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28話「妖精、魔法に導かれる」
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ラファエルは大きなベットで横になっている。安らかな寝息を聞いて、朱栞は少しだけ安心しながら、彼を見つめる。
町の医者に来て貰うと、「大きな怪我ではないが、雷が当たった場所の火傷が酷い。魔法で応急処置をしたので、治りは早いだろう」との事で、すぐに動けるようになる、という診察結果だった。
それを聞いて、ホッとしたものの朱栞の気持ちが晴れるわけもない。朱栞はラファエルの手を握りしめて「ゆっくり休んでね」と伝えて、ゆっくりと部屋を出た。
廊下には心配そうにラファエルの部屋を見つめる護衛部隊の男が数名立っていた。そこから出てきた朱栞を見る目は冷たい。朱栞は「護衛、ご苦労様です。よろしくお願いします」と精一杯の笑顔で挨拶をしたが、男たちはぎこちなく敬礼をするだけだった。
ラファエルは怪我を負った。
一緒にベットで寝る事はできない。そんな理由をつけて、朱栞は自分の部屋で休む事にした。メイナはすぐにベットメイクを済ませてくれ「ラファエル様、心配ですね。明日の朝にお見舞いに向かいましょう」と、言ってくれたが朱栞は曖昧に返事を返した。
「あなたの愚かな約束を守って、ラファエル様は怪我を負ったのです」
そのリトの言葉が頭から離れない。
自分のせいで、自分が彼と交わした約束を守ってラファエルは怪我をした。敵の雷撃を咄嗟に避けたらしいが、避けきれずに肩に傷を負ったのだという。
もし、朱栞があんな約束をしなければ、彼は傷を負わなかったかもしれない。それに、もし彼が攻撃を避けなければ、どうなっていたのだろうか。考えるだけでも恐ろしい。
ハーフフェアリとして、ラファエルと契約を結んだ時は彼の性格がわからなかったし、どうして朱栞を必要としているのかも不明だった。自分の魔力が巨大だと知った時、それが間違った所で使われるのが怖かった。魔法を知らないからこそ、未知の力が怖かったのだ。
けれど、彼は悪い人ではないと知っていた。何かを必死に追っていて、それが朱栞の探していた人だとわかった時、彼に委ねればよかった。
今となってはそう思う。
けれど、そこまで考えが及ばなかった。完全に自分のせいで、彼をこんな目にあわせてしまったのだ。
ため息も出ない。
自分が情けなくなる。
そこで、ハッとする。彼が怪我を負ったのは何故か。ラファエルは穂純を必ず見つけると言ってくれた。そして、その後にこの事件だ。
もしかして。
そんな思いが頭をよぎった。
そんな風に考えてしまうと、もう止まらない。早く彼に会って話を聞きたい。けれど、彼は怪我をして今はゆっくり体を休めているのだ。無理に起こすことは出来ない。
そうなれば、彼の隣にいつも一緒にいるリトやアレイならば。夜中だとわかっていても、居てもたってもいられない。朱栞は怒られたり呆れられるのを承知で、部屋をこっそりと出た。
見回りの時間なのか、朱栞の部屋の前には守衛の者は誰もいなかった。こんな時間に出歩いてしまったら不審に思われる可能性があったので都合がよかった。朱栞は靴音が響くのを恐れて、裸足で廊下を歩いていた。
と、妙な事に気付いた。
静かすぎるのだ。城の中は夜であっても守衛の足音や小さな声、メイドたちの仕事をする際の音が細やかだが聞こえていた。ラファエルと共に寝る前は、その音を聞くことで「一人ではない」と安心できる事も多かった。
それなのに、今は物音ひとつしない。それが、不思議であり不気味だった。
朱栞は恐怖から足がすくんだが、今を逃してしまえば朝になる。リトやアレイ達は忙しいので、会えるかもわからないのだ。意を決して、竦む足を何とか動かして、薄暗い廊下を進んだ。
『ハーフフェアリよ』
小さく、でもはっきりと声が聞こえたのだ。
