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32話「嵐の前の幸せ」
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泉は緋色と再会してから、何度となく図書館を訪れては、彼女の姿を探した。
仕事が終わる時間はわかっていたので、その時間に毎日図書館に出向いては、彼女を待った。その図書館の雰囲気も好きだったので、空手の稽古が終わった後、図書館で白碧蒼としての執筆をしている事もあった。
3回目に声を掛けて、ようやく近くのカフェで話しをする事が出来た。ファンタジー小説の好みは昔と変わっていなかったので、緋色と泉はすぐに意気投合した。
好きな事を語る緋色はとても生き生きしており、笑顔がますます輝いて見えた。
その後に連絡先を交換し、すぐにデートに誘った。緋色は今まで恋人がいた事がないと言い、とても緊張した様子だった。「自分も同じです」と伝えると、驚きながらも安心してくれたようだった。
その日のうちに、泉は彼女に告白をした。返事は「まだ出会ったばかりだから」と、首を横に振られてしまった。
けれど、それで諦められるような恋ではないのだ。泉は、その後も何度も何度も彼に想いを伝え続けた。
そして、5回目のデートで泉は、近場のカフェで半日だけ会う約束をしていた。仕事が忙しく、なかなか連絡も出来ず、でも会いたいと思ったので、彼女との予定を入れた。
帰り際に、いつもと同じように告白をした。
「緋色さん。何度も告白してしまって、すみません………。でも、あなたをどうしても諦められないんです。……好きなんです。付き合っていただけませんか?」
帰り道の人気のない公園で、泉は5回目の「好き」を伝えた。
また、申し訳なさそうな顔をして、「すみません」という言葉が返ってくるのだろう。そう思っていたのに、その日の反応は全く違うものだった。
緋色がポロポロと泣き始めたのだ。
泉はギョッとして驚いてしまう。
泣くほど迷惑だったのだろうか。彼女に悪いことをさせてしまった。泉はオロオロしながら、彼女に近づいた。
「ご、ごめんなさい………。泣かせてしまって……」
「ち、違うんです。その、安心したら涙が出てきてしまったんです…………驚かせてすみません。」
緋色は手で涙を拭うと、ニッコリと笑った。
ホッとしながらも、泉は彼女の言葉の意味がまだわからなかった。
「安心……ですか?」
「はい。あの、しばらく連絡が来なくなったので、私が断りすぎたからもう嫌になったのかなって………。」
「………それって………」
緋色は頬を染めながら、恥ずかしそうに泉を見上げる。それだけで、泉の胸はドキッと高まった。
「泉さんとお話しするようになって、毎日楽しみになりました。本の話しをする事を今までほとんどなかったし、あなたはとても優しくしてくれる。けれど、その………今まで付き合ったこともなかったので自分に自信がなくて。断ってしまってました。………けど、泉さんから連絡が来なくなって、後悔したんです。………もっと会いたかったなって。それで気づいたんです。………私はあなたが気になっている、と」
緋色は、照れ笑いを浮かべながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ、泉を見つめた。
泉は、唖然としてしまっていた。
今まで叶う恋だと思っていなかった。年下の自分が彼女に認められるなど思っていなかったのだ。
そして、そんな風に思ってもらっているのも気づかなかった。
「じゃ、じゃあ………俺の恋人になって貰えるんですか?」
「………はい。よろしくお願いいたします」
恐る恐る聞いた言葉に、緋色は小さく頭下げて答えてくれる。
泉はその瞬間、嬉しさがこみ上げてきて、思わず涙が流れそうになった。それを隠すように、緋色は泉の腕を引き、抱き寄せた。
「………あっ……あの………」
「………やっと、やっと俺の彼女になってくれたんですね」
「………はい」
彼女の声が震えて身体に伝わってくる。
抱き寄せている身体が温かく、彼女はこんなにも柔らかくていい香りがして、抱きしめると気持ちよくて幸せになれる存在なのだ、と初めて感じた。
「すごくすごく幸せです。………だから、少しだけ、抱きしめさせてください」
「…………私も嬉しいです。その………だから、しばらくこうして貰いたいです」
こんな可愛い事を言ってくれるのが彼女というものなのだろうか。
いや、緋色が特別なのだろう。
そんな、惚気のような物を感じながら、泉は彼女と恋人になった幸せを噛み締めていた。
それからは、毎日が幸せな日々だった。
仕事帰りに食事に行く事もあれば、休みの日に泉の車で遠出のデートをする事もあった。緋色との時間はとても楽しくて、会えば会うほどに彼女に惹かれていった。
付き合い始めてすぐに、彼女から「暗すぎるところや、時計の音、火は苦手なんです。」と、申し訳なさそうに言われた。もちろん、望から聞いていた事は内緒にしていたが、泉はそれを受け入れつつ、デートの中でそれらを目にしないように細心の注意を払っていた。
そして、望にも彼女と恋人になれたと伝えると、彼はとても喜んでくれた。そして、ある事も教えてくれたのだ。
「実は、緋色が誘拐された後から、彼女にボディガードをつけているんだ。」
「え………」
「もちろん、緋色を誘拐した男が出所した後からだよ。随分、彼女が気になっていたようだから、また事件が起こらないようにと思ってね。」
「いつ出てきたんですか?」
「数年前だ。あの男の会社は潰れたが、まだ金はあるだろうからね。緋色を調べようと思えば調べられる。これからも、ボディガードはつけるつもりだよ。ただ、泉くんも空手をやっているだろう。君とデートの時ぐらいはボディガードは取り止めてもいい」
「そう、ですね………。では、デートの時ぐらいはゆっくりと過ごしてもらいます」
「緋色には知らせてはいないが………ではそうしよう。私に連絡をするのもよくないだろうから、ボディガードの会社の連絡先を教えておこう」
そう言って、泉にその情報を伝えてくれた。2人で過ごして欲しいという彼の配慮だろう。泉は彼に感謝しつつも、気が引き締まる思いだった。
いつ誘拐男が緋色を見つけ出すかわからないのだ。油断出来ない。
だからと言って、ずっと室内でのデートにするわけにもいかない。彼女には、楽しく過ごして笑顔で居て欲しいのだ。
自分が緋色を守るしかない。
そう、心に決めたのだった。
それから、数ヵ月間は何事もなく平和に過ごしていた。
緋色が暮らしていた家にも彼女は来てくれるようになり、そして泊まってくれるようにもなっていた。彼女と同棲をしようとも考え、2階の空き部屋を緋色の部屋にしようかなと伝えると、とても喜んでくれた。ベットも置きたいかと問うと、「喧嘩をしても一緒のベットで寝れば、きっと早く仲直り出来るよね」と言ってくれた。それから、大きなベットを買い2人で眠るようになった。
暗い部屋は嫌いだと言っていたので、彼女が寝る時は間接照明を多めにつけていた。けれど、「泉くんと一緒なら大丈夫な気がする」と言い、最低限の明かりだけでも寝れるようになっていた。
そんな風に彼女も少しずつ克服しながら生活をしていた。
そして、泉は彼女と共に過ごす日々の穏やかさと、温かさ、そして幸せを知ってしまった。
もう決して離れたりなどしない。
そう思っていた。
けれど、運命というのは時に残酷な再会をさせてしまうのだった。
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