迷宮の魔王物語

兎屋亀吉

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11.第1回海中探索

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 名 前:ヒナタ
 種 族:迷宮の魔王
 レベル:2 
 H P:11/11
 M P:13/13
 ATK(攻撃):11
 DEF(防御):11
 AGL(素早):11
 INT(魔攻):22
 MND(魔防):11
 パッシブスキル:【INT倍】【冷気耐性】
   魔王専用スキル:【水中適応】
 アクティブスキル:【水魔法LV3】【ウォーターカッターLV1】【水流操作LV1】【陶芸LV1】
   魔王専用スキル:【第3の目LV1】

 
 バルロイ族の皆さんと暮らすようになってはや1ヶ月が経とうとしております。
 いやはや、皆さんのおかげで美味しいご飯を3食きちんと食べることができて、さらに気になっていた温度計や鏡などの贅沢品までも手に入れることができまして、感謝感謝でございます。しぇーしぇ。
 現在の気温は-47度。
 体感では-70度くらいあると思ってたけど、意外と暖かいね。
 おもむろに鏡で自分の顔なんか見ちゃったりしてね。
 鏡を手に入れるまでは自分の顔を見るのは我慢してたんだよ。
 おお、結構イケメンだ。
 身長が前世に比べて10センチくらい低い165センチほどになってしまったことに目を瞑っても良いと思える程度にはイケメンだ。
 転生にもしぇしぇ。
 瞳は黒いままだけど髪は赤茶色だ。
 校則違反だ。
 まあ髪色の話は置いといて、先日レベルが2になりました。
 例の怪魚を駆除してたら突然ぴこりんと上がった。
 でも、能力値の上がり方が絶望的なんだけど。
 もしレベルがいくつになろうと能力値が1しか上がらないとしたら、世の中の魔王の常識が覆されてしまうぞ。
 魔王の強さはパッシブスキルに依存しているという新常識が生まれそうだ。
 パッシブスキルを取得すれば強いんだからどうということはないんだけど。
 魔王の素のステータスが貧弱とかちょっとおもしろいね。
 あともうひとつ注目してもらいたいのが魔王専用アクティブスキルの【第3の目】だ。
 これはぶっちゃけ額にかっこいい第3の目が開眼するだけのスキルなんだけど、魔王専用スキルのくせにめっちゃ安かった。
 魔眼とか邪眼とかのスキルはひとつの目に対してひとつまでしか取得できないから、両目のストレージ使い切っちゃった人のためのスキルらしい。
 でもアクティブスキルだからレベルがある。
 俺はこれに違和感を覚えた。
 ただ単にストレージを増やすだけのスキルだったらパッシブでいいのではないかと。
 そもそも目が3個になるだけのスキルのレベルをどうやって上げるんだと。
 このスキルにはなにかある。
 レベルを上げたら隠しスキルが出現とか、そんなおいしい展開を期待して俺はこのスキルを取得した。
 まあ別に安かったから何も無かったとしても損はない。
 ウルトラかっこいい第3の目が開眼しただけでも俺にとっては利益があった。
 でも子供達には不評なので普段は閉じておこう。
 あとは記念すべき第1回海中探索に備えて、スキルのレベル上げが急務だな。





