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9.エクストラスキル
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「おりゃっ」
短い気勢の声と共に、日野の突き出したミスリルの短槍がゴブリンの喉元に突き刺さる。
素早く槍を引き戻すと、傷跡から血が噴き出してゴブリンは昏倒する。
「うぇ、血がっ。それにこの感触……」
いくら自衛官といえども、こればっかりは仕方がないな。
日本には実戦経験のある自衛官などはいない。
生き物を殺して、血が噴き出る感覚には慣れていないだろう。
迷いなく突き刺したのには感心したが、そこから先の訓練などは自衛隊でやってしまったら非難囂々だ。
このままだと匂いが酷いことになりそうなので精霊魔法で返り血を綺麗に落としてやるか。
「ありがとうございます。それにしてもこの武器はすごいですね。鉄の武器とは全然手ごたえが違いますよ」
「魔力値が上がって金を稼げるようになってくると、こういう良い武器を買って格上を狩るんだ。常に格上を狩らないとレベルの上りが遅いからな」
「僕は最初からこんな良い武器を使っていいんでしょうか」
「課金装備だとでも思っておけ」
「格差社会ですね」
資本主義経済に格差はつきものだからな。
だからといって社会主義の国に格差が無いというわけでもないが。
全人類がAIにでも管理されない限りは本当に格差のない社会などは実現することはできないだろう。
「あ、短槍術のスキルが生えてる」
「早いな。あちらの世界で槍でも習ってたのか?」
「いえ。でも自衛隊で習った銃剣の動きが応用できるので」
銃剣術か。
あのアサルトライフルの先にナイフみたいなやつを付けて戦う戦闘術だったかな。
短槍のほうが少し長いかもしれないが、確かに似たような動きがあるかもしれない。
「そういえば、このエクストラスキルってなんですか?」
「エクストラスキルか。言葉の通りエクストラなスキルだな。通常スキルよりも強力なスキル、もしくは特別なスキルってことだ。例えば先祖が神からもらった一族に伝わるスキルだとか、大精霊に祝福されて覚えたスキルだとかな。まあある日突然覚醒したようにエクストラスキルが芽生える奴もいないわけではない」
「そうなんですね」
「日野は異世界人だから、案外突然なんらかのスキルに芽生えてもおかしくはない。そんなに落ち込むことはない」
「そうなんですけどね。僕も欲しかったですよ、エクストラスキル」
次元の扉からこちらの世界に初めて訪れた人間。
日野も十分に特別な人間だ。
運命神が故意に日野を選んだとすればなんらかのエクストラスキルを与えていてもおかしくはないと思うんだがな。
俺もステータスにエクストラスキルが現れたのは7、8歳くらいの頃だったから多分レベルとか魔力値が関係しているんだと思う。
「リノスさんもエクストラスキルって持ってるんですよね」
「ああ、俺は転生者だからな。色々なことに巻き込まれる。神からもらったのとか、あとから芽生えたのとか色々持っている」
「あまりこういうの聞くのマナー違反かもしれないですけど、どんなスキルなのかちょっとだけ教えてもらえませんか?」
マナー違反どころか普通に激怒されてもおかしくない行為だぞ。
まあ同じパーティ内ならまた色々と事情が変わるし、俺は別に多少スキルを明かしたところで困らないからいいけどな。
今度冒険者同士のマナーについて少しレクチャーする必要がありそうだ。
日野の気持ちもわからないでもないけどな。
エクストラスキルっていえば一つ持っているだけで人生勝ち組のチートスキルだ。
どんなものがあるのか気になるよな。
だが世の中そう甘くない。
エクストラスキルの中には貰っても嬉しくないバッドステータスのようなものがあるということも教えておかねばなるまい。
