開いた胴体にはびっしりと鋭い牙が生えており、舌のようなものがヌルヌルと動いている。
 どうやら胴体が9本目の首ということらしい。
 ヒュドラは口にエネルギーを集める動きをとる。
 竜種がこうしたら、考えられるスキルは一つしかない。
 ドラゴンブレスだ。
 そんなことだろうと思って反転魔法はすでに展開済みだ。
 やがて臨界点に達したブレスが放たれる。
 即座に反転されたブレスによって、ヒュドラの胴体は跡形も無く吹き飛んだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...