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30話「王子、耽溺する」
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★★★
この日のために、自分は頑張ってきたのではないか。
まだ終わってもいないのに、ラファエルは幸せを噛みしめていた。
契約でしばりつけた、偽りの婚約という関係。
彼女の気持ちは別の男に向いていると思っていた。いや、実際穂純という男が好きだったのをラファエルは知っている。
けれど、彼女と一緒に過ごしていくうちに、シュリが自分に気を許してくれているなと感じる事も多くなった。頼ってくれて、甘えてくれる。そして、異性の自分と一緒に寝てくれるのだ。嫌いであったら絶対に許してはくれないだろう。
だから、少しは期待していたし、仮でも婚約を結んだ関係だったので安心はしていた。
だが、こうやってシュリの方からキスをしてくれた。
それが叫びたくなるほどに嬉しかった。
「キス………それって………」
「……ラファエルの事を何よりも考えているなって、自分で気づいたのは最近なんです。……あなたとの生活を考えたから、本を作る事を決めたの……。だから、大切な人が犯罪者になったから乗り換えるわけではないのはわかっていて欲しい、です」
そんな事はわかっている。
君がそんな人間ではないことも、もしそうだとしてもシュリが愛しいと思ってしまっている事を。それに、自分に気持ちが向いてくれるならばそれでいい。
惚れた方の負けと、シュリが居た世界でそんな言葉があったが、本当にその通りだなと思う。
「夜になったら、俺からするね」
「ラ、ラファエル……」
「俺はずっと我慢していたから。けど、キスをするなら君の唇がいい。今だと、出来ないから、だから夜まで我慢する」
そう言って、ラファエルは自分の小指で彼女の唇に触れる。
この小人のような小さなシュリも可愛いけれど、やはり抱きしめて、キスを交わしたいと思うと、夜の姿を求めてしまう。昼は可愛さに癒されて、夜は綺麗な彼女を求める。なかなかそれもいいな、と笑ってしまうのだ。
「じゃあ、昼間のキスはシュリからで、夜は俺からキスにしようか。うん、いい考えだ!」
「わ、私からキス……。それは無理だよ」
「何で無理なの?さっきしてくれたのに?」
「だって……恥ずかしいじゃない」
何で、今は朝なのだろうか。今ばかりは、明るい太陽の光を恨んでしまう。妖精の姿ではなかったら、今すぐに抱きだきしめて、キスをして、ベットの中に引きずり込んでしまっていただろうな、とラファエルは思った。
「…今すぐに魔法で夜にするか」
「え!?そんな事できなるの?」
「冗談だよ。出来たとしても、みんなが困ってしまうだろうからね。大人しく、夜まで待つとするよ」
ラファエルはそういうと、朱栞が居る枕元にまた頭をつけて横になった。
「大丈夫?傷が痛むの?」
「いや、昨日はあまり寝れなかった。うとうとはするんだけれど、ね。君がいないと寝れない体になったみたいだ。だから、今隣にシュリが居て急に眠くなった」
「傷を癒すためには寝るのが1番よ。だから、ゆっくり休んで。ラファエルが寝るまでここにいるわ」
「寝ている間は?」
「じゃ、ここで作業をする。けど、タイプライターの音は結構うるさいわよ」
「俺にとっては子守唄になるだろうな」
「わかった。……おやすみ、ラファエル」
「おやすみ。君がここに居てくれて俺は嬉しいよ」
ラファエルなニッコリと微笑むと、朱栞の前に手を置いた。すると、彼女は意味がわかったのか、その手に小さな手を重ねてくれる。
その瞬間にラファエルはウトウトし始めてしまった。昨晩寝れなかったのは本当だ。もしかしたら、寝ていたのかもそれないが、それでも何度も起きたような気がしたし、穂純の事を寝ながらも考えてしまっていた。だから、今ごろに眠くなったのだろう。
けれど、先程まではすぐに起きて報告などを済ませなければいけないと思っていた。それなのに、シュリと話し、彼女の体温を感じただけで、体は動かなくなってしまった。彼女に甘えているのだろう。
ラファエルは、口元が緩むのをもう誤魔化せなかった。
きっと、熟睡できる。
体力も魔力も戻って、完璧な状態になってから、また臨もう。
そう思い、ラファエルは目を閉じた。
だが、この甘えをラファエルは後悔することになると、この時は思いもしかったのだった。
☆☆☆
ラファエルはあっという間に寝てしまった。
繋がった手からは、ゆっくりとした呼吸が伝わってくる。やはり、怪我のせいで彼は体を休めなければいけないのだろう。怪我の具合はまだ安心はできないけれど、穏やかな寝顔を見るとホッと出来た。
ラファエルとの時間は、朱栞に安らぎを与えてくれる。そして、彼ともっと共に居たいと思わせてくれる。
だから、彼が帰ってこない時間や怪我をして倒れた時、朱栞は怖くなった。そして、彼といることが何よりの幸せだとわかった。そして、ラファエルへの気持ちも。
自分からキスをしてしまったのは、今となってみれば大胆な事だったかもしれない。
けれど、その時はそうしたいと思った。それが素直な気持ちなのだろう。
朱栞は、そっと自分の唇に触れる。もし今が夜であったなら、彼と本当のキスをしていたのだろう。そう思うと一気に心臓の音が騒がしくなる。
ラファエルの事が好きだと気付いてしまえば、愛しさは増すばかりだ。
恋というのは、気づいた瞬間から大きくなるのだなと改めて感じていた。
ラファエルは、寝ている間も傍に居て欲しいと願っていた。
朱栞も、彼と同じ気持ちだった。せっかく思いを伝えられて、両想いという関係になれたのだから、ラファエルから片時も離れたくなかった。
「ラファエル、ごめんなさい。やっぱり、私にはやることがあるの……」
朱栞はそう言うと、彼を起こさないようにゆっくりと手を離した。
ラファエルは起きた時に穂純の事を話してくれるだろう。
けれど、きっと穂純の元へは連れて行ってはくれないだろう。ラファエルを攻撃してきたぐらい危険な相手だと判断されるはずだ。そんなところにハーフフェアリという貴重だと言われる朱栞が行けるはずがなかった。
それは朱栞にもよくわかっている。
けれど、朱栞は穂純と会わなければいけない。そう思っていた。
自分がラファエルと共にこのシャレブレ国で生きると決めて、全てがおしまいではないのだ。
朱栞にとって穂純は元の世界では大切な存在だった。それが、異世界に来たからといって変わるものでもない。確かに好きな相手が変わったかもしれないが、だからといって、彼という人間をすぐに嫌いになれるはずもない。
ラファエルや国王の話を信じないわけでもないが、直接会って話がしたかった。
もし本当に妖精の密売に手を染めているならば、理由を聞きたかった。そして、そこから手を引いて罪を償ってほしかった。そう説得したかったのだ。
元の世界の事は記憶がないらしいが、朱栞と出会う事で、もしかしたら思い出してくれるかもしれない。それならば、きっとやめてくれるはずだ。朱栞はそう信じていた。
「すぐに戻ってくるから。あなたが目が覚めるころには、ね」
ラファエルに微笑みかけて、小さな声でそう伝える。
彼には心配をかけない。いざとなれば、ハーフフェアリである巨大な魔力があるのだから。
朱栞は、ラファエルの部屋の窓から、城を抜け出し、こっそりと昨日の爆発音と魔力を感じた場所に向けて出発したのだった。
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