15 / 30
二章「雨の日の記憶」
十五、
しおりを挟む十五、
○○○
「じゃあ、矢鏡様はその蛇神様を倒して、女の人を助けたんですね。だから、神様として祀られた……」
紅月は話を聞きながら何度か涙が溢れそうになった。
矢鏡が人間だった頃に、そんなにも辛いことはあったとは、知らなかったのだ。現在は昔ほど見た目の偏見はなくなったが、どうしても差別などは残っている。それが辛くて心を痛める人は沢山いるし、見た目の事で傷ついた経験は、ほとんどの人間が経験しているはずだ。それが、昔はもっと酷かった。想像するだけでも辛いのだから、現実はもっと過酷だったはずだ。銀髪をもつ矢鏡は独りで生きてきたはずなのに、人に傷つけられてはずなのに、どうして優しくなれるのだろうか。
たった一人の女の子が矢鏡の気持ちを明るいものにさせたのか。そう思うと、紅月の心はほんのり温かくなってきた。
けれど、どうして神様として祀られたはずの矢鏡神社は、今となってはボロボロになっていたのか。それに今日会った老婆の「蛇神様」という言葉。先ほど矢鏡が語ってくれた過去の話にも出てきた名前だ。偶然には出来すぎているので、同じなのだろう。
彼にどう聞けばいいのか。紅月は言葉を濁す。
それを見た矢鏡は、少し苦い顔をしながら大丈夫だ、と言わんばかりに紅月の頭を軽く撫でた後に流れるように髪をすいていく。まるで手で遊ぶように、紅月の髪に触れながら話を進め始めた。
「俺が死んだ後だから詳しくはわからんけどな。蛇神だと祀られていた巨大な白蛇は化け物だと言って村人たちは蛇神信仰を捨てたんだ。実際、人身御供を止めて、巨大な蛇が死んだ後は天候にも恵まれて、安定した作物が育つようになったらしい。けれど、数十年後に大災害が発生した。白蛇が住んでいた川が氾濫しそうだ。そして、2週間近く川の水が村を襲い、水が引いた頃にはいたるところから蛇の死骸が落ちていたそうだ」
「そんな事って……」
「それを見た村の人達は、蛇神様が怒っている。と思ったらしくあの白い巨大の蛇はやはり神様だと言い始めたんだ。そして、その蛇神を殺した俺は悪者に降格ってわけだ」
「……そんな」
「仕方がないことだ。本当にただの蛇だったのかもしれないが、結局は祀られた事で俺と同じように神様になったのだからな」
「そうだけど、悪い蛇が神様になるって……」
「悪鬼を祀っているところだってあるんだ。不思議はないさ」
全てを受け入れたように穏やかに話す矢鏡。
いや、諦めている。そんな風に見えてしまい、紅月は心が苦しくなった。
けれど、矢鏡に救われた人は確実にいる。それは事実なのだ。
「その女の子は、矢鏡様こそ本当の神様だと信じているはずです。もちろん、私も」
「……あぁ、そうだな」
矢鏡は、目を細めて嬉しそうに微笑み、「お前の方が優しいな」と、いままで一番優しい声で褒めてくれる。
話の途中で矢鏡の瞳が何度も潤い、光っていたのに紅月は気づいていた。
どうして、矢鏡の瞳は金色なのだろうか。
今度、彼に聞いてみよう。そう思いながら、雲の間から除く月を、彼と一緒に眺めた。
あんなに強く降っていた雨は、もう止んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる