迷宮の魔王物語

兎屋亀吉

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12.フェンリル

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 前回の海中探索の反省点、改善点などをふまえて俺はひとり、部屋でコタツに当たりながら新たにスキルを取得したり、アイテムの導入を思案したりしていた。
 いや、最初はひとりであったはずなのだが、いつの間にかおっさん&じいさんずがコタツに入ったりストーブに当たったりしている。
 最近では各家庭のテントにストーブやコタツを設置しているのに、なんでこの人たちは俺の部屋に来るんだろうか。
 
「狭いんだけど」

「まあまあヒナタ殿、人がたくさんいたほうが暖かかろう?」

「いや、イクラムさん俺が冷気耐性取ってたの見てたでしょ?半裸で泳ぐのも見てたよね?」

 まあおっさん達も悪気があってやっているわけではないはずだ。
 若い戦士達の訓練くらいしかすることがなくて暇なんだろう。
 俺の部屋に集まって駄弁るくらいは許してやるか。
 できれば俺の部屋以外で集まって駄弁ってほしいが。
 
 しばらくおっさん達にあれやこれやと口出しされて辟易しながらスキルを取得していたのだが、ふと外の音に耳を傾けると、かすかに騒がしい声がする。
 この部屋は金属の壁の内側にさらに断熱材入りの壁を作っているのでかなり防音性が高いのだが、それでもかすかに騒ぐ声が聞こえてくるほどに部屋の外は騒がしいらしい。
 やがてバタバタと船上を走ってくる音が聞こえ、部屋の扉が慌ただしく開き、イクラムさんの息子さんが焦った様子で転がり込んできた。

「大変だ!フェンリルだ!フェンリルが出た!!」

 イクラムさんの息子さん、ラルク君は今年で18歳になると聞いたが少し落ち着きが足りてないみたいだ。

「フェンリルだと!?グレーウルフかなんかの見間違いじゃないのか?」

「グレーウルフなんかじゃねえよ!真っ白で、なんかキラキラ光ってて、あれは絶対フェンリルだって。とにかくみんな来てくれよ!」

 ラルク君はちょっと引くくらい焦ってるみたいで、イクラムさんの腕を掴んでぐいぐい引っぱるので、みんな仕方なく上着を着て槍を手に外に出る。
 おっさん&じいさんずは口々にさむいさむいと口に出しながらも、周りの雰囲気がピリピリしているのを感じ取り、臨戦態勢を整えていく。
 腐っても百戦錬磨の戦闘民族ということか。
 いや、みんな現役だけど……。
 おっさん達が臨戦態勢を整えたところで現場に到着。
 おお、なんかでっかい狼がちょっと離れたところからじっとこちらを見ている。
 確かにラルク君が言ってたとおり真っ白でキラキラ光ってるみたいだ。
 きれいだな。
 バルロイ族の戦士達は規則正しい軍隊みたいな動きで展開し、あの狼がいつ襲ってきてもいいように身構える。
 俺は精鋭のおっさん&じいさんずに囲まれて、部隊後方からその様子を眺める。
 なんかあの狼に敵意はなさそうだけどな。
 つぶらな瞳でじっとこちらを見つめる真っ白な狼からは、確かな知性が感じられて、軽く尻尾をふりふりしている様子からは、決してこちらを害する意図はないように思える。
 キラキラと光る毛並みは、段々光を増し、巨大な狼は眩い光に包まれた。
 一人称わっちの美女に変身したりすんのかな?
 そんで一緒に旅をしたりしたいね。
 ここには麦どころか植物があまりないけど今まで何に宿ってたのかな。
 お、姿が変わり始めた。
 ケモ耳のわっち美女を希望します、お願いします。
 しかし、俺の希望とは裏腹に、眩い光に包まれた狼は細マッチョ系ケモ耳イケメンに変貌を遂げた。
 しかも全裸。
 全裸の男の尻でふさふさの尻尾が揺れてるのが非常に不快です。
 狼の毛並みのような真っ白な髪と、金色の鋭い眼光を光らせるそのイケメンは、どこからか服を取り出し着始めた。
 アイテムボックスのスキルだな。
 いいな、俺が今一番欲しいスキルだ。
 俺はポケットからレプリカコアを取り出すと、ケモ耳イケメンにかざした。
 
「鑑定」

 名 前:ディールガ
 種 族:フェンリル
 レベル:1798
 H P:126000/126000
 M P:79900/80000
 ATK(攻撃):97500
 DEF(防御):57000
 AGL(素早):126000
 INT(魔攻):51000
 MND(魔防):54000
 パッシブスキル:【冷気耐性】【炎熱耐性】【夜目】【飢餓耐性】【HP倍】【MP倍】【疾風迅雷】【INT3倍】【MND3倍】【一騎当千】【経験値3倍】
 アクティブスキル:【短剣術LV5】【体術LV7】【水魔法LV5】【氷魔法LV7】【治癒魔法LV4】【人化LV6】【アイテムボックスLV6】
 ユニークスキル:【氷狼一体】【絶対零度】



 なにこれ、なんか桁が違わない?
 イクラムさんのステータスでさえ、1万の壁を越えている能力値はATKとAGLだけなのに。
 俺のステータスとは軽く4桁ほど差がある。
 能力値によっては5桁差がある。
 俺は最初から戦うつもりなんてなかったけれど、選択肢の中から戦う選択を完全に消去する。
 
「ちょっと道あけてくれる?」

「ヒナタ殿、危険です」

「いや、危険とかもうそういうレベルの問題じゃないから」

 俺を囲んでいたバルロイ族の男衆は、俺がなにを言っているのか分からないのか首を傾げている。
 おっさんが首傾げても可愛くないからね。
 渋々ながら道をあけてくれたバルロイ族に軽くお礼を言い、俺は服を着終えた銀髪イケメンの前に出て行く。
 近くで見ると結構身長がでかい。
 180センチ以上あるかもしれない。
 怜悧な顔には顎の辺りに刀傷があり、イケメンなのにかたぎじゃない印象を与えている。
 銀髪イケメンは、バルロイ族の中から俺が出てくるのを見ると、無表情だった顔を苦笑のような表情に変えた。
 その顔からは先ほどまでのどこか話しかけづらそうな怜悧な雰囲気が消え、面倒見のいいお兄ちゃんのような雰囲気が漂っている。
 以外にとっつきやすい感じなのだろうか。
 俺が目の前に到着し、騒いでいたバルロイ族が静まると、銀髪イケメンはしずしずと口を開いた。

「俺を部下にしてくれないだろうか」

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