迷宮の魔王物語

兎屋亀吉

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4.なにか楽して稼げる方法はないものか

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 俺の興奮はすっかり冷め、頭は通常回転を始めている。
 残念ながら俺の頭の回転数は低めだが。
 とにかくまずはこの残った600DP(端数切捨)をどう有効活用するのかを決めないと。
 あまりの寒さに、あったかくなるものばかりを出してしまったが、まだ生活に最低限必要なものが足りていない。
 まずはトイレ、暗いので照明、あと風呂も欲しい。
 電気を使う諸々のために発電設備も必要だろう。
 また使いすぎてしまった。
 もう300DPしか残ってない。
 それに6畳くらいの部屋を分割して風呂やキッチン、トイレを作ったのですごく狭い。
 残り300DPだけど100DPはいざというときのために残しておきたいので、もう自分のスキルに使えるのは200DPしかない。
 俺はスキルがずらっと並んだウィンドウを眺める。
 ふむふむなるほど、魔法は火水地風の4種類から1つしか選べないのか。
 そういう選択式のスキルもあるのか。
 あ、この器用貧乏っていうスキルを取ればすべてのスキルを取得できるようになるな。
 でもスキルレベルが5までしか上がらなくなるみたいだけど。
 まさに器用貧乏。
 ていうか取得DP5万だからどのみち取れない。
 これは最初に取るスキルじゃないな。
 スキルレベルがオール10くらいになってから取るスキルだ。
 最終的にどんなビルド構成の魔王になりたいのかもちゃんと頭に入れた上で計画的にスキルを取らないとポンコツ魔王になりそうだ。
 しかし、現状DPが200DPしかない。
 魔法ひとつ選んだら終わっちゃうな。
 火水地風、4種の中からどれを選ぶか。
 悩んだ結果、俺は水魔法を選択した。
 理由は簡単、俺のダンジョンが船だからだ。
 地は地面から離れた船の上ではろくに使えない。
 火はかっこいいので取りたかったが、船の上でぶっ放すには少し不安なので泣く泣く却下。
 風は、この船が帆船だったら役に立っただろうけど、この船はDPで動くダンジョン船だ。
 残るは水。
 水魔法でどんなことができるのかはまだわからないけれど、水は生きていく上で絶対必要だし、海の上に浮かぶダンジョンである以上水魔法は有用だろう。
 そんなわけで水魔法を取得した。
 ああ、これで残しておいた100DP以外のDPを全部使ってしまった。
 食料はさっき勢いで出してしまったカップラーメン3個と鍋焼きうどん2個(アルミの器に入ったやつ)、それとみかんが10個だ。
 カップラーメンは1個10DPなのであと10個出せる。
 節約して1日1食プラスみかん1個としても、15日分の食料しかない。
 最後の5日にはみかんも付かない。
 これは早々にダンジョンポイントを稼がないと飢えて死にそうだ。
 



 俺のダンジョン(船)から離れること10メートルの位置に俺は座って釣り糸を垂らしている。
 俺の船(ダンジョン)が浮いている海は、地球の北極海のように海面が分厚い氷に覆われている。
 地球の北極点周辺とは違い、ここには大陸があるようで、俺の船(もうめんどくさいので以後船)は岸辺に停泊したまま海ごと凍り付いている。
 そんな状況で、結局俺が選んだDPを稼ぐ手段は釣りだった。
 DPが手に入る方法は3つ。
 1.ダンジョン内で侵入者を殺す。
 2.ダンジョンに有機物を吸収させる。
 3.ダンジョン内で侵入者が一定時間過ごす。
 ちょっと凍り付いてはいるが、幸いにもここは海だし、魚を釣ってそれをダンジョン内で殺し、吸収すればDPを稼げるのではないかと思ったのだ。
 魚を調理して食べるという手もあるが、異世界の魚が食べられるものか分からないというのと、俺は料理があまり得意ではないという理由から、釣った魚はすべてDPにすることにした。
 そんなわけでなけなしの100DPを使って釣り道具と分厚い氷に穴をあけられる手回し式のドリルを出して、極寒の氷上でガタガタ震えながら釣りに励んでいるというわけだ。
 いざというときのためにと残しておいた100DPもほとんど使ってしまった。
 もうDPはない。
 正真正銘背水の陣というわけだ。
 だがしかし、これは初期投資だ。
 魚を釣りまくればすぐに取り返せる。
 いまはただ、考え事でもしながら釣り糸に想いを馳せるのみ。
 あー寒い。
 分厚い手袋をしていても手がかじかむ。
 それにしても、異世界生活初日とはいえ、全然これからの暮らしが想像できないな。
 ダンジョンコアに触れたときに、ある程度のダンジョンや魔王についての知識は入ってきたが、まだまだ分からないことも多い。
 新たに情報を得るにはどうすればいいのか。
 そもそもここはどこなのか。
 ダンジョンに生き物を誘引するという魔王の生態からいって、こんな生き物の少なそうなところでずっと暮らすのは無理があるよな。
 おっと、考え事をしているうちに1匹目の魚がかかったようだ。
 竿先がしなり、糸が引き出される。
 結構大物だ。
 5分ほどの格闘の末、観念して大人しくなった魚が上がってくる。
 絶対大物だと思っていたのに上がってきた魚は20センチくらいだった。
 微妙だな。
 異世界の魚は小さくても引きが強いらしい。
 釣った魚は船に持っていってすぐに殺して吸収する。
 殺して1DP、吸収して1DPの合計2DPになった。
 これで1日5匹釣ればカップラーメン1個は食べられることは確認できた。
 本当はDP獲得条件の3を試したいんだけど、寒すぎて釣った魚がすぐに凍って死んじゃうから今は試せない。
 まあ試しても無駄だと思うけど。
 魚でDPが獲得できるのならダンジョン内に鼠とかが大繁殖すればDPを稼ぎ放題だ。
 一応試してはみるか。
 船に帰るときに鍋かなにかに魚を入れてお持ち帰りしてみよう。
 鼻水も凍る極寒の海の上で、俺は色々なことに考えをめぐらせながら、釣り糸を垂らす。
 
「あー、寒い」

 誰の声もしない真っ白な海氷の上で、俺の声だけが寒々しく響き、白い息が溶けるように消えていく。
 
 あ、鼻水凍ってる。

 なにかDPを稼げるおいしい話はないものか。


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