囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。

蝶野ともえ

文字の大きさ
5 / 41

4話「王子、ため息をつく」

しおりを挟む




   4話「王子、ため息をつく」



 どうして妖精に転移したはずの体が、人間になっているのか。そんな疑問もあった。だが、今の事態を何とかするのが優先だった。

 朱栞はすぐに体を横にして、胸に手を当てて裸を隠そうとした。突然、ラファエルの前で裸になってしまったのだ。恥ずかしさしか感じない。全身が真っ赤になり、羞恥心から瞳に涙も浮かんできた。


 「……大丈夫、見ないようにしているよ。さぁ、これでいいはずだ」
 「あ………魔法……」


 ラファエルは申し訳なさそうにそう言うと、朱栞に手をかざした後、指で宙に何かを描いた。すると、朱栞の体が急に布で覆われ始め、そして、あっという間に赤色のドレスに変わったのだ。腰から上には、ビーズのような物だろうか、輝く石が縫われており、胸元は大胆に空いている。ウエストはリボンが編み込まれて、キュッと細くなるデザインだった。スカートの部分は細身でストンとストレートに落ちるもので、全体的に大人っぽいドレスだった。


 「シュリには、赤も似合うね」
 「……魔法が使えるなら、早くにして欲しかったです」


 裸になってから、すぐに彼が魔法でドレスを着せてくれたのなら、恥ずかしい姿を晒す時間は少しは短くなったのではないか。そう思ってしまい、つい文句が口から漏れてしまう。王子に何を言っているのだろうか。そんな風に思いながらも、精一杯の主張をしたつもりだった。
 涙目で彼を睨み付けると、ラファエルは苦い表情を見せながらも、笑っていた。


 「ごめんね。君に人間に変化するのをわかってほしかったんだ」
 「………言って貰えればわかります」
 「うーん。これは嫌われてしまったかな。大変だ。では、これを渡そう」
 「あ……これは」


 ラファエルはそう言って、ワゴンの下に置いてあったカゴの中からあるものを取り出して朱栞に手渡した。


 「それは、私の本」

 
 彼が手にしていたのは、元の世界で朱栞が読んでいた本だった。伯爵夫妻から教えてもらったスペインの伝書を元に書かれた本「人間と妖精の物語」。真新しい、シンプルな表紙の本。そして、本の間からは朱栞が愛用していた栞も挟んだままだった。朱栞は、赤い鳥の羽を昔から栞として大切に愛用していたのだ。


 「草原で君に会う前に拾っていてね。ここでは使わらない言葉の本だから、きっとシュリのものだろうと思ったんだ」
 「どうして、元の世界のものが」
 「この世界に転移する時、元の世界で身に着けていた服や持っていた物も一緒に転移されるんだ。だから、君は転移した時も元の世界の洋服だったし、持っていただろう本もここに着いたんだろうな」
 「そう、なんですね………」


 手元に残った元の世界で唯一のもの。
 来ていた服は、さきほど妖精から大きさが変わった時にボロボロになってしまっていた。そのため、元の世界との繋がりはこの本だけになってしまった。


 「………今日は疲れただろう。話は明日にしよう」
 「え……」
 「心配しなくても大丈夫だ。明日もここに来る。後でお風呂の準備もするから入って今日は休んでくれ」
 「待ってください……!!」


 部屋から出ていこうとする彼の手を、朱栞は咄嗟に掴んでしまう。彼の腕はとても逞しく、ガッシリとしていた。王子様なのに、彼は鍛えているのだろうか。そんな些細なことを考えつつも、朱栞は必死にラファエルの驚いた瞳を見つめた。


 「1つだけ、今、教えてくれませんか?………どうしても気になるのです」
 「………わかった。聞こうか」
 「ありがとうございます」


 朱栞は彼の手を離し、深くお礼を述べた。
 ラファエルは朱栞と向き合い、「質問は何かな?」と聞いてくる。
 
 朱栞の聞きたいことは山ほどあった。
 けれど、1番聞きたいこと。



 「………私より先に転生した男性は、まだこの世界にいますか?」


 彼はこのシャレブレ国にいるのだろうか。
 朱栞のように転移された人を保護するのならば、彼もどこかで守られて生きているのだろうか。そう思ったのだ。
 異世界に来て、もし誰にも見つけられないで生きていくとになったら。あの草原でラファエルに助けられずに1人でさ迷っていたと考えると、怖くてしかたがない。
 彼がそうなってはいたいだろうか、と心配になったのだ。もう何年も前の事なのだから、心配しても仕方がないのだが。

 「……シュリの知り合いがこの国に来たのか?」
 「おそらく、ですが」
 「……自分の事ではなく、他の人の事が知りたいだなんて……」
 「ご、ごめんなさい」
 「……いや、いいんだ。シャレブレ国に転移してきた人達で過去10年で元の世界に戻した人間、死亡した人間はいないよ。安心していい」
 「あ、ありがとうございます!」



 心の中の大きな不安が1つ消えた。
 それを感じられて、軽くなるのがわかった。朱栞は思わず笑顔を隠しきれなくなる。
 彼は、穂純ほじゅんは無事なのだ。そして、この世界に居れば彼に会える。
 それは、朱栞にとって、大きな希望なった。









   ★★★



 彼女の部屋から出て、待機していたシュリ専用の使用人にした女を呼んだ。


 「もう少し時間が経ったら彼女を風呂に連れていってくれ」
 「かしこまりました………。あのラファエル様、1つよろしいでしょうか?」
 「あぁ」


 その女は茶色のワンピースをギュッと握りしめシワを作りながら、王子であるラファエルに言葉をかけた。
 

 「どうして、あのような方に目をかけてあげるのですか?本来ならば、そこまでするような身分ではないかと……」


 主であり、王子でもあるラファエルに意見をしているのだ。そのメイドはおどおどした表情になっていた。それもそのはずだ。王族の人間の機嫌を損ねるような事を言えば、自分の立場が危うくなってしまう事もあるからだ。
 でも、それほどの危険を知っていても彼女は伝えたかったのだろう。
 シュリがこの国では、怪訝される存在であることを。そして、そんな彼女が一国の王子であるラファエルが保護したとなれば問題視されるはずだと忠告したかったのだろう。
 彼女は自分を心配しているのだとはわかったが、それは必要のないことだ。


 「彼女は私の大切な人だ。おまえがそのような気持ちで彼女と接するならば、他の者に変える」
 「………申し訳ございません。余計な事を申しました。引き続き、この仕事を全うさせていただきます」


 いつもより強い口調で命令すると、彼女は顔色を変えた。真っ青とも言える怯えた表情で視線を下に向けた。
 けれど、それでも彼女の気持ちがすぐに変わるわけもない。念には念を入れておかなければいけない。


 「……次にそのような気持ちだという事があれば、この城から出て行ってもらう。心して面倒を見てくれ」
 「かしこまりました、ラファエル様」



 彼女は深く頭を下げたまま、ラファエルが去るまで顔を上げなかった。
 これで少しの間は、文句を言わずに仕事をしてくれるはずだ。が、問題は山積みだなと、大きくため息をついた。



 「記憶が残っていなかった方がよかったのか……そう思ってしまう俺は、優しくない男だな」


 ラファエルのその消えそうなほど小さな言葉は、周りを飛ぶ金色の妖精にだけ届いていた。けれど、彼女にはその言葉は理解できなかったのだった。


 


 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...