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32話「妖精、再会する」
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ここは夜なのだろうか。
もしかして、ラファエルが本当に夜にしてしまったのか。そう思ってしまうほど、薄暗い場所だった。
ホープと別れてから穂純を探していた朱栞はとある場所に行き着いた。そこには木々で覆われて古びた家があった。古すぎて誰も住んでいないと思われたこの家に、朱栞は目指していたようだった。
「やっぱり……ここで間違いないわ」
誰もいない家の中。
けれど、痕跡は確かにあった。そこには、天井や床に焼けた跡がある部屋があったので。それは火とわかるほど、焼け跡は限定的な場所のみにあったのだ。
そして、そこから昨夜聞いた爆発音の時に感じた魔力が微かに残っていたのだ。
「ラファエルは、ここで戦ったのね。彼の魔力も少し感じられる……」
朱栞は、焼けた床に手を置いた。
そこはひんやりとしている。暖かいこの土地ではなかなか感じられない寒さだ。ここは陽が届かない、夜のような部屋だなと、朱栞は思った。この空き家に何かヒントはないだろうか。朱栞は、部屋の中をゆっくりと移動した。すると、別の部屋で気になるものが置き捨ててあった。それは、空の小さなな牢屋だった。鳥や小動物を入れるほど小ぶりであったが、柵と柵の間が広い。これではすぐに逃げてしまうのではないか。不思議に思い、朱栞はその牢屋に手を置こうとした。が、その直前で何か嫌な空気感を察知して、触れるのを止めた。その牢屋に触れる瞬間に体から力が抜けるような感覚になったのだ。まるで、その柵に魔力を吸われてしまいそうな雰囲気だった。
「何、これは……」
朱栞はその物を怪訝な表情で見つめ、ゆっくりと後ずさりした。
その時だった。不意に背後に気配を感じた。魔力は全く感じなかったのに、何か動くものを視界の端にとらえたのだ。
朱栞が「誰っ!?」と、薄暗い部屋の奥を振り返る。そこには、先程朱栞が居た部屋があった。戦闘のあった、焼けた匂いがまだ生々しく残る部屋。その部屋へと続く扉が開き誰かが出てきたのだ。妖精の密売をしている人間だとしたら、ハーフフェアリである自分にも危険が及ぶ可能性がある。朱栞は咄嗟に魔法を溜めながら後ろを向いた。が、その魔法は無残にも消えてしまう。
「朱栞か?」
懐かしい響きだった。
このシャレブレの世界でも、朱栞の名前をそのものの音は同じだ。けれど、元の世界の人とシャレブレの人とでは、「シュリ」の発音が微妙に違っていた。ほぼ違わないが雰囲気が違うのだろう。精人語と元の世界のどんな言語とでは、同じものはなかった。そのせいか、同じ「あ」であっても微妙に発音が違った。それは、きっと舌や唇の微かな動きの違いによるものだろうが、文化の違いを大きく感じる。
今、「朱栞」と呼んだ人間は、間違えなく元の世界の人間だった。ラファエル元の世界の言葉を知っているからか、元の世界の人々と同じだった。が、声が彼ではなかった。
忘れもしない、声。
大好きだった、声だ。
「穂純さん、どうして……」
久しぶりにあった穂純は、最後に元の世界で会った時とは全く違っていた。
仕事でしか会わなくなっていたので、いつもスーツ姿で、髪型はまとめられ、清潔感があった。だが、今はどうだろうか。少しボサボサの髪に、全体的にラフな格好だった。スマホやPCの代わりに持ち歩いているのは、腰に見えるナイフに代わっていた。もともと細見だった彼だが、今は少しやつれたようにも見えた。
それでも面影は変わらない。そして、綺麗な笑みも。
けれど、彼には聞きたい事がたくさんあった。
どうして、異世界に来ることを選んだのか。
どうして、朱栞と呼べたのか。
どうして、こんな所にいるのか。
それなのに、体と声が震えて上手く言葉が紡げない。
朱栞はただただ、涙が出そうになるのを堪えながら、穂純を見つめていた。
「やっと会えた。朱栞がこの世界にやってきたって婚約式で見たんだ。その妖精の姿になっても変わらないね」
「穂純さん、私……」
「異世界に来たばかりになのに、大変だっただろう。俺もこの世界に来たばかりの時は、結構困った。けれど、今では悠々自適に暮らしてる。ゲームのRPGみたいだよな」
「本当に穂純さん、何ですよね?」
久しぶりの再会だというのに、そんな間抜けな事しか言えなかった。
けれど、穂純は昔の儘の笑顔で綺麗に微笑む。彼の笑みはモデルのように整っているのだ。
その表情がとても懐かしくて、朱栞は胸の奥がきゅっと締め付けられた。
この感覚は、きっと久しぶりの再会で感情が高ぶっているからだ。
私の好きな人は、ラファエルなのだから。
そんな風に自分に言い聞かせて、朱栞は穂純を見つめた。
「久しぶりの朱栞と話しがしたいな。もしよかったら、少し時間をくれないかな」
「はい。もちろんです。私は穂純さんに、聞きたい事がたくさんあります」
「だろうね。じゃあ、決まりだ」
穂純は、そういうと朱栞に手を差し伸べた。
朱栞はその指先にそっと触れる。元の世界では、手なんて繋いだことなどなかった。
両手で彼の人差し指の先を掴むと、穂純は目を細めて微笑んだ。
朱栞は、この手を取ったのは間違えだったのではないか、とその頃になって気づいたけれど、もうその手を離すことなど出来るはずもなかった。
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