鴉と白骨は、寂しがり屋の魔女に恋をする

蝶野ともえ

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29話「最後の作戦」

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   29話「最後の作戦」




   ★★★



 どんなに魔力を持っていても、どんなに強力な魔法を持っていても、変えられない運命というものもある。
 それを希海は実感していた。

 1つは、自分自身についた鴉の呪い。
 それは代々受け継がれてきたもので、代を重ねるごとに強くなっていると言われていた。つまり最後の代であった希海は、最悪な呪いとなっていた。それを行使している花里のものではえ、勝手には呪いを変える事が出来なかった。空澄の両親も同じだった。死ぬことでしか、呪いを解除できないのだ。魔女の世界が認めてる純血の力をもってしてでも、敵わないのだ。

 そして、もう1つ。
 それは、運命で決まっている死だ。
 どんなに回避しようとしても、決められたかのように死んでしまう人がいるのだ。
 花里の両親。そして………目の前いる璃真だ。



 「で、今はまだ璃真なんだな?」
 「まぁ……かろうじでね。でも、そろそろダメかも」


 目の前にいる璃真は10年前に事故で死んでいた。希海は事故にあった時に彼の傍にいなかったが、彼は希海が教えた魔法を使って、自分の体を乗っ取ろうとしていたリアムを封印した。自分の体の中に。そうする事で彼の魔力を使い、10年という長い年月を意識だけを持って生きていた。体は死んでいるというのに。
 リアムの得意魔法は憑依。生き物に憑依することを得意としていた。それは生きたものや、死んでしまっても骨などの生き物のものであればその者の生前の姿で現れる事が出来るのだ。そのため、璃真は死んだ体でも憑依は可能だった。

 だが、この日は10年という魔法が終わりを迎える日だった。


 「………きっとリアムって男は空澄に近づこうとするから気を付けてね」
 「安心しろ、おまえの意識がなくなったら、俺が魔法でぶっぱなすから」
 「………なるほど、だから最後は家じゃなくて、公園に案内されたんだね」


 真夜中の時間。
 沼のある公園には人の姿はなかった。いるのは、希海と璃真のみだ。
 10年長く過ごせた。それはある意味ではよかったのかもしれない。けれど、璃真はどうだったのだろうか?自分のためではなく、愛しい空澄のために尽くした10年。それなのに、2人は結ばれることはないのだ。最後の10年を恋人になって過ごそうとはしなかった。それもすべて空澄のためなのだろう。恋人になっても、希海はいなくなる。寂しがる恋人を残して死んでしまう事を考えれば、結ばれない運命を選んでしまうのもわかっていた。


 「希海………空澄を頼んだよ」
 「あぁ」
 「僕に遠慮して恋人にならないとかは止めてよ。希海と空澄には幸せになってほしいと思うんだ。それに、希海は空澄が好きだろう?」
 「………俺は鴉だぞ」
 「好きなのは否定しないんだね」


 全て知っていて聞いてくる璃真はずるいと思っていた。璃真が内心ではどう思っているかなど、希海にはわからない。けれど、大切な相手を自分に託してくる。それは、きっと彼が希海を信頼してくれているからだとはわかった。

 感情がくじゃくじゃで、彼の問いかけに何と答えるのが正解なのかわからなくなっていた。
 

 「ごめん……意地悪な事を言った。でも、僕はもう空澄を守れない……だから、守ってあげて。それを頼んでいいだろ?」
 「あぁ……元からそのつもりだ」
 「それを聞いて安心したよ。………あぁ、何だか眠くなってきた。そろそろかな……」
 「おいっ!!まだ、話せるだろ、空澄にだって本当に会わなくていいのかよ」
 「魔女の話をしていないんだ。話せないだろう?それは前から決めた事………」
 

 突然言葉が切れると、璃真は目を瞑った。
 終わりの時が近づいているのだとわかり、希海はギュッと手を握りしめた。


 「………最後にこんな事を言うと怒られるかも知れないけど………僕も魔王として生まれたかったな。」
 「……璃真」
 「安心して。君の呪いはもうすぐなくなるよ。そして、君たちは結ばれる。これは僕の最後の勘だ。幸せになって…………」


 そう言った後、ニッコリと笑った顔は、別れとは思えないほどに、清々しく、そしてとびきりの笑顔だった。
 希海はこみ上げてくるものがあったけれど、別れに浸っている暇はなかった。
 手の甲で、こぼれそうな涙を荒く拭いながら最後の彼の姿を見つめた。

 けれど、彼は変わらない。変わるのは中身だけだ。

 ガクンッと体が揺れ、璃真は倒れた。
 けれど、希海は彼に近づく事はない。
 
 そう、もう目の前にいるのは璃真であって、璃真ではない。体は璃真に見えるが、それも中にいる魔王が見せている幻想だ。



 「………あぁーーー!!やっとか………長かったぁー」
 「…………」


 璃真とは思えない言動。
 彼はゆっくりと立ち上がり、体を伸ばした。
 そして、キョロキョロと周りを見たり、自分の全身を眺めたりした後にニヤリと笑った。
 璃真の体だというのに、先ほどと違うところが1つだけ事に希海は気づいた。
 彼の瞳が真っ赤なものに変わっていたのだ。


