極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました

蝶野ともえ

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20話「大切な人たち」

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   20話「大切な人たち」





   ☆☆☆



 『ご迷惑おかけして、すみませんでした』


 畔はそう手話で伝えた後に深く頭を下げた。
 相手はもちろん自分を雇ってくれている社長やマネージャーの根本だ。



 椿生の家に泊まった次の日。
 畔は朝早くから会社へと向かった。椿生は心配して「一緒に行こうか」と言ってくれたが、畔はそれをありがたいが断った。
 これは自分の仕事であるし、自分の判断が間違ってしまった結果なのだ。そこまでは甘えていけないと思った。
 畔は自分でタクシーを使い事務所へと向かった。事務所の前には報道陣がいたが、裏口から見られないように無事に入る事が出来た。
 そうして、社長と根本がくるまでは自分のスタッフにも謝罪して回っていたのだ。
 そして、先程社長室に呼ばれて今の状況になった。


 畔はしばらくの間頭を下げていたが、2人の顔を見なければ会話が出来ない。そのため、畔は恐る恐る顔を上げて表情を伺った。
 すると、社長と目があった。自分より少し年上の若い社長だ。敏腕と言われ、畔を発掘し育ててくれた、畔にとって大切な存在だ。彼が怒った姿を見たことがないぐらいに優しいが、今日は少し苦い顔をしているのがわかる。
 畔の初めてのスクープ報道。対応に困っているのだろう。自分の親のような存在の社長にそんな顔をさせてしまうのは、申し訳なく畔もしゅんとしてしまう。
 しかも、彼はかなりの美男子で、元モデルをしていたというのも納得の容姿とスタイルなのだ。そんなかっこいい男性に怒られるとなると、かなりの迫力だ。畔は、強い言葉にもしっかりと耐えようと手を握りしめて、社長の言葉を待った。


 「hotoRi。今回の事は報道がやりすぎている部分も大きい。確かに私たちに秘密でストリートライブをやってしまったhotoRiにも非があるだろう。そういう時は一声掛けてくれ。心配する」
 『すみませんでした』


 社長は基本的な手話しか出来ない。
 そのため通訳として、根本が代わりに手話をして彼の言葉を伝えてくれる。
 畔は根本の手話を見たあとに、社長の方を向き直して謝罪をした。その事に関しては畔が全て悪いのだから仕方がない。素直に謝った。


 「新曲の方が先に流れてしまった事は仕方がない。それにその動画のおかげで話題にもなっている。良い広告になってくれたようだな」
 『発売日まで気を抜かずに他の曲も作っていきます』
 「よろしく頼むよ。そして、もう1つ。こちらが1番の問題だな」
 『はい………』


 今までの話しは、前置きだと言わんばかりで、社長の眉間にシワが寄った。
 畔は「やっぱり怒ってる」と思い、思わず視線を下に向けてしまう。だが、それだといくら社長が怒鳴ってもその言葉はわからない。
 それは逃げているように思われてしまうのでは、そう思い直して、畔は意を決して顔を上げる。


 「なんで、恋人が出来たのに教えてくれなかったんだ!そんなお祝い事、内緒にすることないだろう?」


 と、社長の表情は怒りではなく、喜びと悲しさでなんとも言えない複雑な表情になっていた。話してくれなかったのが悔しい、そういう顔だ。


 『あの社長………私、最近お付き合いを始めたばかりでして………』
 「でも同棲するんだろ?あのhotoRiが同棲だぞ?男に興味もなく音楽バカで、恋愛をした子ともない、あのhotoRiが………いつの間に大人になったんだ………」
 『あの………私はもう26歳なんですけど……』
 「年齢の問題ではないよ。ちゃんと騙されずに付き合っているんだよな?私は心配で仕方がないよ」


 そんな初めて彼氏が出来た娘を心配する父親のように、オロオロとしている社長の代弁をしている根本も苦笑するしながら手話をしていた。
 畔は、社長は心配していただけで怒っていないようだとわかるとホッとしつつも申し訳ない気持ちになる。
 畔がどう話せばいいか迷っていると、社長が続けて口を開いた。


 「別にどこの誰と付き合っているのか。なんて、聞こうとは思ってはいないよ。………まぁ、どんな奴なのかは気になるが、hotoRiが選んだ男だ。信頼出来る人なのだろう」
 『はい………。社長さんらしいのですが、忙しくても時間を作ってくれてり、いつも私の事を気にかけてくれたり、私の歌を好きでいてくれたり………一緒にいると、幸せな気持ちになれる。そんな素敵な人です』


 椿生の姿を頭に浮かべながらそう説明する。自分で話しておきながら、とても立派で魅力的な人だなと改めて思ってしまう。どうして、自分を選んでくれたのか。不思議で仕方がない。
 有名人だからといって選ぶような人ではないし、ある意味では彼の方が世間では知られているような気がする。

 一人で椿生の事を考えていたが、社長と根本がぼーっとした顔でこちらを見ているのに気づきた。
 自分は惚気てしまったのだろうか。2人は呆れてしまったのだと思い、畔は慌てて『すみせんっ!その………説明不足で……』と、慌てるが、社長は何故かとても楽しそうに笑った。


 「hotoRiがそんな表情で男の話をする姿を初めてみた。歌を歌っている時が1番いい顔をすると思ったが………hotoRiにそんな顔をさせる事が出来る奴ならば大丈夫だろう」


 社長は根本の方を向くと、彼女も同意の気持ちだったようで、微笑みを浮かべ頷いた。
 根本が手話をしてくれなかったので、社長の全ての言葉がわかったわけではない。
 認めてくれたのは何となくわかった。


 「ではhotoRiに恋人が出来たお祝いに食事にでも行くか」
 『え、ちょ、ちょっと待ってください!スクープされてしまった事はどうすればいいのですか?』
 『一般人なんだろう?なら、一般人でその方をお付き合いをしている。別に悪いことしているわけではないんだ。正直に伝えればいい。もちろん、それでいいなら会社からもコメントを出す。ストリートライブをしたのも会社としては怒らなきゃ行けない事だが、悪いことではないからな。あの報道は気にするな。堂々としていろ。それに、今度直接会ってその人から話を聞きたい』

 
 あっけらかんとした表情でそう言う社長。畔はやはり彼は素晴らしい人だと思った。普通ならば大切に育ててきた者が選んだ相手とあっても、どんな人なのかを聞いてくるはずだ。だけど、まずは信じてくれるのだ。改めて社長の寛大さと優しさを感じる事が出来た。


 『hotoRi。そうと決まったら、まずはあなたのSNSでしっかりファンに伝えましょう。あなたの言葉を待っている人もいると思うわ。もちろん、新曲もよ。進みはどうなの?』
 「あぁ。あの曲は素晴らしいね。私も楽しみにしているんだよ」
 『………社長。そして、根本さん。新曲について、私に考えがあるのですが、聞いてくれませんか?』


 話が落ち着いてきた所で、畔はある提案を2人にした。これも、良い事なのかわからない。けれど、良い物が出来ると確信していた。
 だからこそ、信頼出来る2人に相談したいと思った。

 畔が話したものを、2人はどう受け取ってくれるのか。畔は楽しみでもあり、そしてぜひ実現したい。その気持ちで、手話を紡いだ。



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