26 / 41
25話「妖精、恋を知る」
しおりを挟む25話「妖精、恋を知る」
朱栞は寝られなかった。
ラファエルの腕の中で、朱栞はジッと彼を見つめていた。
綺麗な顔、異世界人の男性とこうやって一緒のベットで眠るなど、元の世界では考えた事などなかった。異世界は現実になるとは知っていたが、まさか自分が選ばれるとは思っていなかった。けれど、こうやってシャレブレに来てラファエルに会ってから、自分自身の世界は変わった。
そして、ラファエルに言われて気づいた。
自分は、この世界で生きるために自分の役割やラファエルの事を考えている、と。
あんなに好きで、長い間片思いしていた穂純の事を、考える暇がなかったのだ。彼のために、ラファエルの契約妖精となり、婚約もした。それなのに、今となってはラファエルの婚約を受け入れ、シャレブレで生きようと役に立つ方法を考えている。
目の前のラファエルに相談し、少しずつ本を出す道筋も立ってきた。
きっと、ラファエルなら笑顔になってくれる。助けてくれる。教えてくれる。
抱きしめて、「シュリ」と名前を呼んでくれる。
生活の中が彼中心になっていたのだ。
それは何故だろう?
そんな事は考えるまでもない。
朱栞にとって、彼は大切な存在になってきているのだ。
優しくて、いつも朱栞を大事にしてくれる。命の恩人でもあり、朱栞に初めて「好き」と言ってくれた人だ。
それが嬉しかったのかもしれない。自分を好きになってくれる人がいる、特別になれている。そんな気持ちで舞い上がっているだけかもしれない。
けれど、自分の中で大きくなる感情があるのに、もう見て見ぬフリなど出来るはずがなかった。
「私、あなたが好きなの?」
その小さな声は、寝ている彼に伝わる事がない。
言葉にした途端に朱栞は感情が高まってきたのか、涙が流れた。
ラファエルに見られる事はないのに、咄嗟にうつむきラファエルの胸に顔をうずめる。
こんなに簡単に穂純を忘れ、違う男性を好きになる事なんてあるのだろうか。
1人の男性しか好きになってこなかった朱栞はわからない。
穂純だけが好きで、愛おしくて、大切だと思っていた。
それなのに、どうして、こんなにも今が幸せだと泣くほどに感じてしまうのだろうか。
「ん、シュリ?どうかした?」
「あ、ごめんなさい。起こしてしまって」
「いいんだよ。それより、眠れない?もしかして、泣いてた?」
ラファエルが起きてしまって、隠れて目元の涙を拭ったが、彼には隠し切れなかったようだ。
ラファエルは朱栞の顔に指を置いて、隠し切れなかった涙に触れた。
「ごめんね。ずっと待っててくれたのに、不甲斐ない結果しか伝えられなかった。次こそは見つけるよ」
「あの、それは違くて……」
「ん?違う?」
「あ、えっと……」
穂純の事が大切だと伝えた時に、きっと彼は気づいてただろう。
朱栞が片思いをしている相手だと。そうでなければ、朱栞は必死になっていなかっただろうし、彼も契約での婚約など結ばなかったはずだ。
それなのに、こんなすぐにラファエルを好きになってしまった。そうと知れたら、なんて移り気も激しい女だろうと思われてしまうだろう。
どう返事をしていいか迷ってしまうと、ラファエルは朱栞の頭の後ろを優しく押して、自分の体に朱栞を閉じ込める。とくんとくんっと彼の鼓動がよく聞こえてくる。最近はこの音を聞いて寝ているので、彼の鼓動を耳にするだけで、安心し眠くなってしまうのだ。
「ラ、ラファエル?」
「…怖い夢、見たの?」
「う、うん……」
「じゃあ、こうやってくっついて寝よう。あと手を繋げばきっといい夢を見れるよ。俺の夢はとても幸せだったよ。君と2人でラファエルの国を飛んで周る、旅をしていたんだよ」
「それは、とっても楽しそう」
「だろう。だから、一緒にその夢を見よう?おやすみ、シュリ」
「うん。おやすみ……」
この人にはきっと秘密がある。
けれど、こんなにも穏やかで自分の好きを朱栞に惜しみなく伝えてくれる。そんな優しい男の人。好きにならないわけがないのではないか。そんな風にさえ思ってしまう。
ゆっくりと瞼を閉じれば、すぐに夢へと誘われる。
どんな夢を見るのか、それがわかっていると不思議と体の力が抜けていくのがわかる。
ラファエルと一緒に温かな風を受けて、草原を飛び回りたい。鳥を追いかけて、競争などするのだろうか。妙に懐かしさを感じながら、朱栞は夢での旅に思いをはせたのだった。
★★★
シュリがいた世界での王子様といえば、優しくてかっこいい、そして強い。
そんな夢のような理想を物語の中で描いていたのだろう。
けれど、実際の王子は違う。
いや、本当にそんな王子もいるのかもしれないが、シャレブレ国では理想の王子と程遠い。
だからシュリにはバレたくなかった。
「いくぞ」
「はい」
この日は街はずれになる廃墟同然の建物周辺に待機していた。
闇夜に紛れるように、ラファエルとリトは真っ黒な服に身を包んでいた。ふわふわとラファエルの傍で浮いている小さな妖精アレイも、黒いマントをつけていた。
ここはある組織の移転した隠れ家である可能性が高いと警備隊から報告があった場所だった。昨晩、先に調査をしたリトが「今日は隠れ家にいる可能性が高いと判断しました」とラファエルに報告したため、ラファエル本人も動く事になった。
今日は違う場所で取引が行われるようで、人員も少なくなっているらしい。そしてラファエルが最も重要視していた人物がこの場所に残るだろうと思われたのだ。案の定、先程大人数がこの隠れ家から出てきたが、対象人物の姿はなかった。リトの調べはやはり正確だ。
必ず、見つけ出す。
必ず、だ。
それが、彼女を悲しませることになったとしても。
ラファエルはギュッと手に力を入れて握りしめる。
ラファエルの言葉の後、3人は急いで、かつ静かに隠れ家に忍び込んだ。
見張りには3人ほど体格の良い男が居たが、リトがあっという間に倒してしまう。彼は気配を消すのが上手く、気づいたころには自分の懐に飛び込まれており、あっという間に短剣で切りつけられる。もちろん、命まではとらない。話しを聞きたい事もあるので生かして連行するのだ。
隠れ家の中は、荒れていた。
家具などはほとんどなく、古く傷ついて中の綿が見えているソファには、汚れた布団が乱雑におかれ、床には酒の瓶が散らかっていた。そして、置くには小ぶりな檻が重ねておかれている。そこには何も入っていない。ラファエルはそれ冷たい視線で見つめ、小さく舌打ちをした。
「いないか、逃げられたのか」
「いえ、まだ奥に部屋があります」
「向かうぞ」
言葉が終わる前にラファエルは音もなく掛けだした。
そして勢いよくドアを開ける。古びた扉のせいか、ギギギッっと大きな音が鳴り響いた。
その部屋は真っ暗だった。
先程の部屋は所々にランプが置かれていたが、ここはそれらもない。
リトが魔法で手の上に炎を作り上げる。ぼんやりとした、灯りがともり当たりを照らす。そこは思った以上に狭い部屋で古くなったベットが置かれており、そこに1人の男性が布にくるまって寝ていた。見た限りラファエルよりも年下だろうが、寝顔が幼く見えるだけで、もしかしたら同じぐらいかもしれない。
「なんだよ。取引失敗でもしたのかよ。戻ってくるの早い」
「寝ている所悪いな」
「なっ」
その男はラファエルの声を聞いた瞬間に飛び起きベットに立てかけていたサーベルに手を取ろうとした。が、それを許すほどラファエルやリトは愚かではない。リトは、すぐにその男に鼻先に剣先を向けた。少しでも動けば肌に傷がつくだろう。
「お、おまえらは誰だよ。最近取引を邪魔してるやつらか」
「君はシャレブレ国の民だろう。まさか、俺を知らないとでもいうのか?」
「は、何言って、お、おまえは……」
「異世界から来たのは昔の事だ、このシャレブレ国の王子の顔ぐらい覚えておいた方がいいぞ」
「…………」
ラファエルは、ゆっくりと男に近づく。
この状況ならば、普通は怯えたり助けを求めたり、言い訳をするものだ。
だが、この男は違った。冷静に、突破策の頭の中で練っているのだろう。そして、この状況に怒りを覚え王子であるラファエルを睨みつけていた。
やはりこの男はやっかいだ。
「榊穂純だな。やっと見つけた。君を探していたんだ」
ラファエルは口元では笑みを見せていたが、とても冷たく低い声言葉が名前を告げた。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる