竜人のメソッド

兎屋亀吉

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2.盗賊

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 竜人族の里を出た俺は、人間達の街に向かうことにした。
 それというのも、あいつらはこの世界のどこにでも大体いる。
 数だけは多い下等種族というのが俺の印象だ。
 世界を旅しようと思ったら、避けては通れない種族といえるだろう。
 あまり気は進まないが、他に行く場所もないのでしょうがない。
 俺は人間の街に向かう街道目指して森の中を駆ける。
 街道までは大体竜人族の脚で半日くらいだ。
 人間は明らかな格上である竜人族まで支配しようとするような愚かな種族だが、人間の脚では竜人族の里にたどり着くことは難しいだろう。
 俺達竜人族にとってただの段差でしかないような崖でさえ、人間には難所となってしまう。
 そのくらい能力に違いがあるのだ。
 ましてや道中には竜人族でさえ足早に通り過ぎるような危険な魔物の縄張りもある。
 まず人間に侵略される心配はないだろう。
 里を追放されてしまった今となっては、そんなことを俺が考える必要もない。
 俺は街道へと急いだ。
 今は全力で走っていたい気分だった。
 


「これが人間の作った街道か……」

 俺は里の外に出るのが初めてなので街道というものも初めて見る。
 なるほど。
 木を切り開いて歩きやすいなだらかな道にしているのか。
 こうしてわざわざ作った道というもの自体を初めて見る。
 俺にとって道というものは人が歩いていれば勝手にできているものという認識だったのだが、こうして広い道が作ってあれば確かに歩きやすいものだ。
 しかし、どちらに行けば街に着くのか分からない。
 道というからにはどこかに向かうことを目的としているはずであり、どちらに行っても最終的には街に着くのだろうが近い方が良いに決まっている。
 参ったな、なにか街の痕跡のようなものがないだろうか。
 俺はおもむろに風の匂いを嗅いでみた。
 竜人族の嗅覚であれば、近くの街の匂いを嗅ぎ分けることもできるはずだと思ったのだ。
 近くに街があればの話だが。
 幸いにもそれほど遠くない場所に人間の暮らす場所はあるらしく、風上からわずかな煙の匂いがしてくる。
 俺は風上に向かって走り始める。
 歩くなんて時間の無駄なことはしない。
 この街道というのは格別に走りやすい。
 森の中とは比べ物にならないほどの速度が出る。
 煙の匂いは強くなっている。
 この近くに人間が生活している場所があるのだろう。
 俺は速度を緩めた。
 ちょうど街道が真っ直ぐな道になっているあたりだ。
 俺の目に街道を塞ぐなんだか分からないものが見えてくる。
 木でできた箱に、丸いものを付けたようなもの。
 それが横倒しになって街道を塞いでいるのだ。
 あれは確か本で読んだことがある。
 馬車というものだ。
 人間は足腰が脆弱なので、丸い車輪というものを付けた箱のようなものを動物に引かせて移動するのだ。
 ではあそこには人間がいるということだろうか。
 ちょうどいい、人間の街というのがどこにあるものなのか聞けるかもしれない。
 俺は横倒しになった馬車に走り寄っていった。
 しかし何故だろうか、馬車に近づくにつれて血の匂いが漂ってくるようになった。
 それもちょっとやそっとの血の匂いではない。
 人間であれば5人か6人くらい死んでいてもおかしくないような濃厚な血の匂いだ。
 これはタダゴトではないな。
 人間のような下等種族が何人死のうが知ったことではないが、人間の街の場所を聞ける奴がひとりくらい残っていてほしい。
 人間達の声が聞こえるような距離に近づくと、何が起こっているのかがはっきりとわかった。
 略奪だ。
 横転した馬車から、小汚い格好をした人間達が金目の物を強奪している。
 これは盗賊というやつなのではないだろうか。
 下等種族である人間は、意地汚くも同族から略奪を行うという話は本当だったのか。
 俺はゆっくり近づいていく。
 人間達はまだ距離があって俺の存在に気がついていないようだが、俺からは馬車がよく見える。
 馬車は3台で、2台は完全に扉まで壊されて中を漁られている。
 しかし最後の一台ではまだ馬車の持ち主が健在なようで、数人の戦士風の人間達が盗賊と応戦している。
 まあそれも長くはもたないだろうが。
 人数が違いすぎる。
 馬車の持ち主側の戦士たちは全部で5人だ。
 それに比べて盗賊は20人を超える。
 竜人と人間くらいの違いでもないかぎりは数の差は覆せないだろう。
 こうしている間にも俺はゆっくりと近づいていく。
 ようやく人間達は俺の姿を視認したようだ。
 
「止まれぇ!!死にたくなかったら金目のものをすべて置いていけ」

「なぜ貴様らの指図など受けなければならん。下等種族が」

 俺は目の前のこいつを敵と認識し、顔面を殴り飛ばした。
 ぐしゃりという軽い手ごたえ。
 この程度で頭蓋骨が砕けたか。
 脆弱な種族だ。
 
「な、なんだてめえ。この人数が見えねえのか……」

「この程度の数がなんだというのか」

 俺は口に魔力を集め、思い切り吐き出した。
 父さんが得意としていた火炎ブレスだ。
 父さんは火魔法では右に並ぶものは居ないと言われた戦士だった。
 俺も父さんのようになりたくて、小さい頃から火魔法を練習してきたのだ。
 このような小汚い下等種族共にはもったいないが、めんどうなのでまとめて焼き殺してやろう。
 
「ぎゃぁっ、あちっ、あちぃぃぃぃ」

「死ぬ、死んじまうっ、助け……」

「水、水だ、水……」

 大まかな汚物は消毒できただろうか。
 汚い死体が増えてしまったが、そのうち自然に還るだろう。
 
「て、てめえ、やりやがったなぁ!!」

 まだ残党がいるな。
 すべて同じ地獄に送ってやるから安心するといい。
 人間は剣を振り上げて走ってくるが、遅すぎる。
 本当に走っているのか?
 俺はゆっくりと剣を掻い潜り、頭を掴んで握りつぶした。
 ビチャリと中身が飛び出し、俺の手を汚す。
 下等種族の汚い汁で汚れてしまったな。
 人間共は薄汚いボロのような服を着ているが、手ぬぐい代わりにはなるか。
 俺はボロ切れのような服で手を拭うと、次の獲物に向かった。




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