囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。

蝶野ともえ

文字の大きさ
6 / 41

5話「妖精、片想いをする」

しおりを挟む
 


 
   5話「妖精、片想いをする」




   ☆☆☆



 この世界の夜も、元の世界と同じように空には星たちが輝いており、月明かりが地上を照らしていた。違うのは、栄えている街であっても星が沢山見えることだけかもしれない。
ラファエルの城は高台に建っていた、そのため城下町や人々が住んでいる住宅が一望できた。そこから暮らしを感じる優しい光が灯っているのはわかるが、朱栞が毎晩歩いていた街のように眩しすぎるほどのネオンはない。自然の力で、魔法で灯った明かりは温かく感じられる。そう思いながら、ラファエルがつけてくれたランプの火を消した。
 ベット横にあるランプだけはつけたまま、朱栞はベットに横になった。


 少し前に、先程料理を運んできてくれたメイドの女性が、朱栞をお風呂場に案内してくれた。
 体や髪を洗う手伝いをさせていただきます、と申し出てくれたが、朱栞は「恥ずかしい」という理由で丁重にお断りした。初めて会った時は、とても冷たい視線を感じた彼女だが、この時はとてもにこやかで優しかった。先ほど「怖い」と感じたのは気のせいだったのだろうか、と朱栞は不思議に思った。

 城内の風呂場は、とても広い空間に作られていた。大理石のような白い石が敷き詰められてる浴室内。お湯は溜めてあるだけだったが、そのお湯は冷める事はなかった。きっと魔法で管理されているのだろう。この国の仕組みはわからないことだからけだな、と朱栞は改めて思った。
 お風呂場でゆったりと体を温めることが出来たので、朱栞はベットでリラックスすることが出来ていた。
 朱栞は、ベットの中でラファエルから渡された本を見つめた。


 「本当にシャレブレ国に来ちゃったんだ」


 元の世界のものはこの本だけだ。

 勝手に仕事を休んでしまったし、異世界に転移したとわかったら騒がれるだろうな、と思った。元の世界の家族や友人、職場の仲間。その人たちを思い浮かべると、思わず涙が浮かぶ。
 もう会えないのだろう。ラファエルは10年ほど戻った人はいないと教えてくれたのだ。気軽に帰れるものではないようだ。
 けれど、このシャレブレ国に転移した理由は何だろうか。
 そう考えた時に、朱栞は穂純への気持ちが選ばれた理由ではないか。そんな風に思った。



 朱栞は高校の時から穂純に片思いをしていた。
 サッカー部に入っていた彼の姿を見た瞬間に一目惚れをしてしまい、マネージャーになった。本当ならば語学の勉強に集中したかった朱栞だったが、彼と知り合いになりたい、話をしてみたい、そんな気持ちだけは押し殺せなかった。
 けれど結果的にはマネージャーになった事で勉強も頑張れたと朱栞は思っている。
 部活の先輩として彼と知り合ってから知ったことだが、彼は両親が有名企業の社長の一人息子だった。成績も優秀で学校内での成績は毎回1位であり、全国でも20位以内には入るという天才だった。そして、サッカーでは1年生の時から選手として活躍するほどで、容姿も整っている。そうなれば、女の子達が夢中になるのも無理はない話だった。穂純が部活の練習をしていると、彼を一目見ようと練習を見学をする女子高生が多数見られた。
 そんな中、朱栞はよく穂純から話を掛けられる事が多くなっていたのだ。その理由が、朱栞の語学が堪能だったからだ。英語は日常会話以上に社会で通用する程度には話す事が出来ていた。穂純と勉強の話をした時に、他にもスペイン語を勉強中と話すと、「英語、苦手なんだ。教えてくれないか」と、先輩がよく声を掛けてくれてくれるようになったのだ。
 成績優秀な先輩に教える事はないと断っていたが、それでも「文法は出来ても発音がな。あ、部活中は英語で話そう」と言い始めたのだ。
 それから、穂純と朱栞が部活で会話をする時は、英語を使うという妙なルールが出来上がっていたのだ。

 そのため、朱栞と先輩との距離はすぐに狭くなっていたように感じていた。
 英語以外の教科を教えて貰ったり、試合で負けてしまってマネージャーである朱栞が泣いてしまった時も慰めてくれたりもした。
 特別な扱いを受けていると思ってしまった浅はかな朱栞は、穂純が自分を好きでいてくれるんじゃないか。そんな自分勝手な気持ちを抱いてしまったのだ。