「そうだな。じゃあ一つだけ教えてやるよ。俺のエクストラスキルの一つは【運命神の加護】だ」
「運命神の加護、ですか。なんかちょっと嫌な予感のするスキルですね」
「大当たりだ。このスキルは良いことばかりのスキルじゃない。スキルの能力は単純だ。引きがよくなる。低確率を引き寄せるというスキルだ。宝くじに当たる確率、雷に打たれる確率。良い悪いにかかわらずそういう低確率を引きやすくなるスキルだ」
「良い悪いに関わらず……」
そこなんだよな。
良いことだけでいいのに、悪いことも引いてしまう。
特に女運に関しては、俺は良い方を引いたことがない。
「隕石に当たるとか俺が死ぬようなことはさすがに運命神もしなかったが、俺はまともな女と付き合ったことがない。どいつもこいつも地雷ばかりだ。ハーレムを目指したりもしたが、死人が出そうになったよ」
「ひぇっ」
ちなみに死にそうになったのは俺だ。
あいつら結託して俺の飯に毒神の涙とかいう超やばいダンジョンアイテムの猛毒を盛りやがった。
状態異常無効スキルをやすやすと超えてくるめちゃくちゃな毒だったな。
一昼夜寝込んで起きたら誰もいなくなっていた。
俺の全財産と一緒にな。
あれは今でもトラウマとなっている。
俺はもう二度と女を信用しない。
「ぼ、僕はエクストラスキルはいいです」
「ビビらせすぎてしまったか。【運命神の加護】はたぶん日野には生えないから安心しろ」
神が加護を与えられるのは魂の状態で出会った人間だけらしい。
つまり死んだ後か生まれる前に神に接触された人間だな。
すでに現世に生れ落ちて肉体を持つ日野には神の加護スキルは発現しない。
俺は青い顔をしている日野にそのことを説明した。
「そ、そうなんですね。ちょっと焦っちゃいました。たぶん僕、運命神に目を付けられていますよね」
「だろうな。運命神は面白そうな人間が好きだ。俺の目から見ても日野は運命神の好みの人間だと思う」
日野は貧弱な見た目で自衛官というギャップがある。
運命神はギャップ萌えだからな。
短い気勢の声と共に、日野の突き出したミスリルの短槍がゴブリンの喉元に突き刺さる。
素早く槍を引き戻すと、傷跡から血が噴き出してゴブリンは昏倒する。
「うぇ、血がっ。それにこの感触……」
いくら自衛官といえども、こればっかりは仕方がないな。
日本には実戦経験のある自衛官などはいない。
生き物を殺して、血が噴き出る感覚には慣れていないだろう。
迷いなく突き刺したのには感心したが、そこから先の訓練などは自衛隊でやってしまったら非難囂々だ。
このままだと匂いが酷いことになりそうなので精霊魔法で返り血を綺麗に落としてやるか。
「ありがとうございます。それにしてもこの武器はすごいですね。鉄の武器とは全然手ごたえが違いますよ」
「魔力値が上がって金を稼げるようになってくると、こういう良い武器を買って格上を狩るんだ。常に格上を狩らないとレベルの上りが遅いからな」
「僕は最初からこんな良い武器を使っていいんでしょうか」
「課金装備だとでも思っておけ」
「格差社会ですね」
資本主義経済に格差はつきものだからな。
だからといって社会主義の国に格差が無いというわけでもないが。
全人類がAIにでも管理されない限りは本当に格差のない社会などは実現することはできないだろう。
「あ、短槍術のスキルが生えてる」
「早いな。あちらの世界で槍でも習ってたのか?」
「いえ。でも自衛隊で習った銃剣の動きが応用できるので」
銃剣術か。
あのアサルトライフルの先にナイフみたいなやつを付けて戦う戦闘術だったかな。
短槍のほうが少し長いかもしれないが、確かに似たような動きがあるかもしれない。
「そういえば、このエクストラスキルってなんですか?」
「エクストラスキルか。言葉の通りエクストラなスキルだな。通常スキルよりも強力なスキル、もしくは特別なスキルってことだ。例えば先祖が神からもらった一族に伝わるスキルだとか、大精霊に祝福されて覚えたスキルだとかな。まあある日突然覚醒したようにエクストラスキルが芽生える奴もいないわけではない」
「そうなんですね」
「日野は異世界人だから、案外突然なんらかのスキルに芽生えてもおかしくはない。そんなに落ち込むことはない」
「そうなんですけどね。僕も欲しかったですよ、エクストラスキル」
次元の扉からこちらの世界に初めて訪れた人間。
日野も十分に特別な人間だ。
運命神が故意に日野を選んだとすればなんらかのエクストラスキルを与えていてもおかしくはないと思うんだがな。
俺もステータスにエクストラスキルが現れたのは7、8歳くらいの頃だったから多分レベルとか魔力値が関係しているんだと思う。
「リノスさんもエクストラスキルって持ってるんですよね」
「ああ、俺は転生者だからな。色々なことに巻き込まれる。神からもらったのとか、あとから芽生えたのとか色々持っている」
「あまりこういうの聞くのマナー違反かもしれないですけど、どんなスキルなのかちょっとだけ教えてもらえませんか?」
マナー違反どころか普通に激怒されてもおかしくない行為だぞ。
まあ同じパーティ内ならまた色々と事情が変わるし、俺は別に多少スキルを明かしたところで困らないからいいけどな。
今度冒険者同士のマナーについて少しレクチャーする必要がありそうだ。
日野の気持ちもわからないでもないけどな。
エクストラスキルっていえば一つ持っているだけで人生勝ち組のチートスキルだ。
どんなものがあるのか気になるよな。
だが世の中そう甘くない。
エクストラスキルの中には貰っても嬉しくないバッドステータスのようなものがあるということも教えておかねばなるまい。
「そうだな。じゃあ一つだけ教えてやるよ。俺のエクストラスキルの一つは【運命神の加護】だ」
「運命神の加護、ですか。なんかちょっと嫌な予感のするスキルですね」
「大当たりだ。このスキルは良いことばかりのスキルじゃない。スキルの能力は単純だ。引きがよくなる。低確率を引き寄せるというスキルだ。宝くじに当たる確率、雷に打たれる確率。良い悪いにかかわらずそういう低確率を引きやすくなるスキルだ」
「良い悪いに関わらず……」
そこなんだよな。
良いことだけでいいのに、悪いことも引いてしまう。
特に女運に関しては、俺は良い方を引いたことがない。
「隕石に当たるとか俺が死ぬようなことはさすがに運命神もしなかったが、俺はまともな女と付き合ったことがない。どいつもこいつも地雷ばかりだ。ハーレムを目指したりもしたが、死人が出そうになったよ」
「ひぇっ」
ちなみに死にそうになったのは俺だ。
あいつら結託して俺の飯に毒神の涙とかいう超やばいダンジョンアイテムの猛毒を盛りやがった。
状態異常無効スキルをやすやすと超えてくるめちゃくちゃな毒だったな。
一昼夜寝込んで起きたら誰もいなくなっていた。
俺の全財産と一緒にな。
あれは今でもトラウマとなっている。
俺はもう二度と女を信用しない。
「ぼ、僕はエクストラスキルはいいです」
「ビビらせすぎてしまったか。【運命神の加護】はたぶん日野には生えないから安心しろ」
神が加護を与えられるのは魂の状態で出会った人間だけらしい。
つまり死んだ後か生まれる前に神に接触された人間だな。
すでに現世に生れ落ちて肉体を持つ日野には神の加護スキルは発現しない。
俺は青い顔をしている日野にそのことを説明した。
「そ、そうなんですね。ちょっと焦っちゃいました。たぶん僕、運命神に目を付けられていますよね」
「だろうな。運命神は面白そうな人間が好きだ。俺の目から見ても日野は運命神の好みの人間だと思う」
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運命神はギャップ萌えだからな。
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