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26話「王子、作戦失敗」
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「榊穂純?誰だよ、それ。人違いなら帰ってくれ」
「おまえは異世界人なんだろう?」
「……あぁ、それが前の世界での俺の名前か。覚えてないんだ。悪かったな」
「謝って欲しいのはそこじゃない。おまえらはここで何をしてる?」
「おまえじゃなくて、俺の名はセクーナって言うんだよ、王子様」
「セクーナ、質問に答えろ。これは王子からの命令だ」
痺れを切らして声を上げたのはリトだった。先ほどからセクーナの態度が気に食わずイライラしていたのだろう。彼の眉間には濃い皺が出来ていた。いつもならば、ラファエルも彼に落ち着くように言うが、今はリトと同じ気持ちだったので止めずに見守る。
そんなリトの剣幕にもセクーナは全く動じていないようで、ニヤニヤとしてベットの上で片膝を立てて座っていた。
「何もかにも俺はここで寝ていただけですよ。一緒に住んでいる奴らは飲みにでも行ったんじゃないですかね?」
「では、向こうの部屋にある檻はなんだ。数が多いが、何を捕まえている」
「動物ですよ。ウサギや鳥などを捕まえてペットとして売るんですよ。違法じゃないですよね?」
「しらばっくれるなっ!あの檻には微かに魔力が残ってるんだよ」
大声でそう怒声を浴びせたリトは、勢いあまってセクーナに斬りかかりそうになった。それを、ラファエルは手を差し出して止める。
そして、ゆっくりと彼に近づく、剣先を向けられているというのに彼は余裕の笑みを浮かべている。何か逃げる秘策があるのだろう。ラファエルは警戒を怠らずに、手に魔法をため込んでおく。
「俺達もバカではないのでね。ここに潜入するまで、いろいろ調べさせてもらったよ。セクーナ。君がやっている事は、妖精の密売。そうだね」
「なんだバレてんのか」
セクーナはチッと舌打ちをして悔しそうな口調だったが、口元はニンマリとしている。この男は何を考えているのか。全く思考が読めないな、とラファエルは思った。
穂純がシャレブレ国で行っている事。
それは、妖精と捕まえて売り飛ばすという妖精の密売だ。妖精は生き物に分類されているが、人間に魔法を与える者として貴重な存在になっている。そのため人間同様に、妖精の売り買いは禁止されている。妖精が望んでの契約妖精は認められている。が、一定以上の魔力を持っている妖精はなかなか人間と契約を結ぼうとはしない。そして、見た目などで好みの妖精が契約してくれるわけでもない。
そうなると、人間はどうするのか。
好みの妖精と契約を結ぶために金を積んだり、暴力で従順させたり、ペットやコレクションのように檻に閉じ込めて軟禁する事もある。
それがシャレブレ国で起こっている闇の部分だった。
「意外と認めるのが早い。いさぎいいのは嫌いではない。では、ついてきて貰おうか。あぁ、もちろん、その剣は持ってはいけないからな」
「わかってるよ」
「リト。連行しろ」
「はッ」
リトが腰からロープを取り出し、彼に突き付けていた剣を一度下げた。
変わりにラファエルが手のひらを向けて、魔法をすぐに打てるようにしようとした時だった。
それより早くに動いた存在が突然セクーナの目の前に現れたのだ。
「おそーいっ!」
「やれ、ランっ!」
「言われなくてもっ!」
甲高い声の主は黄色の髪をツインテールにした妖精だった。タイトなスカートにも関わらずに大きく足を開き両手を挙げて魔法を溜めている。バチバチっと静電気のような音が部屋中に発生する。
「妖精っ?!気配などなかったのに」
「王子、逃げてくださいっ!」
「くっそっ」
そのランと呼ばれた妖精はラファエルに向けて手を振り落とした。その瞬間、部屋の中に雷が落ちた。まぶしいほどの真っ黄色の光りが溢れた。リトとアレイは咄嗟に目を瞑った。が、その時に「んっつ!」と、くぐもった声が聞こえた。それは誰か、すぐにわかる。
「ラ、ラファエル様っ!」
部屋の明かりは消え、真っ暗になる。リトはすぐに魔法で明かりをつける。と、中央に倒れているラファエルを見つけ掛けようとした。
が、それを止める怒声が響く。
「俺はいい。あいつを追えっ!」
「ですが」
「急所は外れている。早くいけっ!!」
「はッ」
妖精の魔法により、部屋の窓は割れ破壊されている。そこから飛び出て、すでに姿を消したセクーナをリトが追いかけた。
ラファエルはリトの背中を見届けた後、苦痛の声を上げた。
「アレイ、手当できるか?」
「左肩が火傷を負ってる。うまく急所を避けたわね。まぁ、結構酷いけど」
「いいから、早く手当してくれ。結構痛いんだ」
「はーい。それにしても顔じゃなくて良かったわね。せっかくのイケメンに傷が出来たら、私も許さないんだから」
アレイはそんな冗談なのか本気なのかわからない軽口を呟きながら、魔法で傷口に向けて治療をしてくれる。だが、これは簡易的なものだ。完全に傷口を治癒させるものではない。その間、先程の男、セクーナの事を考える。
彼は妖精と契約しているようだった。けれど、彼と話した時に妖精の魔力を全く感じなかった。となると、その妖精の特徴が「魔力を感じさせない」というものなのかもしれない。もしそうだとすると厄介だ。
「そうなると、追跡も出来ない」
そうつぶやいたラファエルの言葉通り、リトは1人で戻ってきた。「申し訳ございません。取り逃がしました」と、深く頭を下げて謝罪した。それを、ラファエルは「気にするな。あれは仕方がないだろう」と慰めるが、彼は納得出来ていないようだった。
「ラファエル様、急いで城へ戻りましょう。怪我の治療が必要です。すぐに医者を呼びます」
「これぐらい大丈夫だ。それより、この部屋を調べなければ」
「それが私たちが後に行います。控えている部隊もいるのですから。それに取引に行った密売組織もそろそろ城に戻ってくるかと思いますし」
「だから大丈夫だと言っている」
「ダメです。私はこの件に関しては譲りません。ラファエル様の事を倒してでも城へお戻しします」
「負傷した相手を倒すなんて、お前は怖いな」
「ラファエル様が無理をなさろうとするからです」
リトはいつもと変わらない、怒っている表情だったが、先程からちらちらと傷がある左肩を見ている。心配してくれているからこその言動だとラファエルもわかっている。
「わかった。城に戻る。だが、この部屋に他に捕らえられた妖精がいないか確認してからだ」
「魔力の気配はありませんが、弱っている可能性がありますからね。わかりました」
その後、ラファエルとリトは部屋の中を隅々まで探したが、妖精は出てこなかった。
そして、妖精の密売取引の現場はうまく抑えらたようだが、組織の人間を半分取り逃がしたそうだ。妖精は無事だったが、成功したとは言えない結果だった。
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