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1.追放
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「レドよ。お主を里より追放する!!」
「追放!?待ってください!なぜです!!」
族長が呼んでいるというから来てみれば、追放だと!?
ふざけるな!!
俺は円卓に座る長老共をぎろりと睨みつける。
無駄に歳ばかりとった老害共が。
「レドよ。お主が父のような立派な戦士になりたいのは分かっておる」
「じゃあなぜ……」
「お主こそなぜそんなに生き急いでおるのか。竜人族の寿命は長い。まだ生まれて20年ほどしか経っておらんお主にそんなに急いで強くなる必要がどこにある?」
「それは……」
父は竜人族一の戦士と呼び称えられる戦士だった。
十数年ほど前のオークの大氾濫で死んでしまったけれど、死ぬまでに1000匹のオークを殺した英雄だ。
俺は早くそんな父に近づきたくて、今日まで弛まぬ鍛錬を続けてきた。
そんな日々を、ジジイ共にとやかく言われる筋合いがあっていいものか。
「お主の周りを省みぬ行動のせいで、デイジーとアリエラは怪我を負った」
デイジーとアリエラは、先日里の若者を集めて行われた大規模なオーク狩りのときに同じ班だった2人だ。
俺の背中に隠れて戦おうとしなかったので、蹴り飛ばして無理矢理オークと戦わせてみたがそういえば無様にもオークに手傷を負わされていたな。
竜人族にとってあれしきの傷などかすり傷にも入らないだろうに。
「オークごときに遅れを取るなど、あいつらは竜人族にあるまじき弱者です」
「ふう……。レドよ。弱者はお主じゃ」
「俺が、弱者?何を言っているのか分かりかねます。俺は強いですよ」
「いいや、弱いよお主は。お主のような者を竜人族の戦士にするわけにはいかぬ。即刻里を去れ」
「なぜ俺が里を去らねばならないんです?」
「お主には大事なものが欠けておる。戦士である前に、人としてのな。それが分かるまでは、里への立ち入りを禁じる」
人として大事なもの?
さっぱり分からない。
戦士であるために必要なものは強さのはずだ。
肉体の強さ、魔力の強さ。
どちらもいままで俺が磨いてきたものだ。
力も、魔力も、このジジイ共よりも俺のほうが強い。
だから俺はこのジジイ共よりも強いはずだ。
「納得できません」
「そうか、では力で追い出す以外にあるまい」
族長の纏う空気が変わる。
そっちがそのつもりなら遠慮はいらない。
俺の強さを証明するだけだ。
俺は魔力を練り、全身に流すことで身体能力を強化する。
スピード、パワー、タフネス、すべてにおいて俺は族長を上回っている。
勝負は一瞬だ。
ぐっと足に力を溜め、踏み込む。
このスピードにはついて来られまい。
そう思った俺の予想に反して、族長は悠々と俺の拳を払いのける。
ぎろりと鋭い眼光が俺を射抜く。
ぞくりとした。
俺は慌てて飛び退こうとするが、拳に添えらるようにして握られた手首が動かない。
族長はそれほど力を入れているように見えないが、石に挟まれたように俺の手首は動かなかった。
直後族長の回し蹴りが俺のがら空きの脇腹に突き刺さる。
肋骨がギシギシ音を立てる。
「がはぁっ……」
俺はそのまま壁まで吹き飛ばされ、背中を強打した。
痛みで動くことができない。
「まだやるか?」
なぜだ。
俺のほうが力も魔力も強いはず。
族長の蹴りからは魔力を感じなかった。
だとしたら族長は身体強化すらも使用していないのか?