 そんなこんなで時は過ぎ、今日は待ちに待った第1回海中探索の日だ。
 準備は万端、水魔法や派生スキルのレベルも結構上がったし水の中で魔物に遭遇しても逃げられないということは無いだろう。
 さらに、魔物を倒した場合でもDPが無駄にならないように用意した秘密兵器。
 複製核レプリカコアだ。
 レプリカコアとは名前の通りダンジョンコアのレプリカなんだけど、ダンジョンコアより少し小さいピンポン球サイズで、ダンジョンの外に持っていけるのが特徴だ。
 機能はダンジョンコアの機能そのままで、ダンジョンをいじったり、言語を翻訳してくれたり、最近見つけた機能では鑑定機能なんてものもあった。
 そしてなにより、この小さな玉はダンジョンの一部なのだ。
 つまりダンジョンの外であっても倒した魔物を吸収してDPにすることができるのだ。
 本来は飛び地をダンジョン化するために使うものらしいが、俺は携帯型ダンジョンとして使おうと思う。
 こんな小さな玉だけど冷気耐性スキルの4倍くらいDPかかったからね。
 無くしたら泣く。
 さて、イクラムさんの話では浅瀬にはそんなに強い魔物もいないということなので、ちょっくらいってみようか。
 上に着ていたTシャツを脱いでサーフパンツ一枚の姿になり、準備運動をする。
 泳ぐ前はちゃんと準備運動をしないとね。
 極寒の氷雪地帯に、サーパン1丁で準備運動する男の姿はなかなかシュールだろう。
 見学に来ていたおっさん&じいさんずは見ているこっちが寒いわみたいな顔をしている。
 
「そんじゃ、いってくるね」

「気をつけていけ。強い魔物に遭ったら逃げろ」

 心配性のイクラムさんの助言の後、子供達もいってらっしゃいと言ってくれる。
 子供は苦手だけど、案外可愛いものだな。
 俺はウォーターカッターで切り取って開けた氷上の丸い穴にダイブする。
 おそらく水温は5度を下回っていると思うが、冷気耐性のおかげで冷たさはそれほど感じない。
 温水プールよりも少し冷たいくらいかな?という程度だ。
 水中適応のおかげで息も出来るし、視界もクリアだ。
 水が肺に入っているのに不快じゃないというのは、なかなかに新鮮な感覚だ。
 最初は水流操作を使わずに普通に泳いでみる。
 肺が海水で満たされ、すべての空気を吐き出した俺の身体は、ゆっくりとだが確実に海の底に向かって潜行していく。
 暗い海中が俺の心にあわ立つような恐怖を与えてくるが、俺は冷静に腰のダイビングライトを掴んでスイッチを回した。
 大型のダイビングライトは結構な光量で海底を照らし、俺の心の恐怖心をも散らしてくれる。
 恐怖心が薄れるとだんだん楽しくなってきた。
 俺は水流操作を使って、自由自在に泳ぎ回った。
 急速潜行と急速浮上を繰り返したり、八の字に泳いだりした。
 普通だったら急激な水圧の変化で体に不調をきたしていても不思議ではないが、水中適応が俺の体を水中で自由に動ける体に変えてくれている。
 さすがは魔王専用スキルだ。
 気持ち良い。
 水の中を自由に泳げるというのは俺の想像していた以上に気持ちよかった。
 もし、空を自由に飛べたとしたら同じような気持ちなのだろうか。
 重力ですら、今の俺を縛ることはできないという圧倒的な開放感が俺の脳内麻薬の分泌を促進する。
 いけない、ちょっとハイになっちまったぜ、へっ。
 これは、一度知ってしまったらやめられない世界だな。
 たまに魚型の魔物が襲ってくるが、水深の浅いこのあたりで遭遇する魔物なんて鼻くそみたいなものだ。
 水流操作で洗濯機みたいにくるくる回してやると前後不覚の状態になるので、そこを至近距離からのウォーターカッターでトドメを刺す。
 最初は、ウォーターカッターだけで倒せると思っていたのだが、水の中ではウォーターカッターの射程が著しく落ちることに気づいてからはこの倒し方をしている。
 魔物が結構出るおかげで、いくつかレベルは上がったが、そろそろMPの残量が心もとなくなってきた。
 水中適応はパッシブスキルなのでMPは使わないが、推進力である水流操作にはMPを使う。
 MPがなくなれば俺はただ水中を漂うだけの毒の無いクラゲ状態になって、魔物に食われてしまうだろう。
 名残惜しいが、第1回海中探索はここまでだ。
 気持ちを切り替えて第2回海中探索に向けて何をすべきかを考えながら、俺は船のある方角へ折り返していった。
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