溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を

蝶野ともえ

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25話「謝罪と秘密」

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   25話「謝罪と秘密」




 椋はどうしてそんなに怒っているのだろうか?
 花霞はそれだけを考えていた。

 
 椋は花霞を激しく抱いた。
 と、言っても花霞を傷つけたり、苦しめる事はしなかった。
 
 ネクタイで拘束した後に、花霞の体をいつもより時間をかけて愛撫した。それにより恥ずかしさや気持ち良さで、花霞はある意味では苦しかったけれど、彼の指や唇が触れられる度に熱い彼の体温を感じられるのが、嬉しかった。
 けれど、腕にはネクタイ、そしていつもより硬い表情の椋。そして、花霞の気持ちも聞かずに始まった行為のはずなのに、花霞は快感を感じてしまっていた。


 それなのに、彼が与える気持ちよさを感じ、花霞は何度も達してしまいそうになった。
 

 けれど、その度に彼の動きは止まってしまうのだ。早く1番快楽を感じたくて、達せないという焦れったさに、花霞は苦しさを感じていた。


 それが、彼からの「お仕置き」だったのだ。


 気持ちよさと、焦れったさくる焦燥。
 恥ずかしいのに、欲望を求めてしまう羞恥。


 それが、花霞を襲っていた。


 何度も何度とそれを繰り返され、花霞は頭がおかしくなりそうになり、必死に彼を求めた。
 その度に、彼の表情は少しだけ切なさが見られたが、それもすぐに無表情に変わってしまう。
 

 その後、やっとの事で彼を感じ、花霞は椋に強く抱きしめられながら、ただ彼の与える快楽に溺れて、涙を流し、声を枯らして、最後にはそのまま夢の世界へと意識を飛ばしてしまった。

 その時に、耳元で「ごめん………花霞ちゃん。」と、とても切ない声で彼を言葉をもらしたのを、花霞は聞いたような気がしていた。


 







 
 次の日、花霞はけだるさを覚えながら、目を覚ました。

 すると、いつものような優しい表情の彼が申し訳なさそうな表情でこちらを見ていた。
 花霞は、「椋さん……。」と、名前を呼んだけど、声が少し掠れていた。


 「水、飲む?」
 「……うん………。」
 


 椋が準備していてくれたペットボトルを受け取り、1口だけ水を体に流した。もっと飲みたいとも思ったけれど、それよりも先にしなければいけないことがある。そう思って、花霞は手を止めた。


 花霞は椋に甘えていた。
 心のどこかで、彼ならば許してくれる。そんな考えがあったのだろう。
 彼は止めて欲しいことを事前に教えてくれていた。それなのに、花霞は約束を破ってしまった。椋が怒るのは当たり前の事なのだ。

 それなのに、約束をやぶっておきながら、勝手に彼を怖いと思ってしまった。
 裏切っておきながら、体が震えてしまった。
 
 それを、しっかり謝っておきたかったのだ。

 花霞はギュットペットボトルを握りしめた。
そして、彼を見つめて「ごめんなさい」の気持ちを伝えようと思った。


 「椋さん……。」
 「ごめん。痛かった、よね?」
 

 椋はそういうと、花霞の手首を見つめて壊れ物に触れるように手を添えた。
 そこを見て、花霞自身初めて自分の手首が赤くなっている事に気づいた。


 「あ…………。大丈夫です。痛みはないですし。それに、私の方こそごめんなさい。………約束を破ってしまって。」
 「………あの部屋には入ってはダメなんだ。」
 「あ、あの…………窓を閉めるとき、少しだけ見えてしまったんですが、地図や新聞の切り抜きって………何か探し物をしているの?椋さんは、警察の仕事をしているの?」
 「………………それは………ごめん。」



 花霞はその返事から、どちらも違うのだとわかった。彼は嘘が隠すのが上手なはずなのに、この時だけは、違った。
 少しの迷いと、戸惑いがあるようだった。


 「………俺が怖かったら家を出ていってもかまわないよ。それぐらいの事はしてしまったから。………期間限定の結婚なんだから、少し終わりが早まったと思えばいい。」
 

 彼はそう言うと、花霞の手首を泣きそうな目で見つめていた。

 花霞の心にもグザリと何かが刺さって、今にも泣き出してしまいそうだった。


 「………そんなのイヤです。私は、ここから離れたくない。………あれぐらいで椋さんを嫌いになるはずがない。」
 「花霞ちゃん………。」
 「いつも優しい椋さんを知ってる、怒ってても………少し怖かったけど、私が本当は苦しむ事とか悲しい事はしなかったし………。その、あれぐらいで、私は椋さんと離れたいなんて思わないよ。」
 「…………。」
 「椋さんのこと好きだから、知りたいなって思う。椋さんがどんな事を抱えているのか。………何も力になれないかもしれないけど、少しだけでも知りたいって、思う。」
 


 椋があの書斎に籠る理由、そして花霞の入室を極端に拒む理由。
 そして、彼の不眠症の訳。
 それらは全て繋がっているように、花霞は思えたのだ。

 彼が何か秘密をもっている。
 そうだとしても、彼を嫌いになる理由になるはずなどなかった。

 それなのに、椋から離れる事の提案があった事が、花霞にとって1番辛い話しだった。




 「………この前、一緒に図鑑を見た時の花。花霞ちゃん、覚えてる?」
 「アネモネの花の事?」



 花霞が誕生日に椋に買ってもらった図鑑の本。一緒に見た時に、彼はアネモネの花を気に入ったようだった。
 彼はずっと、その花が気になっていたのだろうか。


 「………うん。その時に話しただろ?毒入りの花に似てるって。それは、俺は危険な男って事だよ。」


 椋は、悲しげに微笑みながらそう言うと、花霞の手から彼の手が離れていった。



 椋は、この時、自分の事について、もうそれ以上話すことはなかった。










   ★★★




 倒れるように寝てしまった、花霞を椋は呼吸を整えながら見つめていた。
 彼女の目から頬にかけては、涙の跡がついていた。



 自分の書斎に花霞が入ったのがわかった瞬間。
 椋は恐ろしさから気が動転してしまった。
 
 彼女はどうしてこの部屋に入った?
 彼女は何を見て、何を知った?
 それが、恐くてしかたがなかったのだ。

 それから思ったのは、彼女をもう2度とここに入れてはダメだ、という事だった。


 だからこそ、彼女に「お仕置き」として、あんなにも酷い事をしてしまったのだ。 
 彼女は自分の表情と態度、そして行動に怯えていた。そして、謝りながらも椋のした事に必死に耐えていた。

 終わった時の疲れきった顔と、泣き腫らした瞳。


 そして、自分が拘束した手首は赤くなっていた。



 「もうしたくない。…………だからと言って、まだ君を手離したくない。」



 椋はぐっすりと眠っている、彼女の頬についた涙の粒を指で優しくすくった。そして、彼女の汗で額にはりついた前髪を、整えてる。
 そして、花霞にゆっくりと近づき、彼女を起こさないように、頬に触れる程度のキスを落とした。

 それは、謝罪のためだったなのか、は「おやすみ」のキスだったのか。椋にはわからなかった。


 「お願いだ。俺を知ろうとしないでくれ。」



 椋はそう独り呟くと、ゆっくりと寝室を後にした。





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