「諦めて里を出ろ、レドよ……」
「まだ……俺は……父さんを超える……戦士に……」
俺は痛む身体を無理矢理起こし、魔力を活性化させる。
まだ終わるわけにはいかない。
腹にぐっと力を入れると、身体に眠る力を呼び覚ましていく。
竜人族でも、使えるものは限られる竜化の力だ。
俺達が竜人族と呼ばれる所以でもある。
相手を攻撃するための手足や、首筋などの急所に固い鱗が生えていく。
爪は鋭く尖り、頭からは尖った角が生える。
「竜人族同士の戦いで、竜化までつかいおって……」
族長がそう呟いた次の瞬間、俺の意識は途切れた。
ゆっくりと意識が覚醒していく。
ひどく埃臭い空気だ。
目に入ってくるのは大人が3人入ったらいっぱいになりそうな程に狭い木造の建物。
そこの床に俺は無造作に寝かされていたらしい。
俺はこの建物に見覚えがあった。
里の外れにある狩人の休憩小屋だ。
子供の頃、ここでかくれんぼをして怒られたこともあったな。
俺はあの頃から変わったな。
父さんが死んで、俺が最初に感じたのは恐怖だった。
あの強かった父さんが、力及ばず死んでしまうということがこの世界にはあるんだ。
強くならなければ、俺も死んでしまうかもしれない。
そんな気持ちと父さんに近づきたいという気持ちが混ざり合って、俺は訳も分からずとにかくがむしゃらに身体を鍛えた。
魔力も磨いた。
だけど、どれだけ強くなろうとも不安と焦燥は俺の胸の内から消えなかった。
そしてあの族長との勝負でなにもかも分からなくなった。
すでに俺は肉体的力も魔力も、族長を上回っている。
なのに、まるで歯が立たなかった。
俺はどうしたらいい。
どうすれば父さんよりも強くなれるんだ。
とにかくもう里にはいられない。
族長も手ぶらで放り出すほど鬼畜ではなかったようで、俺の荷物がまとめられて小屋に入れられていた。
俺はその中から旅に必要なものを背負い袋に詰めて、小屋を出る。
元々そんなに私物は多くないが、持っていくのは数着の服に数日分の食料、水筒、ナイフ、あとは剣くらいだ。
剣術も真似事だけはしてみたが、俺の膂力に武器が付いてこられないようでそこまで真面目に練習していない。
この剣もドワーフ製でそこそこ業物だが、折れそうで怖いので本気で振ったことは無い。
だが旅をするなら腰に差しておいたほうが、舐められずに済むだろう。
俺は複雑な想いを抱え、里を後にした。
「追放!?待ってください!なぜです!!」
族長が呼んでいるというから来てみれば、追放だと!?
ふざけるな!!
俺は円卓に座る長老共をぎろりと睨みつける。
無駄に歳ばかりとった老害共が。
「レドよ。お主が父のような立派な戦士になりたいのは分かっておる」
「じゃあなぜ……」
「お主こそなぜそんなに生き急いでおるのか。竜人族の寿命は長い。まだ生まれて20年ほどしか経っておらんお主にそんなに急いで強くなる必要がどこにある?」
「それは……」
父は竜人族一の戦士と呼び称えられる戦士だった。
十数年ほど前のオークの大氾濫で死んでしまったけれど、死ぬまでに1000匹のオークを殺した英雄だ。
俺は早くそんな父に近づきたくて、今日まで弛まぬ鍛錬を続けてきた。
そんな日々を、ジジイ共にとやかく言われる筋合いがあっていいものか。
「お主の周りを省みぬ行動のせいで、デイジーとアリエラは怪我を負った」
デイジーとアリエラは、先日里の若者を集めて行われた大規模なオーク狩りのときに同じ班だった2人だ。
俺の背中に隠れて戦おうとしなかったので、蹴り飛ばして無理矢理オークと戦わせてみたがそういえば無様にもオークに手傷を負わされていたな。
竜人族にとってあれしきの傷などかすり傷にも入らないだろうに。
「オークごときに遅れを取るなど、あいつらは竜人族にあるまじき弱者です」
「ふう……。レドよ。弱者はお主じゃ」
「俺が、弱者?何を言っているのか分かりかねます。俺は強いですよ」
「いいや、弱いよお主は。お主のような者を竜人族の戦士にするわけにはいかぬ。即刻里を去れ」
「なぜ俺が里を去らねばならないんです?」
「お主には大事なものが欠けておる。戦士である前に、人としてのな。それが分かるまでは、里への立ち入りを禁じる」
人として大事なもの?
