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23話「不安な傷跡」
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☆☆☆
ガチャッと扉が開く音がした。
花霞はその音を聞くと、すぐに玄関へと向かった。
「おかえりない!」
「あぁ、花霞ちゃん。まだ起きててくれたんだ。ただいま。」
椋は、花霞の体を引き寄せて、短いキスをする。それはいつもの挨拶。少しずつ慣れてきたとはいえ、やはりドキドキするものだった。
「椋さん、ご飯食べてきた?」
「食べてきてないよ。でも、こんな時間だから、少しだけ食べようかな。」
「わかった。温めておくね。………それと………。」
花霞は言いにくそうに、彼が持っている紙袋を見つめた。それを見て、椋はクスクスと笑った。
「これを楽しみに待っててくれたんだよね。はい、どうぞ。」
「ありがとう!椋さん。」
花霞は満面の笑みでそれを受け取り、パタパタとスリッパの音を鳴らして小走りでリビングへと向かった。
ソファに座り、その袋から小さな箱を2つ取り出した。これは、花霞がずっと待ちに待っていたもので、今日椋が持ってきてくれると連絡が来てからずっと楽しみにしていたのだ。
箱の蓋をゆっくりと開ける。
そこには、新品のようにキラキラと輝くダイヤが多数埋め込まれている結婚指輪があった。
「わぁー………とっても綺麗になってる!新品みたい!傷も泥もない!」
「あぁ……よかったね。無事に綺麗になって。」
「うん。椋さん、ありがとう。」
「はい。つけてあげる。」
そう言うと、椋は綺麗に磨かれた指輪を手に取り、花霞に左手の薬指にはめてくれた。
何度されても、男の人に指輪をつけてもらうのは緊張するな、と花霞は思ってしまった。
「やっぱり、つけてると落ち着く。」
「そうよかった。じゃあ、俺も着けようかな。」
「うん。」
花霞は、自分のネックレスを外し、彼の、結婚指輪を渡した。
久しぶりに2人揃って指輪をしているのが、嬉しくてお互いに微笑んでしまった。
こんな些細な事が幸せだなと思ってしまうのが、結婚なのだと花霞は思うようになった。
そんな事を考えつつ、one sinの袋を見ているとフッと気づくことがあった。その袋の中には箱が2つも入っていたのだ。
結婚指輪だから2つなのかと思っていたけれど、よく考えれば椋の指輪は花霞が持っておりクリーニングして貰っていないのだ。
「あの………もう1つの箱って、何が入ってるの?」
「あぁ、そうだった。それも花霞ちゃんのだよ。というか、俺が勝手に欲しくて、君にお願いしたい事があるんだけどね。」
「え?それはどういう事?」
「まぁ、いいから。取り敢えず、開けてみてよ。」
花霞はよくわからないかったけれど、彼がプレゼントをくれるという事だろうか?そんな風に考え、箱を取り出した。
蓋をゆっくりとあけると、そこにはシルバーの小さなリングが入っていた。中央にはスクエアの赤い宝石がキラキラと輝いている。そして、花霞はすぐに気づいた。
そのデザインは、彼の首元に光る花霞のピンキーリングと似ていたのだ。
「これ、私の指輪に似てる………。」
「うん。俺も見たときにビックリしたんだ。俺、この花霞ちゃんの指輪、気に入っちゃって。もしよかったら、その指輪をプレゼントするから、これそのまま貰ってもいいかな?」
「え………。でも、それただ雑貨屋さんで買った安いものだし………。それに、これone sinの高価なものだし。こっちを椋さん使った方が………。」
「俺が欲しいのは、この花霞ちゃんが使ってた指輪だよ。俺が交換して欲しいんだから、ね。」
「………じゃあ…………。」
「やった!じゃあ、これは俺にくれるんだね。嬉しいなぁ。」
椋は嬉しそうに笑いながら、指で指輪に触れてニッコリと笑った。
彼が、そんなにも喜んでくれるならプレゼントしてよかったなと思ってしまう。自分の手の中にはまたしても高価な指輪がある。
本当に貰ってもいいのだろうか、と悩みながらも、満面の笑みの彼を見ていると断るのも忍びなくてありがたく受けとる事にしたのだった。
「あ…………椋さん。怪我してる?」
「え………。」
「ほら、この右手の指のところ………。」
「あぁ、これ………。」
花霞が気づいたのは、椋の右指が全体的に赤くなっているのだ。所々内出血なのか、青っぽくもなっている。
花霞はすぐに立ち上がり、「早く冷やさなきゃ!」と冷蔵庫から氷を取り出して、ビニールに入れて彼の右手に氷を当てた。
「…………こんな痛そうになってるなんて。……………椋さん、どうしたの?」
「大事だよ。こんなの怪我の内に入らない。」
「でも………。」
「これは、俺がやりたくてやった事だから。」
「仕事で?」
「………違うよ。………花霞ちゃんは心配しなくて大丈夫だから。」
「……………うん。」
椋は、この傷の事を聞かれたくないのが花霞には伝わってきたので、その話しをするのを止めた。
彼はどんな事をしてこうなったのかはわからない。けれど、これと似たような傷を花霞は見たことがあった。
それは、少し昔の話。
花霞と玲が恋人だったとき。玲を怒らせてしまった時に彼が思いきり壁を殴ったのだ。
花霞は驚き、怖くて震えてしまった。その後、彼の手を見ると指の関節の部分を中心に赤く腫れていたのだ。
それと、今の椋と全く同じ傷のように見えたのだった。
「あれ?香り変えたの?」
「あ………気づいてくれたんだ。」
まだ、椋の不眠は治ることはなかったけれど、花霞は食事やアロマなどを続けていた。食事は椋が作ってくれるので、不眠に効くといわれる食材を彼に教えて、どれかを入れてもらったり、ピーナッツなどを2人でつまむようにしていた。
そして、花霞は彼のためにアロマを始めてからすっかりハマッてしまった。
お店の人に聞いたりしながら、不眠に効くものを教えてもらったり、自分の好みの香りを探したりしていた。
「これは白檀、サンダルウットの香りで、体の不調や不眠にもいいんだって。私、この香りが気に入ってて…………。それに………。」
「それに?」
「椋さんの名前も、木の名前でしょ?何か似てる気がしていて。」
「………なるほどね。確かにそうだね。…………俺も好きだな、この香り。なんだか、安心する。」
「本当?よかった。」
花霞は、この香りが選んでよかったと思った。白檀の香りがする部屋で、大きく息を吸い込んだ。清涼感がありながらも、どこか神秘的で少し甘い香りが、体をリラックスさせてくれる。そんな気がした。
「ん………何だか、今日はそのまま寝れるかも。………どうも疲れたんだ。」
「そうなの?」
「うん………。」
椋は小さく息を吐くと、ベットの中でゆっくりと目を瞑っていた。その様子を見て、花霞は少し嬉しくなりながらも、心配なって彼の手を見つめた。
赤くなった右手。
彼は一体何をしてきたのだろうか。
それが気になってしまうのだ。
「花霞ちゃん?寝よう…………?」
「あ、うん。電気消すね。」
花霞は部屋の電気を消して、ベットに入る。
すると、椋が優しく花霞を抱きしめくれた。そして、「おやすみ。」とキスをしてくれる。花霞も「おやすみなさい。」と返事をし、ゆっくりと目を瞑る。
その日の花霞はなかなか眠れずに、椋が少し寝てから起きる頃にようやく寝つけたのだった。
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