低い男性の声だ。だが、その声はラファエルでもリトでもない。聞いたことのない男性の声だった。そして、朱栞を呼んでいるのだ。
堂々とした威厳のある声に、朱栞は体を震わせた。けれど、何故か自然と足は声の方へと向いてしまう。これも何かの魔法なのだろうか。そう思いつつ、間隔をあけて何度も『ハーフフェアリ』と声をする方へ足を進めていく。
悪い者に呼ばれているのか。それとも、そうでないのか。
後者であることを願いながら、朱栞は真っ暗な廊下を歩き、そして階段をどんどん下っていく。
そして、到着したのは朱栞が開けたことがないドアの前だった。けれど、その扉の存在は知っていた。メイナと話をしていた、あの地下室へと続く扉だった。普段は、守衛がいるようだが、ここにも誰も立っていない。こうも偶然が続くわけもないので、これも仕組まれているのだろう。
朱栞がドアの取っ手に手を掛けると、鍵がかかっている事も魔法で侵入を拒まれる事もなく、自分の部屋のようにすんなりと入れてしまう。ドアの先には、石段の階段があり、壁には魔法のランプが灯っていた。それは朱栞を招いているように思わせた。
「私が入っていい場所なのかしら。警備隊の人がいたりしたら、また怒られそう」
『かわまぬ。入れ』
「!?」
独り言に返事が返ってくるとは思わず、朱栞は飛び跳ねんばかりに驚いてしまう。誰にも見られていないはずなのに、声の主は朱栞の行動がしっかりと見えているようだった。かなりの魔法の使い手だとわかる。そう思うとこれ以上進むのが怖くなってしまうが、ここまで来て引き返す事も出来ない。しかも、相手には自分の行動が筒抜けなのだ。朱栞は覚悟を決めて、階段を下り始めた。ぺたぺたと裸足で歩く。地下室は冷たく、足裏はすっかり冷え切ってしまう。けれど、緊張からか体の中心は熱い。不思議な感覚だった。
長い階段を下りると、広い空間があった。
そこには長いテーブルと数脚の椅子が置いてあった。そして、テーブルの上にはたくさんの地図や何かが書かれた紙が乱雑に置かれていた。作戦室のようだ。
だが、テーブルの上のものよりも、朱栞が真っ先に目に入ったものがあった。
それは一番奥の壁にかけてあった、鏡だった。銀色のフレームは、豪華な彫刻があり、複雑で繊細な草模様が描かれていた。そして、顔の高さにある鏡の表面がゆらりと揺れているのだ。朱栞が目の前に立っても、顔が歪む。
「鏡、だよね。魔法で歪んでいる」
朱栞が鏡に更に近づいた。
すると、その歪みから人の顔が浮かび上がったのだ。
強面で瞳は厳しく、声から想像した通りの男性だった。けれども、年齢は若い。肩まで伸びた少し白髪混じりダークブラウンの髪を後ろで縛ってる。そして、夜中だというのにその男は正装なのだ。そう、ラファエルが婚約式をした時より少し豪華だが同じような服。それを見て、朱栞はすぐに王族の人間だと理解した。
そして、深く頭を下げた。
「も、申し訳ございません。王族の方とは知らずこのような服装で御前に立ってしまい……」
「よい。こんな夜中に読んだ私が悪いのだ。顔をあげろ」
「はい……。初めて御目にかかります。私は異世界の日本という国から参りました。シュリ・シガと申します。ラファエル様に助けられ、この城へ住まわせていただいております」
「私はこのシャレブレ国国王アソルロだ。異世界人であり、ハーフフェアリ、シュリよ。よくこの世界に来てくれた。歓迎する」
シャレブレ国現国王であるアソルロ。
まさか、国王が目の前に現れると思ってはおらず、朱栞は驚き目眩を覚えた。
先にしっかりと挨拶をしておいた自分を褒めながら、朱栞は必死に作り笑みを浮かべ、国王の顔を見つめる。
国王自ら朱栞に会いたかった理由は何故か、頭のなかで考えてみたが全く検討もつかなかった。それとも昨日の朱栞の身勝手な約束について、もう知っているのだろうか。
朱栞は国王の次の言葉を、恐れながら待つのがとても長く感じた。
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