さっぱり分からない。
戦士であるために必要なものは強さのはずだ。
肉体の強さ、魔力の強さ。
どちらもいままで俺が磨いてきたものだ。
力も、魔力も、このジジイ共よりも俺のほうが強い。
だから俺はこのジジイ共よりも強いはずだ。
「納得できません」
「そうか、では力で追い出す以外にあるまい」
族長の纏う空気が変わる。
そっちがそのつもりなら遠慮はいらない。
俺の強さを証明するだけだ。
俺は魔力を練り、全身に流すことで身体能力を強化する。
スピード、パワー、タフネス、すべてにおいて俺は族長を上回っている。
勝負は一瞬だ。
ぐっと足に力を溜め、踏み込む。
このスピードにはついて来られまい。
そう思った俺の予想に反して、族長は悠々と俺の拳を払いのける。
ぎろりと鋭い眼光が俺を射抜く。
ぞくりとした。
俺は慌てて飛び退こうとするが、拳に添えらるようにして握られた手首が動かない。
族長はそれほど力を入れているように見えないが、石に挟まれたように俺の手首は動かなかった。
直後族長の回し蹴りが俺のがら空きの脇腹に突き刺さる。
肋骨がギシギシ音を立てる。
「がはぁっ……」
俺はそのまま壁まで吹き飛ばされ、背中を強打した。
痛みで動くことができない。
「まだやるか?」
なぜだ。
俺のほうが力も魔力も強いはず。
族長の蹴りからは魔力を感じなかった。
だとしたら族長は身体強化すらも使用していないのか?
「諦めて里を出ろ、レドよ……」
「まだ……俺は……父さんを超える……戦士に……」
俺は痛む身体を無理矢理起こし、魔力を活性化させる。
まだ終わるわけにはいかない。
腹にぐっと力を入れると、身体に眠る力を呼び覚ましていく。
竜人族でも、使えるものは限られる竜化の力だ。
俺達が竜人族と呼ばれる所以でもある。
相手を攻撃するための手足や、首筋などの急所に固い鱗が生えていく。
爪は鋭く尖り、頭からは尖った角が生える。
「竜人族同士の戦いで、竜化までつかいおって……」
族長がそう呟いた次の瞬間、俺の意識は途切れた。
ゆっくりと意識が覚醒していく。
ひどく埃臭い空気だ。
目に入ってくるのは大人が3人入ったらいっぱいになりそうな程に狭い木造の建物。
そこの床に俺は無造作に寝かされていたらしい。
俺はこの建物に見覚えがあった。
里の外れにある狩人の休憩小屋だ。
子供の頃、ここでかくれんぼをして怒られたこともあったな。
俺はあの頃から変わったな。
父さんが死んで、俺が最初に感じたのは恐怖だった。
あの強かった父さんが、力及ばず死んでしまうということがこの世界にはあるんだ。
強くならなければ、俺も死んでしまうかもしれない。
そんな気持ちと父さんに近づきたいという気持ちが混ざり合って、俺は訳も分からずとにかくがむしゃらに身体を鍛えた。
魔力も磨いた。
だけど、どれだけ強くなろうとも不安と焦燥は俺の胸の内から消えなかった。
そしてあの族長との勝負でなにもかも分からなくなった。
すでに俺は肉体的力も魔力も、族長を上回っている。
なのに、まるで歯が立たなかった。
俺はどうしたらいい。
どうすれば父さんよりも強くなれるんだ。
とにかくもう里にはいられない。
族長も手ぶらで放り出すほど鬼畜ではなかったようで、俺の荷物がまとめられて小屋に入れられていた。
俺はその中から旅に必要なものを背負い袋に詰めて、小屋を出る。
元々そんなに私物は多くないが、持っていくのは数着の服に数日分の食料、水筒、ナイフ、あとは剣くらいだ。
剣術も真似事だけはしてみたが、俺の膂力に武器が付いてこられないようでそこまで真面目に練習していない。
この剣もドワーフ製でそこそこ業物だが、折れそうで怖いので本気で振ったことは無い。
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俺は複雑な想いを抱え、里を後にした。
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