 そして、告白をして、フラれた。

 その時は、痩せてしまうほどにショックを受けた。
 毎日泣いて過ごしていた。彼が卒業する時に告白をしたので、穂純と会う事がなかったのはよかったのかもしれない。けれど、それでも諦められなかった。
 それからしばらく会う事はなかったけれど、穂純の事が好きで仕方がなかった。
 会えなくても、穂純が心の中から離れることはなかった。


 だからこそ、その思いが願ってこのシャレブレに呼ばれたのではないか。そう思えてしまうのだ。
 
 「穂純さんに会うまで泣かない……よしっ、決めた」

 朱栞は一人ベットの中でそう決意する。

 寂しさもあるし、不安もある。
 けれど、希望も大きい。
 ラファエル王子は優しい。きっといろいろ教えてくれるだろう。それから、ここでの暮らしを考えていけばいい。
 そして、自由になれたならば、穂純を探す度に出よう。
 朱栞はそう心に決めたのだった。





 次の日の朝。
 起きると妖精の姿に戻っており、大きなベットに埋もれそうになってしまった。用意してもらった夜着は薄手のドレスのように長めの丈で、生地もデザインも可愛らしかった。その洋服は破れる事なく、朱栞と共に小さくなったのだ。


 「これも魔法なのかな……」


 そう一人呟きながら、朱栞はバタバタと体を動かしてようやくベットから起き上がった。やはり、この妖精の体は何とも使いにくい。

 雨の日の公園のように歩きにくいベットの上を長いこと歩き、ようやく端まで来たが、やはりベットから床は相当な高さだ。ここからジャンプして失敗したら怪我をするだろう。そう思いつつも、自分の後ろをちらりと見つめる。そこには、綺麗な白い羽がついている。妖精ならば、この羽を使って飛べるはずだ。

 朱栞は自分の意思のまま動かせるのだろうか、と疑問に思い、挑戦する事にした。背中に意識を集中させると、今まで感じたことのないざわつきがあるのに気づいた。そこに何でもいいので動けるようにと力を込めた。すると、ゆっくりと羽がゆらゆらと揺れたのだ。


 「う、動いた!」


 初めて立った時の感覚はこんな感じだったのだろうか。
 これからどんな世界が待っているのか、そして、これを自分でうまく扱えるのか。
 期待と不安が混じり合った奇妙な感覚だ。けれど、それは不快ではない。新しい事を知ることは人間誰しも好きなのだから。


 「驚いた……。自分で扱えるようになったなんて」
 「ら、ラファエル王子っ!」
 「ごめん。ノックをしても返事がなかったから心配になってしまって」


 そう言って、ラファエルは朱栞の部屋に入ってくる。驚きながらもとても嬉しそうに笑っている。そして、朱栞に近づくと昨日と同じように、目の前に手を差し出す。朱栞は、少し考えた後にその手に乗ると、朱栞を自分の顔の前に持っていったラファエルは「おはよう、シュリ」と、片方の手の人差し指で朱栞の頭を撫でてくれた。巨人の指に撫でられるなど不思議な体験だ。けれど、不思議と怖いとは思わなかった。


 「この世界の妖精は生まれてから1か月はうまく飛べないと言われているんだ。1日で羽を自分で動かせるなんて、すごいよ」
 「……妖精なら飛べるのかなって思って」
 「飛べるようになるよ。きっと、妖精よりも早く飛べるようになるだろうね。やはり、ハーフフェアリは他とは違う力を持っているのかもしれない」


 真剣な眼差しで朱栞を、そしてその後ろの羽を見つめるラファエル。
 そんな彼の口から出た言葉は朱栞にとっては聞きなれないものだった。


 「ハーフフェアリ、ですか?」
 「あぁ。名前の通り、半分は妖精。そして、もう半分は人間。君は人間と妖精の間に生まれた子どもなんだ」
 「人間と妖精のハーフ...」
 「そう。そして、シャレブレ国ではハーフシルフは前例のない事なんだ。君は、唯一の存在だ」


 その話は、異世界を知るための長い話の、ほんの少しでしかない。
 けれど、1番重要な事だっとのだと、その時の朱栞は知る余地もなかった。



 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...