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14話「毎日の変化」
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その日から、空澄の1日の流れが決まっていった。
朝から夕方近くまで魔女になるための勉強をして、夕飯の後は沼に行ってお祈りをする。そして夜も寝る前まで自主勉をするようになっていた。
希海は、夜中に店に行く事もあり忙しそうにしていた。空澄も店に行ってみたかったけれど、「もう少ししたらな」と、希海に言われてしまったのだった。
「………ん………希海………」
「ん?どうした?」
息苦しさを感じ、キスとキスの短い間に彼の名前を呼ぶ。吐息混じりの言葉を聞いて、希海はうっすらと目を開け、1度キスを止めた。
けれど、額と額がくっついた状態で、希海との距離は近いままだった。
「………キス……長いよ……」
「今日はいつもより魔力使ったし。それに……」
「ん?」
「………何でもない。もうちょっと………」
「ぁ………んっ………」
彼は何かを言いたそうに空澄を見つめていたけれど、物欲しそうな瞳に変わりまた甘いキスをされてしまう。
この魔力の交換もいつもの習慣となり、地下の秘密部屋で交わされていた。希海のキスは慣れる事もなく、いつもドキドキしてしまう。
そして、最近は自分が魔力を上げているのではなく、彼に気持ちよさを与えられているのではないかと思ってしまうほどだった。
しばらく魔力の譲渡のためにキスを交わした後、いつものように全身の力が抜け、空澄はうっとりとした視線で彼を見つめてしまう。それは、魔力を取られてしまい体が動かなくなってしまったのだと空澄は考えていた。
キスに酔ってしまったわけではない。そう思いたかったのかもしれない。
「ん………溜まってきた。ありがとう」
「うん………」
「また、しばらくここで横になってるか?」
「うん」
希海は空澄の頭を撫でた後、秘密の地下室から出ていく。それもいつもと同じだった。
空澄は気だるく、そして熱をおびた体が落ちつくまで、ソファで横になる事にしていた。
そのまま、彼と話していても恥ずかしくなってしまうと思ったのだ。それに、この部屋はとても静かで考え事をするには最適だった。
いつも考えることは、どうしてこんな生活になったのだろうという事だった。
ありふれた生活を繰り返し、璃真と過ごす毎日。それは穏やかで、変わりのない日々だったかもしれない。
いつかはどちらかが結婚してバラバラになるのだろうと思っていたけれど、まさかこうやって全く違う世界に飛び込む事になるとは思ってもいなかった。
璃真がいなくなってしまった事は突然だったけれど、魔女になると決めたのは空澄自身だ。
魔女になって、璃真がいなくなってしまった理由を突き止めるためにこの世界に飛び込んだのだ。
「それなのに………何をしてるんだろう……」
いくら必要な事とはいえ、璃真に好きと言われていたのに、璃真の事を知るためにキスをしてしまうのは、どうなのだろうと悩んだ事もあった。
けれど、璃真に告白されたけれど、空澄は彼と付き合うかと言ったらそれはたぶんなかったように感じていた。
璃真が姿を消さなくても、きっと断っていたと思うのだ。大切な幼馴染みとしか見られなかったのだ。
だから、気にしなくてもいいとは思いつつも、後ろめたさは感じていた。
ごろんと体を横にして目を瞑る。すると枕の変わりにしていたクッションから希海の香りを感じた。
今では、その香りが空澄をドキドキさせ、そして安心感も感じさせてくれる。
たった数日しか一緒にいないが、希海の存在は大きくなっているのを感じていた。
その日の夕食はキノコのスープスパゲティだった。
希海のおいしい夕食を食べ終えようという頃に、希海は突然目を鋭くさせ、どこか遠くを見つめた後に、フォークとスプーンを置いた。
「希海?どうしたの?」
「………来客だ」
「え………そう?」
空澄は全く何も感じず、後ろの窓を見ようと椅子から立ち上がった。すると、それと同時にピンポーンと玄関のチャイムがなった。
「魔力だよ。空澄も少しずつ感じ取れるようになるさ」
「………うん。でも、魔力って事は魔女か、魔王ってことだよね?誰だろう……」
「それは大丈夫だ。結界を解くから空澄が出てくれ」
そう言って、希海はまた何か呪文を唱え始めたので、空澄は彼の言う通りに玄関へと向かった。
すると、そこには真っ黒な軍服姿の男性が姿勢正しく立っていた。
「こんばんは。花里さん」
「あ、魔女官の小檜山さん。この度は、いろいろお世話になっております」
小檜山は浅く頭を下げた後に、視線を空澄の後ろに向けた。そこには、希海が立っていた。1度冷たい視線を感じたけれど、すぐに視線は空澄に戻ってきた。
「今回はお知らせしたいことがありお邪魔しました。新堂璃真さんと思われる白骨遺体のDHA検査の検査結果が明日の午前中には出ます。そのため、お昼頃に警察の方まで来ていただけませんか?」
「………はい。わかりました」
「その際、いろいろ書類に目を落として貰ったりするかと思いますので、よろしくお願いします」
「わかりました。あの………その事でわざわざいらしてくださったのですか?」
「はい………ですが、それだけではないですね」
そう言うと髪と同じ色の瞳を細めて空澄を見つめた。それは外見を見ているというより、中身を見透かしているような遠い目だった。
「花里さん。魔力を使ってますか?」
「………え」
「私は魔女対策官です。任されている地域に住む魔女や魔王の魔力は大体覚えていますが、この家には違うものを感じます。あなたの両親や、そこに居る男とも違うものです」
「今、空澄は魔女になるために訓練をし始めたばかりなんだよ。魔力を感じるのはそのためだろう」
戸惑う空澄の変わりに希海が腕を組ながらそう言うと、小檜山は納得したように小さく頷いた。
「なるほど。純血の生き残りが魔女になることにしましたか」
小檜山は初めて会った時にも「純血」と言っていたのを空澄はこの時思い出し、その意味を知ることが出来た。小檜山は初めから空澄が魔女と魔王の娘であると知っていたのだろう。
「それは本当ですか?」
「……はい。璃真がこんな事に巻き込まれてしまった原因を知りたくて、魔女になることにしました」
「そうですか、わかりました。それでは、明日、あなたが魔女になった事を登録する書類も準備しておきます。そちらに登録すれば、魔女の店も持てますので」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
空澄が笑顔でそう返事を言い終わる前に、小檜山は背を向けて玄関から出ていってしまった。相変わらず、とてもクールな人だと空澄は思った。
「明日か………。大丈夫か?空澄………」
「うん……大丈夫だよ。どんな結果が待っていても、璃真が目の前からいなくなってしまった事は変わらない。だから、魔女になるよ」
「あぁ。そうだな………」
希海の前では強がっていた空澄だったけれど、その日はベットに入っても眠れる事はなかった。ようやくうとうとしてきた頃には、窓からうっすらと朝日が差し込んできたのだった。
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