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逸文 比翼連理 三十
しおりを挟む新三郎は、りくの姿を見下ろすようになった。出ていこうという男にすがるように、躰を曲げて中腰になっている。
(肩が細い……?)
言いたいことを言う、生意気だが親切な下女のりく。正体を明かしたあとも、昔と変わらぬ世話焼きに、疑いはなかった。どうやら、おれのことを好いてくれているらしい。それはうれしく、温かい気持ちになっていた。配下に潜り込んできた怪しい集団の一員などというよりも、古い同心で知己である。だからというわけではないが、自分はりくを大事だと思っているのに気づいた。秘密を分け合えると信じ、心に決めた。
だが、そのりくの躰が、こんなに小さく、そして可憐にみえたことはない。
(知らなかった。)
(知りたい。)
そう感じたとき、りくを腕に抱いていた。膝をついている。
「あ……!」
りくが小さな悲鳴に似た吐息を漏らす。だが、拒否の素振りはない。新三郎の固い腕に包まれるままになっている。
(細い。……それに、温かい。りくの躰はなんと温かいのか。)
新三郎は着物の下から伝わってくる、そのぬくもりを離さぬように、さらにきつく抱いた。
りくは躰を堅くしていたが、やがて、感に耐えたような、長い息をついた。おずおずとだが、身を寄り添わせてくる。背中に手を回そうとするのに気づき、腕をゆるめて腕を自由にしてやると、ぴったりと抱きついてきた。
新三郎はりくの髪の匂いを嗅いだ。清潔な、油の匂いがした。
女の肩を掴み、りくの顔を間近にした。はにかむように微かに笑んでいる。安らいだ表情だ。
新三郎は、激しい勢いで唇を、りくのそれに合わせた。りくが驚く気配にすぐに気づき、ゆっくりと味わうように口を吸う。開いた唇を軽くついばんだかと思うと深く押しつけた。驚く女の唇の裏に舌を差し込み、やがて、前歯をこじ開けた。口腔に侵入し、相手の舌を追った。とらえると、絡めていく。
ぴったりと合わされた、りくの胸が、激しく上下するのがわかった。りくの舌も、新三郎が責めるのに、応えようとしてくれる。だが、やがて口が離れたとき、顔を真っ赤に染めたりくは、男の腕のなかでぐったりとしていた。
(ああ、……とうとう。)
口づけのなかで、そのまま息が止まる怖れすら覚えた。だが、激しい悦びのなかで、死にたい、この幸せのなかで死んでしまいたい、という気持ちも沸いた。解放されて、安堵の気持ちがあったが、もう力が抜けかけていた。男に体重を預けてしまっている。そして、躰の中心に疼きがある。
「りく……。」
返事を待っている。りくは声がすぐに出ない。目で、はい、と頷いてみせると、
「もう、戻れぬようになるな。」
もとの古馴染み、かつての同心(郎党同士)という仲には、と言うのだろうか。
「……戻れなくて、結構にございます。」
また強く抱きしめられた。そのまま、床に倒される。床にぶつからぬように、頭は男の大きな手で抱えられている。結んでいたりくの髪がほどけて、広がった。
唇が覆いかぶさった。また、互いの舌を貪りあった。今度はりくが先に夢中になったが、すぐに男の唇が離れた。 一瞬、もどかしい思いになったが、新三郎はりくの肌の別の場所に口づけを移していく。額に温かい唇を感じたとき、りくは目を閉じたまま微笑んだ。それが瞼へ、頬へと移り、咢から、やがて首筋に達した。強く吸われる。あっと息を呑んだ時、耳が軽く噛まれた。とたんにりくの中に、戦慄が走った。耳殻に熱い息が送り込まれた。逃れようと動くが、いつのまにか頬を挟んだ男の手は、それを許してくれない。
(へんになるっ。)
その言葉が示すのは、自然に膝が浮いてしまった、立てた両脚の間での異変であった。
耳を愛撫された瞬間に、一瞬で肌が粟だった。口づけのさいちゅうにも躰の中心は潤いつづけていたが、このときには、気づくと、噴いているといってよかった。羞恥に文字通りのたうつが、新三郎は女の躰の変化に気づいているのかいないのか、それを続ける。
「へんになりまする! それはやめて……。」
「なぜじゃ?」
(ああ、何を尋ねる?)
「おかしくなりまする。恥ずかしい。」
「なればよい。なってくれ。」
のしかかった形になっている新三郎の唇は、咽喉にかかっていた。産毛の光る肌を、肩へと降りていく。着物に手がかかった。唇と手が同時に動いて、りくの胸をはだけさせた。
(これが、りくの乳房か……。)
見たくて仕方がないほどに、憧れていたのではない。それはたしかだった。だが、やや小ぶりの隆起の先にあずき色の乳首が震えているのをみたとき、感動としか言いようのないものが、若者を震えさせた。新三郎の本能が、眼の下で息づく美しい器官を、どう扱うべきかを命じていた。
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