寝て起きたら世界がおかしくなっていた

兎屋亀吉

文字の大きさ
11 / 12

11.ギルド追放おっさん

しおりを挟む
 塔の見物にかまけて、肝心のモンスターを1匹たりとも倒していない。
 何しに来たんだか本当に。
 俺は塔からなるべく遠くに粘魚を飛ばしていく。
 塔の一番近くにドラゴンが陣取っていたように、ダンジョンに近づくほどにモンスターは強くなっているような気がする。
 なら逆に、ダンジョンから遠ざかれば弱いモンスターがいるのではないかというのが俺の仮説だ。
 このまま粘魚でどこまで行けるのかを試してみるのもいいかもな。
 人がいるという安全地帯まで行けるなら物資を買うことだってできるかもしれないし。
 俺は全力で塔の反対側を目指した。
 しかし俺の本体がいるマンションから数キロ離れたあたりで、それ以上遠ざかることができなくなってしまった。
 この範囲が遠隔操作の限界らしい。
 安全地帯まで行けなかったのは残念だが、隣町近くまでは行けたので大分モンスターも弱そうになったような気がする。
 このあたりにはゴブリンとコボルトのコロニーがあちこちにあり、この2種が縄張り争いしている場所らしい。
 どの個体もネットで調べた情報よりも装備が充実していて強そうなのだが、ドラゴンに比べたらどうということはない。
 先にドラゴンを見てきてよかったかもしれないな。
 俺は5匹の分隊で行動するゴブリンの真上まで飛んでいき、魚の口から回収していたマンションの扉を落した。
 扉は角の部分を下にして落下し、1匹のゴブリンの脳天をかち割った。
 ゴブリンたちは突然の仲間の死に呆然としている。
 その隙に俺はどんどん扉を落していった。
 やがて5匹すべてのゴブリンが死に絶える。
 かなりグロいが、自分がその場にいるわけじゃない分幾分か気は楽だ。
 消えずに残っているモンスターの死体が、これはゲームなんかではなく現実なんだということを訴えかけているように思えた。
 あまりに現実味が無さ過ぎてここ数日夢を見ているようなふわふわとした感覚があったが、ゴブリンの死体は俺を一瞬で現実に引き戻してくれた。
 俺は本体の顔を両手でバシンと叩き、気合を入れた。
 そして粘魚にゴブリンの装備を飲み込ませる。
 ゴブリンは揃いの皮鎧を着て、切れ味の鋭そうな剣を装備していた。
 鎧は子供のような体形のゴブリンサイズなので俺が着れるものじゃないが、剣は使えるだろう。
 ゴブリンのくせに良い剣を使っているな。
 ネット掲示板で見るゴブリンの情報といえば単独行動をしていることが多いとか、腰布1丁で丸腰とか、持っていても棍棒などの原始的な武器だという話だったのに、ここのゴブリンは随分と違うじゃねえかよ。
 他の場所なら雑魚とされるモンスターでさえも油断できない強敵ということか。
 絶対生身で対峙なんかしたくねえな。
 幸いなことに扉を落とす攻撃は通用するようだし、しばらくは粘魚を使った空爆作戦でチマチマ倒していくとするか。
 




 モンスターを倒し魔力値を上げる行為をネット上ではレベル上げになぞらえてレベリングと呼んでいるようだ。
 ネットゲームが好きな俺もレベリングという言葉は馴染み深いので使わせてもらおう。
 今日も朝からレベリングだ。
 粘魚を5匹生み出し、1匹を見張りにして4匹を街の探索に向かわせる。
 モンスターと戦うだけでなく物資も探さないといけないので魚手はいくらあっても足りない。
 昨日ゴブリンを30匹ほど倒して魔力値は17まで上がった。
 遠隔でモンスターを倒して経験値のようなものが遠く離れた俺に入るのか不安だったが、杞憂だったようだ。
 最初が12だから5上がったことになる。
 ゴブリンを6匹倒して1上がる計算か。
 脳と耳を生成した粘魚1匹あたりのコストが大体3くらいだから今は5匹が限界だが、魔力値が増えればそれだけ粘魚の数も増やせる。
 レベリングの効率もどんどん加速していくだろう。
 このスキルはかなりチートだな。
 特に脳を生成できて共有できるところがヤバい。
 脳を増やせるということは、それだけ演算能力が増えて同時進行で色々なことができるようになるということだ。
 それだけじゃない、複数の脳を使って1つのことに集中したら単純に考えて脳の個数分パフォーマンスが向上するということにならないか?
 たとえば瞬時の判断を要するような、ネトゲだ。
 1つのアカウントでプレイするのに4つくらい脳を動員すれば、単純に考えて4倍すごいプレイができるのではないだろうか。
 右手と左手で脳を分けるだけでもかなり達人的なプレイができそうな気がする。
 明日あたり久しぶりにネトゲにログインしてみるかな。
 そういえばネトゲのアカウントはまだ残っているのだろうか。
 運営会社がダンジョン災害に巻き込まれてなければいいのだがな。
 半年間放置してしまったわけだし、確実にギルドは追放になっているはずだ。
 ギルドの人数も無制限ではないからログインしない人を残しておくのは非効率的だ。
 世の中にはやむにやまれぬ事情というのもあるというのに、かつての俺はログインしない人を非難するようなことをギルドチャットに書き込んでしまったこともあった気がする。
 いざ自分がログインできなくて追放される側になってみると、あんなこと書き込まなければよかったという想いが湧いてきた。
 なんて自分勝手な人間なんだろうな俺は。
 今後はネトゲでログインしないギルメンを非難するようなコメントはやめよう。
 それはそれとして、ギルドを追放されるのは結構悔しいな。
 こうなったら魔力値を増やして粘魚も増やし、俺一人だけでギルドを作ってやるぜ。
 そのギルドを最強にして俺をギルドから追放したことを後悔させてやる。
 今更戻ってきてくれって言ったってもう遅い。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...