極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました

蝶野ともえ

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22話「曲づくり」

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   22話『曲づくり』





   ★☆★



 その日は最悪の朝だった。
 叶汰は目覚ましに起こされ、目を擦りながらスマホを確認する。1番始めに行うのはネットニュースの確認だ。デザイナーとして、ファッション関連のニュースを見るのは仕事の内の1つだが、叶汰にとって自分の趣味でもある。

 いつものように有名検索サイトのニュースを開く。トップニュースが目に入るが、いつもならばそれをスルーしてファッション関連を見る。けれど、今日は違った。hotoRiの文字があったからだ。


 「なんだ………?」


 hotoRiの動画が問題になり、騒ぎになっていたのは叶汰も知っている。だからこそ、根本に頼まれて、彼女を助けに行ったのだ。だが、それも必要のない事だった。畔には恋人が居たのだから。
 叶汰はその時の事を思い出し、顔をしかめた。自分が呼ばれることがなくなったし、自宅に畔を招く必要もなくなったのだから、良いことのはずだが、何故かイライラしてしまう。

 叶汰はチッと舌打ちをした後に、そのニュースをタップして、画面に開いた。
 すると、そこに書かれていた事を目の当たりにして、叶汰は目を大きくし口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。

 そこには、hotoRiが動画を公開し、一連の騒ぎの謝罪と路上ライブをした理由を説明したと書かれていた。有名人としての自覚が足りないと書かれていたが、それでも歌への気持ちや自由に歌いたいという葛藤は仕方がない事だとも思われているようで、動画を見た人によって様々な感情があるようだ。それでも、ファンはhotoRiが直接動画で話をしてくれたのが嬉しかったようで、喜びの声も多いようだった。
 だが、叶汰が驚いたのはそこではなかった。渦中の謎の男について、hotoRiが話した内容が問題だった。男は一般人と話した後に、hotoRiにとって大切な人だと明かしたのだ。その言葉が意味する事は恋人だという事だ。
 hotoRiは動画で自分に恋人が出来たという事を明言してしまったのだ。
 あの有名人であるhotoRiと、隠しているが有名会社の社長となれば、かなりのスクープになるだろう。それに、結婚した場合、hotoRiは歌手活動を辞めるのか。それも問題視されるだろう。


 「何やってんだよ、あいつ……!火に油を注ぐような事しやがって。これじゃ、また騒がれるだけだぞ………」


 叶汰はベットから起き上がり、そう呟きながら頭を掻いた。そして、大きくため息をついた。


 「hotoRiのところの社長もどうしてそれをよしとしたんだ?それに、御曹司だって……。付き合い始めなんだから普通秘密にしておくだろ。騒ぎになって困るのは本人だぞ………」



 hotoRiは温かく見守って欲しい事、迷惑にならないように報道は控えて欲しいと話してあるが、報道各社にとってそんな言葉で大人しくなるはずもなかった。



 「それにしても、神水財閥の人間がこれを黙って見ているはずもない。という事はあいつが畔と付き合っているのを隠しているのか。…………だが、隠せるような相手ではないだろうしな」


 叶汰はそんな事を考えながら、冷蔵庫からミネラルウォーターを取りだし、ガブガブと飲んだ。


 「あいつ、少し気になるな………」


 畔の恋人だという椿生という男の顔を思い出しながら、叶汰はそう呟いた。
 口に出すと、ますます気になってしまうから不思議だ。畔は「調べたいなら調べて」と言っていた。

 気づくと朝食の食パンを口に加えながら、叶汰はノートパソコンの電源を入れていたのだった。










   ☆☆☆



 その日から、椿生と畔の音楽制作が始まった。と、言っても彼は仕事で夜や休みの日しか時間が取れないので、昼間は一人での作業になる。椿生は少し曲をアレンジしたいとの事だったので、曲はまだ彼に任せたままで、畔は作曲作業に入っていた。
 

 以前、椿生が畔に「この曲について教える」と言ってくれたように椿生はその曲について教えてくれた。



 『俺は「海のほとり」の後の世界を考えながら作ったんだ』
 『芥川龍之介のですか?』
 『そうだよ。ごく普通のやりとりを交わす間柄に人たちでも、きっと別れる時はくる。進学や就職、結婚、離婚、死別……理由はさまざまだけど。必ず別れはくる。けど、その時でさえ新しい事が始まる。期待感なのか、不安なのかはたまた絶望なのか。それも人それぞれだよ。そんな別れと新しい道や出会いを表したかったんだ。………けれど、海を見れば思い出すんだろうなって。あの日に過ごした時間を』
 『………』
 『海のほとりでは海だけど、もしかしたら学校かもしれないし、とあるカフェや公園かもしれない。そんな思い出の場所も人それぞれだ。それを思い出すきっかけになればいいなーって思うんだよ』


 椿生がノートに書ききったその思いを、畔はずっと眺めていた。
 そのやり取りを書き残したノートと、芥川龍之介の本、そして彼の楽譜を眺めながら作詞作業に取り組んでいた。
 毎日少しずつだが、形になってきている。





 
 『畔ちゃん。ただいま!』
 『………つ、椿生さん!?あ、あれ………もうそんな時間ですか………私、没頭してたらこんな時間に………』
 『忙しいだろうから、お弁当買ってきたよ。今日は食べに行こうか?って、連絡したんだけど、返信がないから、きっと集中しているんだろうなって思って』
 『すみません……。家事はするって決めたのに』


 畔はリビングで歌詞を考えていると、あっという間に時間になっていた。辺りも真っ暗になっている。彼が電気をつけてくれるまで気づかずに作業に没頭してしてしまっていたのだ。
 しかも、椿生からの連絡も気づかなかったというのだから、謝るしかなかった。
 けれど、椿生は全く気にしていないようでニコニコとスーツ姿のまま畔の隣に座った。


 『あの……椿生さん?』
 『おかえりはしてくれない?』
 『おかえりなさい……』
 『ただいま』


 そう言うと、椿生の顔がどんどん近づいてきて、畔の唇にキスをした。唇同士が短い時間で離れてしまうが、彼の距離は変わらない。
 椿生は畔の頬に触れたり、髪を優しく指ですいたりして、畔の事を甘やかす。
 最近はそんな時間が多くなってきて、畔は恥ずかしさから少し涙目になりつつも、そんな時間がとても幸せで愛おしかった。
 彼は朝起きたり、出勤する前や帰ってきた後、そして寝る前にこうやってキスをしたり触れあったりしてくれる。もちろん、ふとした瞬間もあるが、その時間は習慣になりつつあった。『畔ちゃんも、好きなの時にしてくれていいんだけど?』とも言われたが、自分からキスをしたり彼に触れるのはまだハードルが高かった。


 『まだ慣れない?』
 『そんなにすぐに慣れる事じゃないですよ!』
 『そうなんだ……。そういう所がまた可愛いんだけどね』


 そう言って、椿生は畔にまたキスを落とした。
 今日の彼はいつもより甘い。

 畔はノートパソコンから手を離し、彼の胸にそっと手を置く。それが畔に出来る精一杯のお返しであった。
 それに気づいた椿生はうっすらと目を開けて微笑むと、その手ごと包むように畔を抱きしめた。

 新作の締め切りが迫っているのだから、早くすすめないと。そう思いつつも、彼の甘い誘惑に勝てるはずなどなく、ただただ酔いしれるだけだった。



 
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