10 / 49
誓いの女王
4
しおりを挟む「突然呼び出して申し訳ない。理事長から連絡があってだね…」
図書館での事があってから二週間ほどたった頃、ルエに学長室に呼び出された。
部屋の相変わらずの毒々しい色彩に目を痛めつつ、一体父から何の連絡がと眉を顰める。
なるべく早く要件を済ませてカヨコのところに戻りたいと思っていたが、父からとなればそうもいかないだろう。
「最近、君がやたらと授業を抜け出す件についてなんだが…どうやらそれが理事長のお耳にも入ったようでな」
「ああ…」
それが何だと言うのだろう。
たしかに授業の遅刻早退欠席回数が増えたことは先生方に申し訳ないと感じている。しかし、授業内容の理解は十分にできているという自負があるし、次回の__来月の試験でも、全く問題ない結果を得られる自信がある。この大学は出欠席はあまり重視しない方針だったはずだが記憶違いだろうか。
「それはまぁ、どうせ、ほら…あの異世界人…」
「Ms.カヨコのことですか?」
「ああ、そうだ。大方カヨコ…カヨコ・カガミの世話が忙しいからではないかと伝えたら、学内には学内でまた別に彼女を手伝う人間を作ろうと言い出されてな。理事長もお気を使われたのだろうな」
「は?」
頭が真っ白になった。
気を?使う?誰に?私に?
「ここは第一学年主席のルイ・クーポーに任せてみるかと。彼は強大な魔力も持っていないし、素行も良いしちょうどいいかもしれんとなってな」
「待ってください。色々言いたいことはありますが、彼は確か…」
「ああ、悪役の息子だ」
そうだ。彼は「悪役」の息子なのだ。
存在自体が悪意に塗れた、この世界の汚濁の根源たる「悪役」の息子だ。確かに彼は表面上は品行方正かもしれない。しかし、「悪役」というのは生まれつきどうしようもない「悪」を抱えているのだ。いかに「悪役」ではなくその息子と言えど、裏でなにを行っているのかわかったものではない。
それになにより、「悪役」は極一部の例外を除き無条件で恐怖され嫌悪される。そして、その呪いは「子」にも、運が悪ければ「孫」にも、さらに運が悪ければ「子々孫々」受け継がれる。彼__L.クーポーは強くその性質を受け継いでいたはずだ。
「しかし、彼にはなんの問題行動もない。学年の模範生と言っても過言ではないだろう。ボーディングスクールでも学校一の優等生だったと聞く。それに、先日彼とカヨコ・カガミで顔合わせを済ませたのだが意外と反応もよくてだな」
「え…」
カヨコがL.クーポーと?そんな話聞いていない。
それだけではない。最近彼女の「不安」や「恐怖」を感知して彼女のもとに向かった際、L.クーポーが彼女の周辺にいた記憶はない。つまり、彼女は彼に対して「不安」も「恐怖」も…なんのストレス反応を示さなかったということか?そこまで彼のことを気に入ったのか?
「お互いにそういうことで構わないかと確認を取ったら、いいということだったので来月からは校内では基本カヨコ・カガミのことはルイ・クーポーに任せることとなった」
「…」
「…もしかして、なにも聞いていなかったのか?どれも二週間ほど前のことだから、彼女からなにかしらは聞いていると思っていたのだが…」
視界が揺れていた。
私の中にたしかにあった、あたたかでしあわせな世界が崩れていくような感覚。
「…まぁ、とにかくそういうことなので…わかってくれるかね?」
わからない。この、あたたかななにかは私の中だけにある幻想だったのか。
せめて、彼女の口からこの話を聞けていれば…違うだろう。彼女に責任を押し付けてはいけない。これは全て、私の、私の中での問題だ。私は、私が、私だけが、彼女のヒーローでいられると…勝手に思い込んでいただけだ。これが、私と彼女の間だけに生まれる関係だと…勘違いしていた。
彼女にとっては特別でもなんでもなくて、こんなにも簡単に手放すことができるものだったというだけ…こんな恨みがましい言い方をしてはいけない。彼女はきっとそんなつもりもない。もしかしたら、私の負担を軽くしようという善意で頷いた可能性すらある。
お互いに「私だけ」と約束したこともない。そんな誓いなど…私の中にしかなかったのだから、これは当然起き得たことなのだ。彼女はなにも悪くない。悪いのは私だ。
私は、そんな風に私を納得させながら、ルエの言葉__父からの言伝に対して大した反意を見せることもなく無言で首を縦に振った。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
ストーカーから逃げ切ったつもりが、今度はヤンデレ騎士団に追われています。
由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる