26 / 31
26
しおりを挟む
本部の外で偶然会った桂樹と月橘は、その夜結局東の森都内の宿屋に腰を落ち着けた。本部に帰り、自身に当充てがわれた家に戻ることも可能だったが、久しぶりに会った友人だ。話が尽きなければ、酒場で一杯やりながらそのまま夜中まで雪崩れ込むのが定石だ。賑やかで活気付くヴェルドジェーリュの夜の喧騒をよそに、二人は仕事の延長線上のような話をして夜を明かした。
「桂樹、そろそろ本部に戻るぞ」
乱暴にも寝台を足蹴にされ、桂樹の朝の目覚めは訪れた。飲み過ぎによる喉の渇きと、遠くにあるかすかな頭痛に桂樹はうっすら顔をしかめて体を起こす。水差しに入った水をグラスに注ぎ、一気に煽る。冷えていないが心地よく喉を通り過ぎた水が、寝起きの体に浸透していく。頭がすっきりしていくにつれ、意気揚々と身支度する月橘に気付いて眉をひそめる。
「叱られに行くんだよな?」
『鳥籠』に入った咎を謝罪しに行くはずなのだ、彼は。如何なる理由があろうとも、『鳥籠』に入ることは許されない。彼は罪を犯し、その責を総帥にすら背負わせることにしたのだ。当然その謝罪のための訪問だろう。だがそれにしては機嫌が良い。
桂樹の確認に、月橘は身支度の手を止めぬまま答えた。
「真実を知るために行くんだ」
もちろん、咎は咎だ。その謝罪はする。だがそれとは別に、月橘には確認したいことがある。『鳥』が人と同じ形体をしているという事実。それを隠し守る保護庁。
そして。
「もう一度『鳥籠』に行く」
きっぱりと強い意志を見せた月橘に、桂樹が形の良い眉をしかめる。
「行けると思っているのか?」
『鳥籠』は保護庁が、王室が直轄で管理する、言わば聖域だ。周りからもその場所を隠匿し、人の出入りを著しく制限したそこへ、再び侵入することなど不可能だ。まして一度侵入した月橘に警戒が緩められることはないだろう。
桂樹の問いかけは真っ当なものだったし、月橘もその困難さはよくわかっている。
だが。
「もう一度あの『鳥』に会いたい」
飴色が強い意志を持って光を放つ。
「何故?」
思いもよらぬほど意志の強い声に、首を傾げる。あの『鳥籠』に、その『鳥』に何があるのか。
純粋な疑問を向けた桂樹に、月橘は惚れ惚れするほどの笑顔を向けた。
「言っただろう? 魂をもぎ取られたって」
一瞬で全てを攫っていくような激情を見た。それはひどく暴力的で、凶暴な力でもって月橘を打ちのめした。圧倒的な熱量で月橘の胸を焼き、それ以外の一切が目に入らなくなった。
もう一度あの『鳥』に会い、確かめる。月橘の胸を焼く激情の意味を。そのために惜しむものなど何もない。
「お前もそうじゃないのか、桂樹。あの仔猫をどうしたいのかわからないままじゃ、総帥に会ってもまたすごすご帰ることになるだけだぞ」
「桂樹、そろそろ本部に戻るぞ」
乱暴にも寝台を足蹴にされ、桂樹の朝の目覚めは訪れた。飲み過ぎによる喉の渇きと、遠くにあるかすかな頭痛に桂樹はうっすら顔をしかめて体を起こす。水差しに入った水をグラスに注ぎ、一気に煽る。冷えていないが心地よく喉を通り過ぎた水が、寝起きの体に浸透していく。頭がすっきりしていくにつれ、意気揚々と身支度する月橘に気付いて眉をひそめる。
「叱られに行くんだよな?」
『鳥籠』に入った咎を謝罪しに行くはずなのだ、彼は。如何なる理由があろうとも、『鳥籠』に入ることは許されない。彼は罪を犯し、その責を総帥にすら背負わせることにしたのだ。当然その謝罪のための訪問だろう。だがそれにしては機嫌が良い。
桂樹の確認に、月橘は身支度の手を止めぬまま答えた。
「真実を知るために行くんだ」
もちろん、咎は咎だ。その謝罪はする。だがそれとは別に、月橘には確認したいことがある。『鳥』が人と同じ形体をしているという事実。それを隠し守る保護庁。
そして。
「もう一度『鳥籠』に行く」
きっぱりと強い意志を見せた月橘に、桂樹が形の良い眉をしかめる。
「行けると思っているのか?」
『鳥籠』は保護庁が、王室が直轄で管理する、言わば聖域だ。周りからもその場所を隠匿し、人の出入りを著しく制限したそこへ、再び侵入することなど不可能だ。まして一度侵入した月橘に警戒が緩められることはないだろう。
桂樹の問いかけは真っ当なものだったし、月橘もその困難さはよくわかっている。
だが。
「もう一度あの『鳥』に会いたい」
飴色が強い意志を持って光を放つ。
「何故?」
思いもよらぬほど意志の強い声に、首を傾げる。あの『鳥籠』に、その『鳥』に何があるのか。
純粋な疑問を向けた桂樹に、月橘は惚れ惚れするほどの笑顔を向けた。
「言っただろう? 魂をもぎ取られたって」
一瞬で全てを攫っていくような激情を見た。それはひどく暴力的で、凶暴な力でもって月橘を打ちのめした。圧倒的な熱量で月橘の胸を焼き、それ以外の一切が目に入らなくなった。
もう一度あの『鳥』に会い、確かめる。月橘の胸を焼く激情の意味を。そのために惜しむものなど何もない。
「お前もそうじゃないのか、桂樹。あの仔猫をどうしたいのかわからないままじゃ、総帥に会ってもまたすごすご帰ることになるだけだぞ」
0
あなたにおすすめの小説
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない
結衣可
BL
戦の傷跡が癒えた共生都市ルーヴェン。
人族と獣人族が共に暮らすその街で、文官ユリス・アルヴィンは、穏やかな日々の中に、いつも自分を見守る“優しい視線”の存在を感じていた。
その正体は、狼族の戦士長出身の護衛騎士、ガルド・ルヴァーン。
無口で不器用だが、誠実で優しい彼は、いつしかユリスを守ることが日課になっていた。
モフモフ好きなユリスと、心配性すぎるガルド。
灰銀の狼と金灰の文官――
異種族の二人の関係がルーヴェンの風のようにやさしく、日々の中で少しずつ変わっていく。
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
happy dead end
瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」
シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる