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31話「妖精、仲間が増える」
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「シュリ様ー!」
城下町上空を飛んでいると、朱栞を呼ぶかわいい声が下から聞こえた。そちらを向くと、草原で出会ったホープが手を振っている。もちろん、手には紙とペンを持っていた。
朱栞は急いではいたが、ホープに会いたかった所だったので彼の元へと舞い降りた。まだ決まっていないことだが、彼に本を作ることを教えたかったのだ。
「おはよう、ホープ」
「おはようございます、シュリ様。前回は助けていただいたり、素敵な物語を教えてくれてありがとうございました」
丁寧に頭を下げてお礼を述べてくれるホープ。真面目な彼らしい。朱栞は「いいのよ」と返事をして、すぐに話題を変えようとした。が、どうやら彼も話したいことがあったようで、「シュリ様、これを見てほしかったのです!」と、朱栞に持っていた紙の束を差し出した。前回のとは違い、新しい紙が多いものだったが、1枚目には、満月が写り輝く夜の海が描かれていた。
「また見せてくれるの?」
「シュリ様に見ていただきたかったのです。ぜひ見てください」
「ありがとう。見させてもらうわね」
朱栞が降りたのは、城下町の広場であり、中央には噴水があったこれを動かしてるのも、魔法だと言うから驚きだ。朱栞は、その噴水の近くのベンチに冊子を置いてもらい、そこで丁寧にページを捲った。
「これって……人魚……!ホープ、もしかして………」
ページを捲った先にあったのは、深海で優雅に泳ぐ人魚の姿だった。朱栞の物語を真剣に聞き入っていたホープは、その世界を想像だけで見事に絵を書き上げていた。
綺麗な髪をなびかせ、若い女性の顔をした人魚は、魚などの海の生き物と楽しそうに水のなかを泳いでいた。下半身の鱗はキラキラ光っており、今にも動きそうだった。そして、髪には珊瑚をつけたり、上半身には地上から捨てられてボロボロになった布がまかれていた。地上に憧れている人魚姫。それを表しているようだった。
「異世界での人魚姫はこんな感じでしたか?違うところがあったら、教えて欲しいのです」
「違うところなんてないわ!すごいわ、ホープ。本当に人魚姫の絵本を見ているみたいだわ」
言葉の通り、ホープの描いた絵はとても素晴らしかった。次のページは、人魚姫が荒波の中、王子を助けるシーンだった。初めて2人が出会う場面。緊迫した表情が、伝わってきてハラハラする。他のページでも、人魚姫が人間の姿になったり、人魚姫と王子がお互いに惹かれあったり、人魚姫は王子を殺せずに海に飛び込んだり……1つ1つの絵がとても大切に描かれていたいたのだ。
「よかったです!本当に感動した物語だったから描いてみたくて、お母さんに怒られるぐらいずっと描いてたんだ。でも、シュリ様のお話をお母さんに教えたら、とても感動してたんです。そして、僕の絵もとても褒めてくれたんです。だから、シュリ様にもそれを伝えたかったんです」
「………ホープ」
「本当に素敵な異世界のお話を教えてくれてありがとうございました。また、時間があったら僕に教えてください。また、絵を描いてみたいです」
満面の笑みでそう語るホープの姿を見て、朱栞は目の奥が熱くなった。
自分が書き上げた作品ではないのだから、ここまで感動するのはおかしいのかもしれない。けれど、どうしても嬉しくなってしまうのだ。自分の好きな物語たちを知りたいと思ってくれる人がいる。自分がやろうと思っていたことを喜んでくれる人がいる。
それは、元の仕事でも同じだった。
やはり、異世界の物語を伝えていきたい。
朱栞の意思をこれで強く決まっていった。
「ホープ。まだみんなには内緒なのだけど、私はこの人魚姫や他の異世界の物語を精人語に訳して本にするつもりなの」
「訳して……?」
「異世界の言葉ではなく、こちらの文字で本を書くという事よ。今も作業中なんだけど、完成したら本にするつもりなの」
「わぁ……すごい!それはとても良いことだと思いますっ!!」
ホープはキラキラとした笑みでこちらを見ている。
希望に満ちた瞳。きっと朱栞がラファエルに本を作りたいと話した時もこうだったのだろうな、と少し恥ずかしくなる。だが、今から本を楽しみにしてくれる人がいる。それを思うと、断然作業にも力が入る。
それに、朱栞はホープの絵を見て、また新たな考えが浮かんだのだ。それは、自分でもかなり良い案だと自信がもてるものだった。けれど、それを決めるのは朱栞ではなくホープだ。
「ねぇ、ホープ。その本を作るのに力を貸してかしてくれないかしら?」
「僕が、ですか?僕でお役に立てるのなら頑張りますが。僕は絵を描くことしか……」
「絵を描ける事が素晴らしいのよ。こんな綺麗な絵を描ける人はなかなかいないわ。だからね、私が作る本の表紙や挿絵を描いて欲しいの。この人魚姫のように」
「え……僕が、本に絵を?」
「えぇ、そうよ。私はあなたの絵に感動したの。あなたが私が伝えた異世界の物語に感動したように、ね。だから、私と一緒に本を作らない?もちろん、報酬は支払うわ。と、言っても私はお金を持っていないから、ラファエルと要相談になるけれど……」
「シュリ様、ぜひその依頼受けさせてください。僕の絵が本に載るなんて夢のようです。嬉しいです」
ホープの瞳からはボロボロと涙が溢れてくる。
彼の絵に対する熱意は相当強いものなのだろう。感動しているのか、顔を赤くしながら泣いていた。
「母さんも喜びます。とても名誉なことだ、と」
「ホープ、まだ本は完成していないのよ。今から頑張るのだからね」
「はい!精一杯務めさせていただきます。シュリ様、どうぞよろしくお願いします」
自分の描いた絵を抱きしめて泣きながら笑うホープの表情は、とても輝いて見えた。
彼との約束を早く果たすためにも、朱栞にはやらなければいけない事がある。
ホープと別れた後。朱栞は今までで1番のスピードを出して、昨日の爆発音があった周辺へと急いだ。
穂純を見つけて、説得する。
きっとうまくいくだろう。朱栞は、そんな風に思っていた。これが、安易すぎたと後悔するほどに、穂純の闇が深い事を朱栞はまだ知るはずもないのだった。
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