 「…………おまえ、リアムとかいう魔王か?」
 「あぁ………。おまえは鴉だな。10年間見てたから覚えたよ」
 「じゃあ、話は早い。空澄を渡すわけにはいかないんだ。それに、その体は返してもらう」
 「なんだよ………やっと動けるようになって、悲願も果たせるかもしれないのに、それはないだろ?空澄に挨拶に行きたいんだけど?それに、今俺が離れたらこの男の体は白骨に戻るだけだよ?」
 「………おまえにはある意味感謝してるよ。璃真との時間が増えたんだからな」
 「だったら………」
 「けど、その体を使っていいのは、璃真だけなんだよっっ!!」


 話しは終わりだ、という言葉の代わりに希海は勢いよく炎魔法を彼に向かって勢いよく放った。
 が、リアムもそれをよんでいたのか、ひらりと跳んで魔法をかわした。


 「おまえの属性も火なんだろ?だったら、俺と力勝負でもしようぜ。まぁ、鴉の体のままでは魔力では勝負にもならないけどな!」

 そう言ってリアムは希海よりも数倍の威力がある炎を向けた。リアムの属性も火なのだ。それに対抗出来るはずもないと判断した希海はすぐにその炎から逃げた。

 夜だけ人間の姿に戻れる希海だったが、魔力は鴉の時と同じままなのだ。それをリアムは璃真の体の中で見ていたのだろう。

 だが、それでも希海は勝算があった。
 希海はニヤリと笑って、リアムの意表をつく行動に出た。
 残りの魔力を使って、最大級の炎魔法を放ったのだ。向かった先は、リアムではない。沼へだ。

 「はははっ!何やってんだ?血迷ったか?」
 「………余裕なのも今のうちだ」
 「………なんだと?………なっ………これは霧……いや、湯気か?」


 沼の水に炎ぶつける事で、水は一気に沸騰し水蒸気となって沼の周囲を覆った。それにより一気に視界が悪くなる。


 「視界を遮ったか………だが、それならおまえだって見えないはず………っっ!!」


 だが、希海には見えていた。
 霧の中をリアムの目を欺くように素早く飛んだ。そう、鴉の姿で。人間よりはるかに視力が良い鴉の目でリアムを捉え、彼の体に近づいた瞬間に人間に戻りそのまま体を掴み、勢いよく地面に叩きつけたのだ。


 「ぐっっ!!」


 体に衝撃が走り、リアムは苦痛の声を上げて、表情を歪めた。
 だが、希海は油断はしない。服から取り出したガラス玉を見せつけながら彼の体の上に体重をかけて地面に押し付けた。


 「これは、花里家のものの魔力が入っている。これを使えば俺の魔力はあっという間に高くなって、璃真の体ごと焼き尽くす事が出来る。もちろん、リアム。おまえも一緒にな」
 「………はったりを。純血の魔力をガラスに留めるなど、純血のやつらがするわけないだろ?」
 「じゃあ、やってみるか?俺はそれでもいいが」


 希海はニヤニヤと笑いながらリアムを見下ろした。
 そんな様子を見て、リアムは少し考えた後に渋々声を上げた。
 希海の考えている事を理解したようだ。


 「………条件は?」
 「話が早くて助かる。おまえを見逃す。だから、璃真の体から出ていけ」
 「………………」
 「命とこいつの体だったら選ぶのは1つだろ」
 「…………ちっ………俺が何のために10年、こんなところに居たと思ってんだよ?」

 ため息混じりにそう言うと、リアムは希海の腕に手を伸ばし、払い飛ばした後に体を起こして、希海を睨み付けた。


 「純血の女は俺のものだ。おまえには渡さない」

 そう言うと、璃真の体から真っ赤な髪と瞳の童顔の男が出てきた。その瞬間、地面にガラガラと白骨が落ちた。


 リアムは、白骨を見つめた後に風魔法を使って勢いよく公園から飛び去っていった。
 彼の姿が見えなくなった後、希海はフラフラと倒れ込んでしまった。


 「まぁ、本当にはったりなんだけどな」


 そう。希海が持っていたのは、ただのガラス玉だった。魔力なんて入っているはずもない。作戦勝ちだった。
 希海は魔力の使いすぎで、体力限界、そして睡魔に襲われたのだ。そして、璃真は、鴉の姿に戻ってしまった。


 「………璃真、上手くいったぞ………おまえの体は取り戻した」


 最後の力を振り絞って、ぴょんぴょんと飛びながら璃真の白骨の方へと向かう。
 わざわざ沼へ来たのもそのためだった。体の中でリアムが寝ている感覚がわかるようで、そんな時間を狙って、璃真と希海は作戦を考えたのだ。璃真の体を使って空澄が騙されないように。


 「だから………璃真、おやすみ………」


 そう言うと、希海は白骨と寄り添うように眠った。
 沼に白骨と鴉。その2人は闇にまぎれながら、2人だけの夢を見ていた。




 
 
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