転生した異世界と日本が繋がってしまった

兎屋亀吉

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3.次元の扉の価値

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「ダンジョンでは他にどんなアイテムが手に入るんですか?」

「なんでもだよ。限定的だけど死者を蘇生することのできるアイテムすらもダンジョンにはあると言われている。ちなみに俺は結構ダンジョンに潜っているほうだと思うけど、そんなアイテムは一度も手に入れたことがない。そのくらいの確率だが実際に手に入れたことのある人は存在している」

「死んだ人を生き返らせるアイテムですか。それはすごい」

「死んでからあまり年月が経っていたり、死体の損傷が激しいと蘇生は難しいみたいだけどな」

 大切な人を生き返らせるためにダンジョンに潜っているという奴は星の数ほど存在している。
 他にも万病の薬や若返り、単純に金。
 様々なものを求めて人はダンジョンに潜る。
 そして死んでいく。
 ダンジョンというのはそういう場所だ。
 だがまあ、深くまで潜り宝箱を探す能力があれば運次第でなんでも手に入れることができる。

「もし、こんなことがあちらの世界の人間に知れたら……」

「ああ、人が押し寄せるだろうな。だが、扉が岐阜城にあるんじゃあ隠蔽も難しいだろ。さすがは運命神だ。確実に目立ってこちらの世界に人がやってくる場所に扉を設置するとは」

「日本政府はどんな対応をするんでしょうか。というか僕はどうなるのかな」

「運が良ければ出世できるんじゃないか?日野が失踪したことでおそらく自衛隊がこの件に絡んでくる。もしかしたら今頃扉の周りは自衛官で囲まれているかもしれない。君はあちらの世界に帰って上司に会ったらこう言うんだ。あの扉の向こうは異世界でしたってな」

「精神鑑定を受けさせられちゃいますよ」

 まあそうだろうな。
 いきなりいなくなった奴が突然帰ってきて異世界に行ってました異世界は良い世界でしたなんていう報告をしてきたら頭がどうにかなってしまったことを疑われる。
 もしあちらの世界でスキルや魔法が使えないどころかすべてのファンタジー要素が無効になったりしたら何を持って帰っても異世界に行っていた証拠にはならないだろう。
 異世界に行っていた証拠は日野の記憶だけ。
 絶対に精神鑑定される。

「君一人の意見ならな」

「え、もしかして……」

「ああ、俺も一緒にあちらの世界に行くよ。どうしてもモ〇バーガーがもう一度食べたくてな」

「ははっ、僕はバーガーキ〇グ派です」

 さすが自衛官。
 やせ型のおっさんだった前世の俺にはバーガー〇ングはボリューミーすぎた。
 まあ日野も結構やせ型だから20年もすれば食べられなくなるかもしれない。
 
「それで、向こうに行ったらモルモット扱いされるかもしれないが魔法は覚えるか?」

「う、モルモットは怖いですね。日本がそういうことをするって想像できないですけど」

「どんなに善人面しても、国なんていうのは後ろ暗い面を持っていると思うけどな。日本は戦時中にやりすぎたから過剰にクリーンなイメージを喧伝してるだけだろう。平和で平等で自由な国なんてものは泡沫の夢だ。それが醒めたらどうなるかなんてわからないさ」

「醒めますかね。これって」

 日野は世界を繋ぐ次元の扉をじっと見つめる。
 これが異世界に繋がる扉だということを世間が知れば確実に大きな衝撃につながるだろう。
 世界中の国々がこの扉を奪い合って岐阜城を取り合うような、まるで戦国時代のようなことが起こる可能性だってある。
 いや、確実になるな。
 なんてったって扉の向こう側にあるのは世界そのものだ。
 国際社会の監視の目が及ばない無限の大地が広がっているのに、何もしないという国は少ないだろう。
 侵略や開拓をすれば国土が増えるどころの話ではない。
 正面戦争になるかどうかはわからないが、水面下では確実に取り合いになる。
 日本政府としてはこれを隠蔽してこっそり異世界で資源でも取りたいと思うだろうが、人が動けば確実に情報は洩れる。

「夢が醒めるには十分な衝撃だろうよ」

「はぁ、なんか帰りたくなくなってきました。現状維持ってできないんですかね」

「日野が帰らなくても7日後には誰か新しい人がこちらに来るだろうよ。もう俺も君も運命神によってゲームの盤上に強制的に乗せられてしまっているんだ。状況をより良くすることだけを考えたほうが建設的だと思うがね」

 日野はがっくしと項垂れる。
 日本は異世界という無限の可能性を秘めた扉と引き換えに争いの渦中となってしまった。
 自衛官である日野は日本国民の多くよりも国家の防衛についての意識は高いはずだ。
 項垂れてしまうのも仕方がない。

「難しいことは上の判断に身を委ねたほうが気が楽になる。あまり考えすぎるのもよくない」

「そうですね。魔法を使ってみたい。だから魔法を教えてください。これでいいのかもしれません。もしモルモットにされそうになったらリノスさん助けてくれますよね」

「ああ、必ず助けるよ。そしたら日本から逃げてこちらの世界で暮らせばいい。住んでみれば案外いいところだよ。ハンバーガーはないがね」

「あはは、そのときはお願いします」

 向こうの世界でスキルやレベル補正がすべて無くなるというのは最悪の想定で、俺はおそらく使えるのではないかと思っている。
 なぜならばそのほうが運命神の好みの展開になるからだ。
 もちろん使えなかったとしても異世界への扉は資源の宝庫への扉なので戦争が起きるほどの価値はある。
 しかしもし若返りや万病の薬などのダンジョンのアイテムがあちらの世界でも使えたとしたら、資源などは捨て置くほどの価値があの扉には生まれるだろう。
 それこそ先進諸国が分厚い建前の仮面を脱ぎ捨てるくらいのな。
 その価値と比べれば魔法なんてこっちで金を払えば確実に身に付けることのできるものだ。
 モルモットはないと思うがな。
 せいぜい防疫検査やらなんやらと理由をつけて長いこと病院に隔離されるくらいだろう。
 俺はそんなことを考えながらアイテムボックスから魔導書を2冊取り出す。
 何十冊もダブりを持っている初級魔法の魔導書【ファイアボール】と【アースウォール】だ。
 初級魔法といえど店で買えば金貨がダース単位で飛んでいく代物。
 決して安いものではない。

「そんじゃあ魔法を覚えてみるか。これとこれを読んでくれ」

「え、魔法って魔力操作とかイメージ力とかを鍛えて発動するものではないんですか?」

「ああ、この世界の魔法は技名叫んだら出るような感じのやつだから。魔力操作は通常の魔法には使わないだけで重要な能力だけどな」

「お金がある人がよりたくさんの魔法を手に入れることができるブルジョワなタイプでしたか」

 飲み込みが早くて助かる。
 俺も初めてこの世界の魔法の仕組みを聞いた時には小さい頃から鍛えてきた魔力操作とイメージ力が全く役に立たなくて憤ったものだ。
 金のある人だけが魔法を手に入れ、そしてまたその魔法によって金を稼ぐという資本主義社会を理不尽だと思ったよ。
 まあ俺には運命神からもらった転生特典があったから別にそんなに苦労した覚えはないんだけどな。

「でもこの魔導書、買えば高いんじゃないですか?いいんですか?」

「ああ、いいんだよ。俺は転生者としてこの世界で好き勝手やってきたんだ。そのツケが回ってきたと思って日本人のサポートは手厚くしていきたいんだ。まあ日本政府が敵対したらさすがに戦うけどな」

「リノスさんって、やっぱり強いんですよね」

「強いよ。自分でもずるいって思うくらいにな」

「日本政府には冷静な対応をしてもらえるように僕も頑張ります」

 日本は政府の意見をまとめるのが下手くそだからな。
 トンチンカンな対応とかをしてきそうだ。

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